『新たなる表現の地平へ』

日本橋高島屋・美術画廊Xでの個展が盛況のうちに終了した。そして、多くの作品が縁という出会いを経て様々な人のコレクションに入っていった。これからは、その人達が作品との長い対話を交わしていく、もう一人の作者になっていくのである。…長かった個展が終わり、私はアトリエへと戻って来た。そして数ヵ月間にわたった制作の日々を思い出してみた。85点の新作を、およそ2日に一点の速度で次々と立ち上げてきたわけであるが、やはり私の制作速度はかなり早い方かと思う。だからであろうか、私は他の表現者でも、早い人の方を好む傾向が強い。わけても佐伯祐三は、今もなおその筆頭である。また27年前にロンドンの大英博物館で見た、モ―ツァルトの楽譜、そしてその横に並んで展示されていた、ジョンとポ―ルの『Help』の、凄まじい速さで書かれた楽譜を見た時の興奮は忘れ難い。また、詩人のランボ―をモチ―フとした私の二点の版画(今回の画像にその内の一点掲載。掲載本の左からジム・ダイン、ジャコメッティ、私、パブロ・ピカソ)が展示されている、フランス・シャルルヴィルのランボ―ミュ―ジアムで見た、象徴主義の天才詩人アルチュ―ル・ランボ―の詩『イルミナシオン』の直筆原稿を見た時の興奮は忘れがたい。まさしく天啓のごときインスピレ―ション、稲妻捕りの速度がそこからありありと伝わって来るのである。

 

今回掲載した画像の中に、舞踏会をモチ―フにした作品がある。画面下方の45度に開いたコンパスのような金属の断片を手にした瞬間に、たちまち舞踏会のイメ―ジが間髪を入れずに閃いて来て、一気に攻めるように作品が体を成して出来上がるのである。金具と舞踏会が何故、私の中で瞬時に結びつくのか、私自身にもわからない。ただ私の直感がインスピレ―ションを喚んで瞬時に二つを結び付け、『偏角45度から成る舞踏会の情景』という作品へと一気に形象化していくのである。そして、出来た作品を観た多くの人達が、この結び付きからインスパィア―して、一気にイメ―ジを拡げていくのを見ると、私のこの直感は独断にとどまらない普遍性を帯びて、人々の想像力を揺さぶる確かな装置と化しているのを、私は確かな実感を持って数多く見てきた。…この辺りの話を、個展会場に来られた、名古屋ボストン美術館の館長であり、また俳人でもある馬場駿吉さんにお話ししたところ、私の制作速度は、連句を作り上げていく集中した呼吸に重なるのではないか……という鋭い分析を頂いた。その時には、高崎市美術館・学芸員の堤淑恵さんも同席されていて、馬場さんの分析に興味をもって頷いておられたのが印象に深く残っている。……とまれ、個展は終わった。そして、私は毎日会場にいて、自分の現在形をまさぐり、次なる表現の地平を透かし求めていた。そして、次なる展開へと拡がる幾つかの確かなヒントを掌中に得た。来年は前半に既に幾つかの個展開催が決まっており、また10月からは日本橋高島屋での次なる個展も決まっている。更には、6月から9月までの長期に渡って、福島にある美術館での私の個展開催も決まり、またその前の2月にヴェネツィアでの写真撮影も入っている。……ただ、今は少しだけの休憩をとって、じっくりと読む事が出来ないでいた読書に浸りたいのである。読書、……これもまた豊かな充電とエッセンスの吸収になるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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