『個展を終えて』

高島屋美術画廊Xでの個展が盛況の内に終わった。毎年連続の6回目であるが、出品数も今までで最多の90点近い数!! その内の実に過半数を超える作品が、多くのコレクターの人達のコレクションになっていった。作品が売れるという事は、作品に対する何よりも確かな批評である。現在形の私の仕事が多くの人々に評価されたという事の証しであろう。来年の秋も美術画廊Xでの個展が企画として早々と決まっている。少しづつではあるが、さらに実験性を含んだ新しい領域へと、私の意識はすでに動き始めている。

 

 

個展が始まったのは、未だ暖かさを残した10月20日頃。三週間後の個展が終わった時は晩秋から既に冬への早い移ろいを見せていた。しかしそれでもアトリエの庭には、皇帝ダリアや薔薇が美しい映えを見せており、秋のやわらかな名残りがそこには残っていた。

 

 

 

今年の作品発表はこれで終わりである。しかし、1月からは横浜高島屋での個展が入っている。思い返せば今年も多忙であった。年明けから、中長小西でのダンテの『神曲』を主題とした制作に没頭し、三月に個展を開催。そしてすぐに富山のギャラリー図南の個展の制作。そしてイタリアへの撮影と充電を兼ねた旅があり、その後で、6月に刊行する『美の侵犯 ― 蕪村 X 西洋美術』の三篇(ルオー・マグリット・ミレー)の追加執筆。ギャラリー図南での個展開催。本の校正。そして6月末に『美の侵犯 ― 蕪村 X 西洋美術』が求龍堂より刊行。7月から高島屋美術画廊Xの個展の制作に入り、三ヶ月半で90点近い新作を制作。10月20日からその個展『Stresaの組鐘 ― 偏角31度の見えない螺旋に沿って』を開催・・・・・と続いて来た。「恐るべき集中力」という言葉で私を評したのは池田満寿夫氏であったが、その池田氏自身、銅版画史における名作『スフィンクス』シリーズを、僅か三週間で完成させている。「考えるは常住の事、席に及びて間髪を入れず」と芭蕉は記しているが、実作に入る前の日々の中でイメージは常に発酵と逡巡がくり返されており、実作とは、最後の詰めとしてのフォルム化の謂に他ならないのである。

 

高島屋での個展開催中に信濃毎日新聞の記者の方が会場に来られ、原稿の執筆依頼をされた。今、連載中の『私のなかの池田満寿夫』への執筆である。今迄に細江英公氏(写真家)・窪島誠一郎氏(信濃デッサン館館主)・野田哲也氏(版画家)他、親交があった人が続き、私にその順番が巡って来たのである。私は喜んで快諾したが、おそらくは池田氏のアメリカ時代の作品について書く事になるであろう。多くの人々はヴェネツィア・ビエンナーレ大賞までの作品を評価するが、私はアメリカ時代に見られる特異で豊かなポエジーと、何よりも氏の才能におけるエスプリの巧みさをこそ、最も評価しているからである。原稿の〆切は今月の26日。そして、その翌日からは北海道の岩見沢での4日間の集中講義が予定されている。書き忘れたが、私は今年の7月に福島大学にも講義で訪れていた。今の20代はメンタル面が薄くなったといわれるが、さにあらず、時としてハングリーな鋭い眼光を放つ若い人材もいるものである。そこに自分の20代の「時」を重ねてみるという一興も、また楽しいものである。

 

 

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