リヨン

『1888年、その年は・・・。』

前回のメッセージで、厚い本と定規が写っている画像を載せたところ、「これはオブジェですか!?」という問い合わせが何件かあった。まぎらわしい展示ではあるが、これは作品ではなく、今回の個展の着想の舞台裏を見せた一種のディスプレーなのである。

 

 

写真では判読出来ないが、本の表装には1888年とリヨン(フランスの地方名)の文字が記されている。今回の個展のタイトル「密室論 – Bleu de Lyon の仮縫いの部屋で」の原点である。本の中には1888年時の書類がぎっしりと詰まっていた。その書類の束が入った本状の物を見つけたのは、パリ六区、ジャコブ通りにある不思議な物を多く商う店である。1888年の文字をその本の表に見た時、高額であったが私はためらわず、それを購入した。1888年という数字が私の想像力を強く煽ってきたからである。

 

 

 

1888年、その年のヨーロッパは、犯罪史的にも美術史的にも不穏な年であった。前年(1887年)に、シャーロック・ホームズが『緋色の研究』で登場したのを幕明けとするかのように、1888年にロンドンには切り裂きジャックエレファント・マンが同じ時期に同じ場所(イーストエンド地区)に出現し、ローマでは形而上絵画の絵師・キリコが誕生し、アルルではゴッホの耳切り事件が発生している。それらの不穏な出来事が重なって私の想像力を激しく煽り、私はそこに尽きないイメージの立ち上りを覚えるのである。私はその書類を切り取って、そこにコラージュやペイントを施し、ミクストメディアに作り上げた。前回の作品画像「緑の意匠論」、「廃園 – キュピードのいる庭」、「PAVET – 反対称の庭で」などがそれである。

 

個展は10月10日まで。未だ9日間を残して、既に前回以上の数々の作品がコレクターの方々のコレクションするところとなった。全力を尽くして制作に集中した事が、形となって報われている。表現の完成度の高さにこだわった分、それは確実に人々に伝わっている。

 

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