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『桜島を見ながら考えた事』

個展で滞在中の鹿児島のホテルで、夜中にテレビを観ていたら、オリンピックというものに対する欧米人の生な意見が紹介されていて、なるほど!と思った。……彼等の意見の主たるものは「自分の知らない人間が自分より高く跳んでも、早く走っても、それについての関心はほとんど無い。それがどうした!?」というのである。個人の自覚が成熟している故のこの醒めた意見、ちなみに私も全く同感である。海外のオリンピック関連報道で熱く流されるのは、実は番組成立の為に一部の人間を誇張し構成して流しているにすぎず、その実質は冷やかに醒めているのが実態であり、オリンピックよりも、むしろ普段のサッカーや野球の方がまだ熱いらしい。……大河ドラマの『いだてん』が全く人気がなく、悲惨な低視聴率に陥っているのをみると、昔の東京オリンピック時と違い、この国の民もオリンピックなるものの裏の実態が浸透して見えて来て、「スポ―ツ」という名の裏側に貼り付く、ごく一部の企業や人間に利権が集中していくという金まみれの汚れ具合に辟易として来ているのかと思われる。……先だっての台風の被害に遭われた長野、福島……の未だ絶望的な状況にある人達、また地震の被災の爪痕が未だに残っている人達への復興支援金に、オリンピックや桜うんぬんの結局は膨大な湯水と変してしまう膨大な予算を使う方が、税金がまだいくらかは活かされるというものである。

 

 

 

 

……さて、鹿児島のレトロフトMuseoでの個展であるが、1週間の滞在中、画廊には、まるで会社の面接試験のように次々と人が来られて、かなり忙しい日々であった。私の名前は知っていても、遠方ゆえに作品を実際に観るのは初めてという方がけっこうおられて、2回目(3年ぶり)の今回の個展、実現して本当に良かったと思う。画廊の永井さんご夫妻も会場におられる事が多く、ご夫妻を通じて私はこの短い期間に、個性的な、いろいろな方と知り合う事が出来た。その中でも印象深いのは、編集者のH氏である。氏は、文芸誌『新潮』にかつて掲載された私の『停止する永遠の正午―カダケス』という、ダリ・ピカソ・デュシャンに纏わる、謎の多いカダケスという土地を主題にした美術紀行文を読んでいらい私に興味があったらしく、私の個展が地元の鹿児島で開催されるというのを知って楽しみに来られた由。さすがにH氏は編集者である。実に博識であり、私もまた話をしていて面白く、三時間ばかりを氏との尽きない話題の展開に終始した。……沢尻エリカがスペイン滞在時にカダケスにいたとやらで、カダケスの名を久しぶりにテレビで聴いたが、H氏にぜひそのカダケスに行かれる事をお薦めして私達は別れた。……また調香師のYさんという方が来られたので、私は、その香を炊いて嗅ぐと、死者が現れるという『反魂香』を実は長年探していると言うと、Yさんの眼が一瞬鋭く光った。「お主、反魂香の事を知っているのか!!」という、まるで京の朱雀門辺りで陰陽師同士が出逢ったような印象を私は持った。Yさんの言に拠ると『反魂香』は確かに実在するし、調合の秘伝の割合も知っているが、反魂香だけは、絶対に手を出してはいけない、云わば禁忌の香であるという。……私はますます興味が湧いて来たのであった。会いたい死者が現れるという、その『反魂香』。もし樋口一葉が現れるならば、私はぜひ、この禁忌なる香を入手したいものである。

 

……画廊のレトロフトは11時に開くので、その前の時間をみて、鹿児島市美術館に行き、念願だった香月泰男の名作『桜島』を観た。香月は実に絵が上手い。上手いという字より、巧いの方がむしろ合っていようか。(画像を掲載したのでご覧頂きたい)。……桜島を描いた画家は多いが、わけても黒田清輝の『噴火する桜島』のリアルな描写は秀逸であるが、香月泰男の『桜島』は、モダニズムの視点から見てもその上を行っていると私は思う。桜島に、今一つの象徴性が加わって、絵は観照としての深みを帯びて観る人に迫ってくるのである。「油彩画で画かれた水墨画」という形容をこの絵に賛した人がいるが、まぁ当たっているかと思う。画面下段、右側の桜島の煙の描写は嫌らしいまでに巧みであり、表現としての「殺し文句」を帯びてなおも深い。……また、画面左下の黒の描写と、描かない余白の釣り合いが絶妙で、私は他に観客のいない午前の部屋で、香月の画面と対峙しながら、その余白の幾つかの位置に指を重ねて、描いている時の香月の心境を重ね視た。それから画面上部の実に美しいマチエ―ルに、例えばゴヤの、砂に埋もれる犬を描いた名作『犬』の上部空間の実に密度の深いマチエ―ルを重ね視た。……ダリやルドンなどの西洋の作品も観ながら、およそ一時間ばかりを美術館で過ごし、隣接して在る「かごしま文学館」で開催中の向田邦子展を観た。以前のブログでも書いたが、或る深夜に、演出家で作家の盟友・久世光彦さんと向田さんは、この世に在る様々な死に方の名前をつらつらと思い浮かべて挙げるという言葉遊びにふけっていた。……最後に久世さんが向田さんに、「では君の望む死に方は何か!?」と問うと、向田さんはすかさず「爆死!!」と即答した。果たしてその通りに、数年後、直木賞受賞後の絶頂期に、台湾上空で、飛行機は原因不明の爆発を起こし、向田さんは7000m上空で一瞬で散った。……恐ろしくも、実に見事な予言である。……個展が終了した翌日、飛行機は夕方の便なので、朝早くにホテルからタクシ―に乗り、西南の役で西郷隆盛が入っていたという城山に現存する洞窟を見に行き、政府軍の総攻撃が始まった時にその洞窟を出て、更に下り、腹部に被弾した現場、西郷自刃の現場を経て、更に歩き、西郷隆盛ほか、薩摩軍の兵士達が眠る南洲墓地、そして、西南の役の資料が展示されている記念館を訪れた。……館長としばらくお話をして、疑問に思っている幾つかの歴史的な闇の不明点を尋ね、知りたかった疑問は氷解したのであった。……かくして8日間に渡る鹿児島の滞在は終わり、永井さんご夫妻をはじめ、様々な方とお会いした思い出を胸に、私は機上の人となり一路、東京へと帰ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『鹿児島―素晴らしきレトロフト』

