モナリザ

『……ブログの連載、十二年目に突入!!』

……ふと来し方を思い返すと、このブログの連載も12年近く続いている事になる。……早いものである。今まで『未亡人下宿で学んだ事』や名優勝新からこっぴどく説教された『勝新太郎登場』など、たくさんの自称名作のブログが生まれて行き、未知の人達とのご縁も増えていった。ネットの拡散していく力である。……多くの読者に読まれている事はなによりであるが、時折、意外な角度からオファ―が来て驚く事もある。

 

……以前のある日、電車に乗っていると突然フジテレビのニュ―ス番組制作部から電話が入り、『モナリザ』の古い写し絵が発見されたので、今夕、ダ・ヴィンチについて番組の中で自説の推理を自由に喋って欲しいという話が飛び込んで来た。訊けば私のブログを毎回読んでおり、また私の本の読者でもあるという。……この写し絵(推察するに弟子のサライが描いた)に関しては私も興味があったので快諾して自説を喋った。……また先日は、TOKYO・MXTVから連絡が入り、これもまたダ・ヴィンチについて、樋口日奈(乃木坂46)やAD相手に番組の中で喋って欲しいので、市ヶ谷のソニ―ミュ―ジックビルに来て欲しい……という突然の話。これは私の日程が合わず、代わりに知人のダ・ヴィンチ研究家のM氏を紹介したが、さぁその後どうなったであろうか……。

 

……また、最近、二つの出版社から、私の今までのブログから抜粋してまとめた本を刊行したいという話を各々頂いたが、これは私のブログに対する趣旨とは異なるのでお断りした。樋口一葉日記や作家達の戦中日記と同じく、私的な備忘録―生きた証しであり、また読者の日々の気分転換になれば……という思いで書いているので、このままが一番いいのである。

 

 

しかし、そういった角度とは違う、このブログへの反響といったものもある。……というのは、昨年に刊行した私の第一詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』を私のサイトで購入出来る方法を載せたところ、購入希望者が一時期ほぼ毎日のようにあり、合わせて200冊以上、署名を書いてお送りする日々が続いたが、さすがに最近は落ち着いていた。

 

……しかし、何故か2週間くらい前から再燃したように詩集の購入を希望される方からの申し込みがまた入るようになり、この2週間で新たに40冊ちかい数の申し込みがあり、詩集の見開きに黒地に銀の細文字でサインを書き、相手の方の署名・日付も書いてお送りする日々が続いている。

 

……しかしなぜ突然、詩集の購入希望者が再燃するように増えたのか知りたくなり、申し込み書に連絡先が記してあるので、失礼ながら謎を解きたくなり数人の方に伺った。……その理由はすぐにわかった。前回のブログに載せた『ヴェネツィアの春雷』(『直線で描かれたブレヒトの犬』所収)の詩を読まれて気に入り、また併せて書いた私の詩に於ける発想法が面白かったというのである。……現代詩はわからない、ピンと来ないと思っていたが、こと私の詩に関しては、その言葉の連なりに酔う事が出来、自分の中から直に自由なイメ―ジが沸き上がり、もっと読んでみたくなったのだという。……かつての中原中也や宮沢賢治がそうであったように、書店を通さない直に購入希望者を募るという方法はアナログ的ではあるが、よりその人達とのご縁が生まれる可能性に充ちており、私はこの方法が詩集のような少部数の出版には合っていると思う。

 

 

 

 

 

……では最後に、第一詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』に入っている詩の中から、三点ばかり、今日はこのブログでご紹介しよう。(詩集には八十五点の詩が所収)……先ずは、前々回のブログに登場した、私が泊まったヴェネツィアのホテル『Pensione Accademia』の真昼時の裏庭に在った日時計を視ながら着想した詩。

 

 

 

『アカデミアの庭で』

日時計の上に残された銀の記憶/蜥蜴・ロマネスク・人知れず見た白昼の禁忌/水温み 既知はあらぬ方を指しているというのに/ヴェネツィアの春雷を私は未だ知らない

 

 

『光の記憶』

光の採取をめぐる旅の記憶が紡いだ仮縫いの幻視/矩形の歪んだ鏡面に映るそれは/永遠に幾何学するカノンのように/可視と不可視との間で見えない交点を結ぶ

 

 

(……この詩は、写真作品の撮影の為にパリやベルギ―、オランダを駆け回った時の記憶を再構成して書いた作品。)

 

 

『割れた夜に』

亀裂という他者を経て/アダムとイブと/独身者は花嫁と重なって/アクシデントに指が入る。/コルセットに感情を委ねて/少し長い指が犯意と化す。/四角形の夜/あらゆる罪を水銀に化えて/アクシデントに指が入る。

 


 

(作品部分)

 

(……この詩は、20世紀美術の概念をピカソとパラレルに牽引した謎多き人物マルセル・デュシャンの代表作『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』から着想した詩。周知のように、未完であったこの作品を運ぶ途中に、トラックの運転手の荒い運転により発生した偶然の予期せぬ事故で硝子の表面に扇情的な美しい亀裂が入り、この作品の最終の仕上げが他者を経て完了したという逸話がある。……私の思念していた「アクシデントは美の恩寵たりえるのか!?」という自問を詩の形に展開したもの。)

 

(作品裏側)

(作品全体)

 

 

 

……さて次回のブログは一転して、舞台はスペインへ。旅人というよりも異邦人と化した私の追憶『アンダルシアのロバ』を書く予定です。乞うご期待。

 

 

 

 

 

カテゴリー: Words | タグ: , , , , , | コメントは受け付けていません。

商品カテゴリー

北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
Web 展覧会
作品のある風景

問い合わせフォーム | 特定商取引に関する法律