柴咲コウ

『世界は、イメ―ジという幻で出来ている』

……1年を過ぎてもなお、コロナ禍は収束の気配を見せず、更にはより強力な変異種が現れて、拡大の様相さえ見せている。ネットやメディアの様々な情報が飛び交い、錯綜し、世界はまさに混乱した疑心暗鬼の坩堝と化している。……そんな閉塞感漂う4月のある日、イギリスではワクチン接種が効を奏し始め、新規感染者がピ―ク時から実に9割以上も減少し、死者数も減少に転じているというニュ―スを聴いた。とりあえずは1条の光のごとき朗報ではあるが、しかし、まだ先はわからない。もう少し様子を見なければ、真相はまだわからない。

 

さて今日はイメ―ジの話である。…………少し前になるが、女優の柴咲コウ主演のCMで新歯みがき&洗口液の宣伝に『女優の息』というキャッチコピ―を使っていたのを面白いと思い、ふと目に止まった事がある。……面白い、このコピ―で勝負に出て来たな!……そう思った。女優というイメ―ジも人によっていろいろあるが、その平均値に誰がいるかで、女優の柴咲コウが決まるまでは、幾人もの候補が上がったかと思う。あまり一般人とかけ離れすぎていてもいけない。……しかし、庶民的すぎるイメ―ジの女優はインパクトが足りない。下手をすれば逆効果である。このコピ―にある「息」という言葉に、清楚さと気品がなくなるのである。……かくして、デビュ―当時の突っ張った頃のイメ―ジでなく、少し円くなった今の柴咲コウが、『女優の息』という言葉から放たれる幻想に最も相応しい、……つまり、そう決まったのだと思われる。……「女優」と「息」、この二つの言葉の間に消費者は自らを重ね、イメ―ジが立ち上がって、その商品に手が伸びる。……女優、この言葉のイメ―ジが効果的に一人歩きしていくのである。「女優」……、この言葉から人々が懐くイメ―ジはいろいろあると思うが、共通して、日常性から遊離したある種の華やかさがそこに幻想味を帯びて備わっている事は、間違いのないようである。

 

 

……ある日、私が住んでいる「妙蓮寺」という駅の近くを、昼食を終えた私が散歩がてら歩いていると、いつもと違い、駅前の商店街がざわついていて、人だかりも多い。その人だかりの中から、「女優!」「女優よ!」「女優さん!!」……という声が方々で上がっている。その声が煽る風となって華やぎが増したのか、皆つま先立ちで人だかりの先に熱心に目を注いでいる。見ると、何かのテレビドラマの撮影らしい。……こんなありふれた場所が、撮影の現場になるのかなぁ……。そう思いながら、人だかりの横を通ると、確かに背を向けた女優が一人、公衆電話(おぉ、懐かしい言葉!)を手に、熱心に話している演技の最中であった。(女優?……誰だろう)。「ハイ、カットォ!」監督の声がかかり、その人がこちらをはじめて振り返った。…… その振り返った人は、女優も女優!大女優の……「菅井きんさん」、その人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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