地震

にっぽんが揺れている

……最近、かなり大きな地震が日本列島の各地で不気味に発生している。輪島にいる友人のHY君にお見舞いと、くれぐれも注意されたしの電話をしようと思っていたら、こっち(関東)も揺れた。先日の地震で横浜に住む知人は、揺れた瞬間「今日が自分の死ぬ日なのか!」と真っ青なまま大急ぎで覚悟を決めたという。

 

 

……その話を聞いた時に、20世紀美術の後半に「観念の美」を提唱したマルセル・デュシャンの墓碑銘に刻まれた言葉を思い出した。デュシャンいわく「さりながら死ぬのはいつも他人なり」と。

……誠にそうである。たとえどんな断末魔の状況が眼前に迫っても他人は死ぬが、自分だけは何とか生きているだろう。
……日々根拠が無いままにそう誰しもが思っている、この思いは何処から来るのであろうか
……とまれ、この不穏な揺れは今までと違う感じがしてならない。


先日のゼレンスキ―氏電撃来日の報を聞いた時に、その政治戦略方法の巧みさから、坂本龍馬の事が浮かんだ。……薩長連合が締結された夜、寺田屋に戻った龍馬は、龍馬の護衛をしていた長府藩士の槍の名手・三吉慎藏と祝盃をあげていた。そこに幕府・伏見奉行の捕り方約100名に襲撃された。その脱出の際に龍馬は極秘書類である薩長締結の密約書を、懐に仕舞うのでなく、あえて寺田屋の室内に残して脱出したのであった。当然、密約書は捕り方が没収し、その密約は天下公然なものとなり、幕府側は青ざめた。秘密裡に作成された最重要な密書をあえて何故、敵方の手に!?……と考えるのが普通であるが、龍馬の素早い脳の回転は、この突然の難事を最大の政治的好機と捉え、書類を残して脱出した。……結果どうなったか?……薩摩はそれまで対長州の立場であったのが、これで倒幕側に完全にまわってしまった事を知り、薩摩を以後は敵と見なすように方針が定まった。つまり薩摩の変心の可能性とその退路を絶ったのである。……また薩摩の保守層もこれによって封じられ、西郷達の倒幕路線も腹が座り方向が定まったのである。……この機知が成功した事を、後に船上で龍馬と西郷が笑いあった事はよく知られた話である。

 

 

G7会場に招待出席していたインド(ロシア、中国に対してもバランス外交を計り、玉虫色の曖昧な立ち位置にいる)のモディ首相の心中は、この電撃来日の報を知って何を思ったであろうか。……到着早々、ゼレンスキ―氏が先ず対談を行った相手がこのインドの首相である事からその戦略意図が見えて来る。また被爆地広島での開催というイメ―ジの利を活かして、F-16戦闘機他、反転攻勢に向けての武器の交渉も各国の首脳と交渉して畳み込むように成功した。そのゼレンスキ―氏の機を見るに敏の政治センスの冴えと速度の見事さを、私はかつての龍馬に重ね見たのであった。

 

……さて、5月24日(水)から6月12日(月)まで、西千葉にある山口画廊で個展『Genovaに直線が引かれる前に』が開催される。昨年に続き2回目である。今回の個展では新しい挑戦として鉄のオブジェが加わっている。……鉄という硬質な素材の中に孕まれた時間の織りが静かに語りだす物語を、その硬い皮膚の表に開示する試み、その初めての展示なのである。画廊主の山口雄一郎さんの感性は素晴らしく、今回の個展で、昨年に続き極めてハイセンスな案内状を作られたので、それを掲載しよう。また、画廊通信として刊行している冊子に『秘められた系譜』と題して長文の北川健次解読の論考も執筆されている。圧巻の労作である。かなりの長文であるが、ご興味のある方のために一挙掲載しておこう。

 

 

画廊通信 Vol.242 『秘められた系譜』を読む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテゴリー: Words | タグ: , , , , , , , , , , , , | コメントは受け付けていません。

