24歳

『24歳の手紙』

中長小西での個展が盛況のうちに終了した。新しく作ったばかりの新作オブジェの多くがコレクターの方々のコレクションに入り、私は表現者としての手応えを覚えながらアトリエに戻った。

 

部屋の明かりをつけると、6枚からなるFAX文が届いていた。発信先は池田満寿夫美術館。先日、個展会場に来られた学芸員の方から、池田満寿夫氏の遺品の中から私が氏に宛てて書いた手紙が出て来たという話を聞かされており、ぜひ読んでみたいという私の希望を受けて送られて来たのである。それは、新宿の中村屋で氏と初対面を果たした直後に書いた手紙であった。以後、何通もの手紙を私と氏は交わしているが、氏から届いた何通かは今も私の手元にある。・・・・読んでいく内に今の私と24歳時の私が重なり、銅版画に自分の存在の意味を見出していた頃の自分が立ち上がってくる。手紙には、写真家アジェへの想い、美術家たちの認識の低さへの怒り、自分の文体といえるものを早く確立したい事への焦り、メチエへのこだわり、今作っている作品の事・・・・などが青年らしい気負いで綴られている。この手紙を出した直後に、池田満寿夫氏は私をプロの作家にすべく、初の個展をプロデュースし、美術評論家の中原佑介氏がコミッショナーとして、私を東京国際版画ビエンナーレ展の日本の代表作家に推薦されるなど、いきなり作家としての地歩を固められたわけであるが、手紙はそれ以前の、いわゆる夜明け前の気分に充ちていて、我が事ながらいじらしい。長い時を経て突然現れたこの手紙は、「初心忘るべからず」という意味でも、実に好機な物なのかもしれない。そう、初心忘るべからず。先人達の残したこの言葉の含む意味は大きい。

 

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