日本橋高島屋美術画廊X

『近況―春から続く展覧会の中で……』

4月24日にアップしたブログで、詩人の高柳誠氏からは新刊の詩集が、そして同じく詩人の野村喜和夫氏からは対談集(私との対談も所収)が送られて来た事はご紹介したが、先日は、いまパリに滞在中の歌人の水原紫苑さんが1月の2冊同時刊行に続いて歌集『快楽』を、そして美学の谷川渥氏が『三島由紀夫/薔薇のバロキスム』を、ちくま学芸文庫から刊行し、先日、西麻布でその刊行記念講演が開催され、私も出席した。

 

……ことほどさように、我が文芸の友人諸氏は健筆を振るってますます盛んに表現領域の開拓に意欲的であるが、……ふとその眼差しを美術の分野に転じれば、私と同じ頃に登場した版画家や画家はことごとく、その存在が薄墨のように目立たなくなってしまって既に久しい。全く発表しなくなったか、発表しても、小林旭のヒット曲「昔の名前で出ています」ではないが、同じパタ―ンの繰返し、或いは旧作を弄くっているだけで、その作家における「現在」が無い。特に版画の分野はそのほとんどが死に体のごとく、沈んだ沼の底のごとくである。しかし、その理由は判然としている。未開の版画にしか出来ない表現というのが実は多々ある筈なのに、既存の版画概念の範疇内で作り、複眼性、客観性を欠いた、つまりは批評眼が全く欠けている事に気づいていないのである。

 

「私は版画家だけにはなりたくない」と日記に記したパウル・クレ―の、その文章の強い意思の箇所に、銅版画を作り始めたその初期に鉛筆で線を強く引いた事を私は今、思い出している。…………私は、美術の分野では15年前に、自分が銅版画でやるべき事は全て作り終えたという発展的な決断の元、次はオブジェ制作に専念すべく意識を切り替え、既に1000点以上のオブジェを作り、文芸の分野では、詩作や美術論考の執筆をやら、そして写真も……と、分野を越境して制作しているので、その比較が俯瞰的にありありと見えてしまうのである。

 

私個人の展覧会に話を移せば、4月は1ヶ月間にわたって個展を福井で開催し、5月24日から6月12日迄は西千葉の山口画廊で個展『Genovaに直線が引かれる前に』を開催。……そして今月の10日から24日迄、日本橋の不忍画廊が企画した『SECRET』と題したグル―プ展で、池田満寿夫さん他6名の作家の作品と共に、私のオブジェや版画が多数出品されている。本展では、私のオブジェの中では大作と云える、イギリス・ビクトリア期の大きな古い時計を真っ二つに切断したオブジェ(画像掲載)や、銅版画『回廊にて―Boy with a goose』(画像掲載)も出品しているので、是非ご覧頂きたい。また詩も作品に併せて各々に書いているので、こちらもお読み頂ければ有り難い。……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、10月11日から10月30日迄の3週間にわたって、日本橋高島屋の美術画廊Xで個展を開催する予定で、現在アトリエにこもって制作が続いている日々である。その間にも充電と称して、ブログに度々登場する、不穏な怪しい場所、ミステリアスな場所へと探訪する日々が続いている。……こちらもまた追ってブログで書いて登場する予定であるので、乞うご期待である。

 

 

……さしあたっては湿気の多い病める梅雨なので、いっそそれに相応しい阿部定事件のあった荒川区尾久の現場跡にでも行ってみようかと思っている、最近の私なのである。

 

 

 

 

 

 

 

不忍画廊『SECRET』展

会期: 6月10日~24日 (休廊日:月曜・火曜)

時間:12時~18時

東京都中央区日本橋3丁目8―6 第二中央ビル4F

TEL03―3271―3810

東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線「日本橋駅」B1出口より徒歩1分

東京メトロ半蔵門線「三越前駅」B6出口より徒歩6分

http: //www.shinobazu.com/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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