フェリーニ

『A・ランボーと私』

昨今の、ただたれ流すだけのCMと違い、昔のコマーシャルにはニヤリとさせる機知があった。例えば、30年以上前であるが、フェリーニの映像世界を想わせる画像がCMで流れ、小人の道化師や火吹き男たちが怪しい宴を催している。そこに、十代で『酔いどれ船』『地獄の季節』『イリュミナシオン』の文学史における金字塔的詩を発表した後、詩を棄て、死の商人となってマルセイユで37歳で死んだ天才詩人アルチュール・ランボーの事が語られ、最後に殺し文句とも云えるナレーションが入る。すなわち「アルチュール・ランボー、・・・こんな男、ちょっといない!!」という文である。そう、アルチュール・ランボー、・・・こんな男、ちょっといない!!

 

18歳で銅版画と出会った私が、最初から重要な表現のモチーフとしたのが、そのアルチュール・ランボーであった。現在、版画作品として残っているのは、僅かに4点であるが、おそらく40点近い数のランボーの習作が生まれ、そして散失していったと思われる。アルチュール・ランボー研究の第一人者として知られるJ・コーラス氏が私の作品二点を選出し、ピカソジャコメッティクレーエルンスト達の作品と共に画集に収め、二度にわたるフランスでの展覧会に招かれたのは記憶に新しい。又、20代から先達として意識していたジム・ダインのランボーの版画の連作は、私の目指す高峰であったが、そのジム・ダイン氏からの高い評価を得た事は、私の銅版画史の重要なモメントであり、そこで得た自信は、今日の全くぶれない自分の精神力の糧となっている。つまり私はアルチュール・ランボーによって、強度に鍛えられていったともいえるのである。

 

18日まで茅場町の森岡書店で開催中の、野村喜和夫氏との詩画集刊行記念展では、私のランボーの諸作も展示され、野村喜和夫氏収蔵のランボーの原書や、氏の個人コレクションも展示されて、異色の展覧会となっている。会期中は4時半から8時迄は毎日、会場に顔を出しているが、17日(金)の野村喜和夫氏との対談も控えている。当日は6時30分から受付が始まり、7時から対談がスタートする。定員制のため50人しか入れないが、聴講を希望される方は、早めに森岡書店まで申し込んで頂きたい。

 

この展覧会があるので、野村氏とはよく話をする機会があるが、つい本質的な内容にお互いが入り込んでしまうので、なるべく対談の時まで入り込まないように自重している。ぶっつけ本番となるが、今からどういう話が展開していくのか、自分としても多いに楽しみにしているのである。とまれ、この展覧会、会期が短いが緊張感の高い展示となっているので、ぜひ御覧頂ければと思っている。

 

 

 

 

 

 

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『目前に迫った三つの個展』

新年あけましておめでとうございます。今年もメッセージのご愛読を宜しくお願いします。

 

さて、2011年の幕明けは寒波で始まった。鳥取までも含めた日本海側は久しぶりの大雪である。私が生まれた福井もかなりの積雪であるらしい。しかし、昔はもっと凄かったと記憶している。田んぼの真ん中にある小学校を目指して集団登校の私たちは進むのであるが、上からではなく、横なぐりに降る雪の激しさで、視界はかすんで全て灰色。目の前にいる数人以外は何も見えない。ただ勘だけを頼りに、小学校が在ると思われる方向を目指して進むのである。この状況を詩的に言えば、フェリーニの映画「アマルコルド(私は憶えている)」の世界。リアルに言えば、映画「八甲田山−死の彷徨」のようなものである。自分で言うのもなんであるが、粘り強い性格は、この体験で養われたように思われる。しかし情緒もくそもない凄まじい吹雪の中で、小学生の私は早くもこう思ったものである。「一刻も早くこの土地を出よう−−−」と。

 

今月の17日から茅場町の森岡書店で個展〈千年劇場−−−ヴェネツィアの「逃げる水」を求めて〉が始まり、2月7日からは、恵比寿にある二つのギャラリー(同じビル内に隣接している)で、二つの個展「十面体−−メデューサの透ける皮膚のために」と「リラダンの消えた鳥籠」の開催が予定されているので、今その制作に追われている。これらの個展を企画された三人のオーナーの方々は、センスの高さに加え、強度に洗練された美意識を持っているので、そのハードルの高さが、私を追い込んでいくのであるが、これは表現者として理想的な形だと思う。各々の個展の詳細は追って又、お知らせします。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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