『……去年(こぞ)今年……』

個展が始まった10月半ば頃から急に減り始めた感染者数が、12月の半ば辺りから次第に反転増大を見せはじめ、新顔のオミクロン株なる招かれざる客が欧米を席巻し、今や日本も面的に、その拡がりを見せている。しかし、内実、ジワジワと迫っている眼前の危機は、むしろ地震の方であろう。

 

 

 

 

 

……実は、今年最後のブログは、都市型犯罪として昨今問題になっている自殺願望の犯人からの「巻き添え被害」から身を護る方法について書こうと思っていたのであるが、何故かふと気が変わり、そうだ、地震について書こうと考え直して書き始めたら、正にその数分後の11時33分頃関東地方に震度3の地震が起きた。……私が度々書いている、いつもの予知体験ともまた違う、この直感力。……私は鯰なのであろうか!?

 

……実は昨日、アトリエの奥で、天井の高みまで夥しく積み重なっている作品を入れる硝子の函(約80個くらい)を見て、さすがに地震が来ると崩れて危ないと思い、低く平積みにする作業を終えたばかりであったが、やっておいて良かったと思う、この予感力。……私はやはり、正体は鯰なのであろうか!?

 

……閑話休題、地震についてあれこれ考えていたら、ふと、文芸では地震という主題をどう扱って来たのかが気にかかり、俳句で地震を詠んだのがないかと調べたら、それが続々とある事を知り驚いた。実に数千以上もの俳句があるのである。中でも目立ったのは正岡子規

 

 

・年の夜や/地震ゆり出す/あすの春

 

・只一人/花見の留守の/地震かな

 

・地震て/大地のさける/暑さかな

 

・地震して/恋猫屋根を/ころげけり

 

 

……と.まだ視線は客観的で優しい。他には、幸田露伴の「天鳴れど/地震ふれど/牛のあゆみ哉」。北原白秋の「日は閑に/震後の芙蓉/なほ紅し」……内田百閒の「蝙蝠や途次の地震を云ふ女」……寺田寅彦の「穂芒や地震に裂けたる山の腹」……。例外は、高澤良一という人の句「冷奴/地震のおこる/メカニズム」、……固いマントル、それを深部から激しく揺らす熔けた岩漿(1000度近いマグマ)の関係から地震は起きるので、この冷奴の喩えは、風狂の気取りを装って、一読面白いがいささか俳句の本領からは遠いかと思う。

 

……私の関心を引いたのは京極杞陽の「わが知れる/阿鼻叫喚や/震災忌」・「電線の/からみし足や/震災忌」。……そして圧巻は、1995年兵庫県南部地震で被災した、禅的思想と幻視を併せ詠んだ俳人・永田耕衣の「白梅や/天没地没/虚空没」。……一輪の白梅と、絶体の阿鼻叫喚との対峙、この白梅の非情なる美の壮絶さ。……また詠み人はわからないが、大地震後に襲ってくる、あの背高い津波の是非も無しの魔を詠んだ俳句「大津波/死ぬも生くるも/朧かな」を最後に挙げておこう。

 

 

……思うのであるが、来年の1月中旬から3月末の間にかけて、何やら不穏であったものの極まりが、何らかの爆発の形を呈して露になりそうな、そんな予感がしてならないのは、何も私だけではないだろう。……北川健次、遂に陰陽師として動くのか!?……それとも只の鯰の過剰な妄想だけで、事は収まるのか。…………とまれ、ここは静かに高浜虚子の、去年今年(こぞことし)から始まる名句を挙げて、今年最後のブログを閉じようと思う。

 

……ちなみにこの俳句は、地震ではなく新年が開けた時の虚子の心境を詠んだ句であるが、虚子が住んでいた鎌倉の駅前にこの俳句が貼られた時、それをたまたま通りかかった鎌倉長谷在住の川端康成が一読して、その言葉の凝縮のアニマに打たれ、背筋を電流が走ったという。……昭和25年正月時の逸話である。

 

 

 

「去年今年/貫く棒の/如きもの」

 

 

 

陰陽師・安倍晴明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテゴリー: Words | タグ: , , , , , , , , , , | コメントは受け付けていません。

商品カテゴリー

北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
Web 展覧会
作品のある風景

問い合わせフォーム | 特定商取引に関する法律