画郎

『未知の方との出会いを求めて』

御覧になって頂いているこのオフィシャル・サイトは、個展を開催している地域以外の方から度々届く御手紙がきっかけに立ち上げられる事になった。それらの文面には、私の作品を見たいのだが地元には画廊が無い為にそれが叶わない。出来れば作品も入手したいし、折々の情報も知りたい・・・・という内容が数多くあり、その点と点が繋がっていないものを繋ぐものとして実現したのである。かつて版画集を刊行した時は、計七つの種類の版画集がいずれもだいたい三ヶ月くらいで全て完売となってしまった為に、版画集を入手出来なかった方がかなりおられる事をその後で知った。その方たちは限定版が全て絶版となった為に、15部のみのAP版の作品を個々に求められる事になるのだが、それもだいぶ残りが少なくなってきてしまった。個展以外では、このオフィシャル・サイトでの作品入手が可能であるが、このサイトを通して自由に作品をコレクションされる方が、最近増えてきているからである。

 

現在個展を開催中の画廊香月のオーナー香月人美さんは、前回のメッセージで記したとおり、美術家の池田龍雄さんからの御紹介でお知り合いになれたわけであるが、画廊で香月さんとお話をしていて、なかなかに人間として多彩であり、ギャラリストとしても逸材の人であるという事がわかってきた。人生は一度きりである。故に良き人との出会いは大事な意味があるのである。私は先達の池田龍雄さんに感謝しなければならない。画商とは企画一本で貫いている精神が骨太の画廊主のみを指すわけであるが、その本当の意味での画商が少なくなってきた。香月さんは勿論、この画商と云える数少ない人であるが、この人の強みは、その人間性の豊かさゆえに、全国からこの画廊を訪れる人が多いという事である。私が画廊にいると、そういう未知の方との出会いが多く、今回はいろいろな方を知る機会が一気に増えた。何しろ画廊を訪れる人が多く、人の絶え間がないのである。そして嬉しいのは、その方たちの求めているものと、私の作品が照応し、大作の銅版画『ドリアンの鍵』や一点物のオブジェがかつてない勢いでコレクションされていっている事である。ちなみに『ドリアンの鍵』は、〈二次元のオブジェ〉という言葉で私が表現している代表作であるが、最近この作品に対する評価が更に高まってきている事は、作者として嬉しい手応えを覚えている。

 

かつて池田満寿夫氏は「作者にとって最大の批評は、その作品がそれを賞賛する人にコレクションされる事である。」という名言を記しているが、これは至言である。それを証すように、初日の個展が始まる時間の前に地方から早くも画廊香月に来られた方があり、その場でまとめて四点の作品を購入された事は、この個展に際しての私の大いなる励みになっている。又、私が画廊に不在の時に来られた方がおられたが、後で香月さんから、その方が100点以上も私の版画やオブジェ、そしてコラージュをコレクションしている日本でも代表的なコレクターである事を知った。勿論、私にとっては未知の人である。最初に記したように、私の存じ上げない方も含めて、全国にはかなりのコレクターの方がおられるが、実際に個展が出来る機会は限られているので、このオフィシャル・サイトでの情報発信を続けながら、まだ出会ってはいない、しかし私の表現世界と感覚が直結する人たちとの出会いを求めて積極的にやっていきたいと思っている。安定を求めず、常に新しいイメージの狩猟場へと感性を動かしながら、表現者一本だけで生きているわけであるが、この崖っぷちに身を置く事でのみ、はじめて見えてくる絶景というものがある。そして、その凄まじい絶景の享受こそが、プロのみに体感出来る醍醐味であると思っている。表現者にとって〈安定〉こそは、メンタリティーの落ちる最大の敵なのである。

 

昨年の秋から八ヶ月で八回、毎月異なった個展を開催して来たが、五月には、思潮社から刊行される、詩人・野村喜和夫氏との詩画集刊行記念展があり、六月は東京の不忍画廊で『名作のアニマ ー 駒井哲郎・池田満寿夫・北川健次によるポエジーの饗宴』が予定されている。画廊香月での個展は残り二週間となった。自信作を集中的に展示した密度の濃い集大成的な内容になっているので、ぜひ御覧頂きたい今回の個展である。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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