北川健次のオブジェ

『梅雨入り前の良き日に記す事』

前回のブログでご紹介した千葉の山口画廊での個展『二十の謎―レディ・エリオットの20のオブジェ』が好評の中、6月13日(月)まで開催されている。私は初日にお伺いしたが、画廊に入るや、画廊のオ―ナ―の山口雄一郎さんによって構成された展示空間の緊張感漂う気配が直に伝わって来て思わず唸ってしまった。……作品の展示の高さ、作品の構成、照明、タイトルを書いたキャプションの作りの巧さ。……いずれをとっても神経の細やかさ、美意識が作品と共鳴し、自分の作品でありながら思わず見入ってしまったのであった。私には珍しい事である。

 

 

 

 

 

 

……画廊にいると、次々と来廊者が来られる。千葉での個展は初めてであるが、皆さん、山口さんとは旧知であることが伝わって来て、たちまち今回の個展に私は手応えを覚えたのであった。机の上を見るとプリントがある。手にとって読むと、それは前回の『画廊通信』とはまた別に山口さんが書かれた拙作についてのテクストであった。山口さんが本展に懐いている熱意が伝わって来て嬉しかった。全文が一気に書かれたと思われる、私の作品の核に言及した文章なので、今回のブログでご紹介しよう。

 

 

《北川 健次   Kitagawa Kenji 》

 

黒く塗られた密やかな箱の中で、絢爛と醸成される幻惑の浪漫、それは不穏に謎めくようなアトモスフィアをまといつつ、ミステリアスな異界を現出させる。鋭利な詩的直感をもとに、解体された無数のエレメントを再構成して創り出された、多様なイメージの錯綜する別次元の時空。このガラス越しに浮かび上がる鮮明な異境を見る時、私達はいつしか非日常の境界に、条理を超えて燦爛たる闇を彩なす、見も知らぬ魔術の領域へと踏み入るだろう。見る者を妖しく誘なって已まない、類例なき「装置」としてのオブジェ、それは巧みに添えられたタイトル=詩的言語のもたらす不可思議の暗示と相俟って、濃厚な意味を帯びつつも決して解き得ない謎を生起する。

 

北川健次──駒井哲郎に銅版画を学び、棟方志功・池田満寿夫の強い推薦で活動を開始、フォトグラビュールを駆使した斬新な腐蝕銅版で、版画界に比類のない足跡を刻む。以降、その卓越した銅版表現を起点に、コラージュへ、オブジェへ、写真制作へ、更には詩作や美術評論へと、ボーダーを超えた自在な表現を展開しつつ、留まる事を知らない意欲的な活動を続けて現在に到る。その極めてユニークな制作は、ジム・ダインやクリスト等の著名な美術家にも賞讃され、アルチュール・ランボー・ ミュージアムやパリ市立歴史図書館等からも出品依頼を受けるなど、名実共に国際的な評価を獲得して来たが、 実は多彩な変容を見せる表現活動の根幹は、或る揺るぎない方法論に貫かれている。

 

コラージュ──前世紀の大戦間にエルンストの「コラージュ・ロマン」という言葉から始まったこの手法は、以降様々な派生形を生みながら、現代技法として定着するに到っているが、その原義を最も正統に継承する者として、のみならずその可能性を極限まで拓きゆく者として、北川健次という存在は他の追随を許さない。コラージュ・ロマンというエルンストの命名は、今や北川芸術の表徴として甦るのである。

山口雄一郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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