個展会場から夜半にアトリエに戻ると,パリのパサージュ『ヴェロ・ドダ』古書店の店主であるベルナール・ゴーギャン氏から手紙が届いていた。ゴーギャン氏は文字に個性があり過ぎて判読が難しい。苦労しながらなんとか訳すと,嬉しい事が書いてあった。「今回の個展の図録を有難う。相変わらず感性の鋭い作品で私は大好きである。君のオブジェとコラージュを、パリで展示すれば全部売り切る自信が私にはある。一度こちらでの展覧会を本気で考えてみてほしい。」という内容であった。
ゴーギャン氏は、サルトルやバタイユとも知己があり、ホックニーやウォーホルとも親しく、更に氏自身がハンス・ベルメールの大コレクターとして知られるだけに人脈は広い。パリの文化人として最古参で知られるゴーギャン氏を通して、作品は広く行き渡っていくに相違ない。以前も銀座の画廊で個展をした際に、ルーヴル美術館の近くの画商が来られ、「パレ・ロワイヤル」をモチーフとしたオブジェを気に入り、その場で購入して持ち帰り、今もパリの画廊に大切に掛けてある。しかし、私は寡作であり、作った作品は全て国内でコレクターの方々に行き渡ってしまう為に、海外に広げるには作品数が少な過ぎる。以前にベルギーに近い地にあるランボーミュージアムや、パリ市立歴史図書館で展示された私の作品を見るだけで、今の私は充ち足りているのである。
さて、日本橋高島屋美術画廊Xでの個展は連日多くの方が見えられて盛況である。昨日は佐賀から、そして札幌から、遠方にも関わらずコレクターの方が来られて久しぶりの嬉しい再会となった。わざわざ個展の為に来られたというから本当に感謝しなければならない。このようにいつ、何処から親しい人が来られるかわからないので、私は朝10時過ぎから閉店の20時まで、毎日会場に在廊している。孤独な制作時と比べて、一変した忙しい三週間の会期がまだ暫く、11月10日まで続くのである。