毛利衛

『市ヶ谷は、意外にも華やかだった』

……先日の10日の6時から、市ヶ谷アルカディア(私学会館)で、第五十六回歴程賞の受賞式があり出席した。……2011年に宇宙飛行士の毛利衛さん・山中勉さんが宇宙ステ―ションから『宇宙連詩』を発信したのが評価されて歴程特別賞を受賞して以来、私は七年目・2回目の受賞となる由。受賞した理由は、私の全業績に対してとの事で、作品が持っているポエジ―の具現化がその理由であるらしい。「自作を、人々の想像力を煽り、ポエジ―を立ち上げる為の詩的な装置」と昨今、特に強く意識しはじめているだけに、確かな後押しとなるタイムリ―な時期での受賞だったかと思われる。……歴程同人が内輪で集まった渋くて地味な式かと思って会場に入ると、意外にも実に華やかな雰囲気の中、100名以上が入る大きな室内のメインテ―ブルに、私や他の受賞者の名前が大きく記されていて、大切な友人・知人の方々が次々にたくさん来られたので、私は嬉しさと驚きでテンションが上がってしまった。予想よりも遥かに大きな、まるで結婚式か出所祝いのような賑やかな式だったのである。……私を含む三人の受賞者各々に、その人物について語るスピ―チの人が付き、私の場合は、美学の第一人者である谷川渥氏が、表現者としての私の像について実に雄弁に語られて、会場にピンと張り詰めた心地好い緊張感が漂った。谷川渥氏、さすがの役者であり、これ以上の人物は他にいない。氏の明晰な分析によって語られていく私の像について聴きながら、まるで名医の執刀によってさばかれる病める患者のような気持ちで、実に興味深く拝聴した。なるほどという部分と、そうか、そういうふうに映っているのか……という箇所が交錯して実に面白かった。……谷川氏に続いて、私は自作とポエジ―について語り、ランボ―にのめり込んだ20才の頃の話、駒井哲郎さんとの出会い、瀧口修造・西脇順三郎・吉岡実……といった今では伝説の中に入りつつある人との幸運な出会い、……また天才詩人アルチュ―ル・ランボ―の肖像をモチ―フとした拙作が、ジャコメッティ、ピカソ、ミロ、クレ―、エルンスト、ジム・ダイン……といった20世紀を代表する美術家達と共に選ばれて、ランボ―の生地のフランス・シャルルヴィルのランボ―ミュ―ジアムで展示された事や、その2年後にもパリ市立歴史図書館で展示された時の手応えある展示の事などを話した。そして、私は既に美術という狭い分野を越境して、今は独自なところから制作をしているという、自負にも似た認識を語って、スピ―チを終えた。……私は賞というものに、権威や名誉や、また徒な意味を抱いてしまうような凡夫ではないが、ポエジ―の可能性を、言葉による詩表現だけにとどまらず、各分野にもその対象者を探して顕彰するという高い理念を持っているのは、この国に於いては歴程賞だけであるので、私はその純度の高さに於て、快く今回の受賞を快諾した次第なのである。……さぁ、明日からはその事も忘れて、新たな表現の場へと進んで行こう。……次回は、再び観た『デュシャン展』について、新たに気付いた事などを書く予定。……乞うご期待!!

 

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『 お知らせ 』  

この国の各分野には様々な賞があるが、わけても特異な意味合いを持っている賞と云えば、例えば詩の分野における「歴程賞」がそうであろうかと思われる。この賞は、詩誌『歴程』が島崎藤村を記念して創設された賞であるが、この文学賞の他と違う点は、受賞対象が詩人だけに限らず、その表現がポエジ―を中核としたものであるならば絵画、建築、音楽、映画……もその対象になるという点が特徴的であり、他に比べてある意味、純度が高いように思われる。……私がこの賞の存在を知ったのは、1984年にマッキンリ―で遭難した登山家の植村直巳さんに対して、生前の1975年に〈未知の世界の探求〉という受賞理由で歴程賞が贈られる事になった時に、なかなか理念の高い評価をする良い賞だと思った事が始まりであった。とは云っても、金子光晴大岡信・吉岡実高槁睦郎吉増剛造……といったこの国の代表的な詩人諸氏の受賞者が名を連ねているが、それでも時として、1993年には画家の岡本太郎の全業績に対して歴程賞が贈られ、また宇宙飛行士で日本科学未来館館長の毛利衛さんが、日本宇宙フォ―ラム主任研究員の山中勉さんとの共同プロジェクトで行った「宇宙連詩」で、2011年に歴程特別賞を受賞するなど、選考基準は相変わらず開明的で幅が広く、なかなかに面白い。そして、その毛利衛さん達以来、7年ぶりとなる歴程特別賞が、先日開かれた選考会で、私が受賞する事が決まり、選考委員を代表して、詩人の野村喜和夫さんから審査経過と、私が賞を受けるか否かの確認も含めた連絡が入り、私は喜んで受諾する事にした。受賞理由は、私の表現者としての全業績に対してであるという。しかし、私はどんなに折々の作品が評価されたとしても、全て次なる作品の習作と切り換えて考えているので、全業績という言葉にピンと来ないのが、正直な実感である。……ただ最近の私は、もはや美術という狭い概念を離れて、ポエジ―を立ち上げる〈装置〉を作っているという強い想いを持って制作に臨んでいるので、ある意味、今までに受賞した美術の分野での賞より、遥かに手応えを感じているのは事実である。そして、更に突き進んで行こうとする気持ちに良い糧となった点では、今回の受賞は意義が深いと思っている。……私は油彩画に始まり、版画、オブジェ、コラ―ジュ、写真、美術評論と幅広く挑んでいるが、これを機に、かなり腰を据えて、詩作、そして一冊の言葉の磁場を秘めた不思議な『詩集』を刊行したいという想いが、ここに来て、かなり具体的な熱を帯びて来ているのである。

 

……さて、10月10日から日本橋の高島屋本店6階の美術画廊Xで始まる個展『吊り下げられた衣裳哲学』。制作は熱を帯びて次々に構想が膨らんで、遂に作品数が今までで最多となった。これからは、作品を額装したり、タイトルを付けていく次なる大事な作業へと今は移り始めている。……アトリエから会場の画廊へと移り、会期三週間という時間の中で、云わば虚構が現実を勝って展開する危うさの劇場がまもなく始まろうとしている。……重ねて乞うご期待という言葉を、ここに自信を持って申し上げる次第である。

 

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