……前回のブログで忠臣蔵(赤穂事件)の大石内蔵助について書いたが、先日その勢いで泉岳寺駅近くに住む友人宅を訪ねた折りに、近くにある、赤穂浪士47人の墓がある泉岳寺を訪れた。門を入った先にある墓は、沢山の参拝者が捧げる線香でもうもうと煙っている。しかしそれにしても沢山の参拝者の数である。だが、彼らの多くは墓参りだけを済ませて帰るが、実は泉岳寺の出口近くにある横道を入り、歩く事およそ5分。高松宮邸に沿って入り、左手にある公園の脇を入ると、そこが「大石良雄他十六人忠烈の碑」すなわち、47士が討ち入り後に四家の大名屋敷に分けられて身柄預かりとなり、その内、大石内蔵助(良雄)達16人が預けられた細川藩邸跡がそこであり、また、その場所で大石達が切腹した現場跡なのである。……先日、私は初めてその場所まで行く事にしたが、おそらく行っても、コンクリ―トの上に石の台座があり、そこにかつての「切腹現場跡」を示すプレ―トが彫られているくらいに思っており、まぁついでくらいのつもりで足を運んだのであるが行ってみて驚いた。……公園(かつての細川藩邸跡)内の一画にある、大石内蔵助達が切腹した場所は、彼らの背後に小さな池があり、その前で次々と十六人が切腹したのであるが、鉄柵で仕切られた20畳ばかりのその現場は、水こそ枯れているが、池跡や幾つかの巨石がそのままにあり、そこに湿った葉が繁茂していて、まさに彼らが数日前に目前で切腹したかのような凄惨な余韻を漂わせながら、武士道の鑑として細川藩が大事に(藩の誉れとして)現場跡をそのままに遺して320年もの間、時を潜りねけてなおも、彼らが確かに存在していた!という事実を今に遺しているのであった。曇り空の下、そこだけが更に暗く、赤穂事件と、吉良邸討ち入り、そして本懐の後の切腹斬首があったという事実を生々しく伝えており、私はそこにしばし釘付けになってしまったのであった。……泉岳寺を訪れたならば、そこから僅か5分で行ける大石内蔵助達の切腹した現場にも、ぜひ足を運ばれる事をお薦めしたいのである。

 

 

5日の午前10時に羽田を発ち、12時に鹿児島空港に着く。……空港で出迎えて頂いた永井明弘さんと3年ぶりの再会を果たす。永井さんは、鹿児島の個展会場であるレトロフトMuseoを奥様の永井友美恵さんと共同で運営されているオ―ナ―である。空港から車で鹿児島市内へと向かう。……永井さんによると、桜島はここ最近、度々噴火を繰り返しており、窓ガラスがかなり激しく揺れるのだという。その桜島が錦江湾の彼方に雄大な姿を見せて出迎えてくれる。車はやがて市内へ入り、市の中心地に在るレトロフトに着いた。画廊オ―ナ―の永井友美恵さんと再会を果たし、そのまま展示作業に入った。……展示は二時間くらいで終わり、その後で新聞社の文化部の方が来られて取材があったが、その頃には、まだ個展が始まる前日だというのに、個展の情報を知った人達が早くも画廊に入って来られたのは嬉しい手応えである。会場内で作品の写真を撮ると、窓の向こうにまた別なレトロな建物が映って、気配は1930年代のあたかも魔都上海を想わせる。それが私の作品世界の虚構性とリンクして夢の中に入っていくようで実に嬉しい。……さて私は、久しぶりに念願であったこのレトロフト内の探検に入った。築50年以上が経つレトロフトという、バリのモンパルナス辺りの気配にも似た、このまさにレトロモダンな建物の中は、あたかもピラネ―ジの描いた「牢獄」や、エッシャ―の迷宮的な建物に似て、掴みにくい複雑な構造をした建物で、その中に古書店やカフェ、また自然食の店、また別なカフェが複雑に店舗を構えており、その2階にギャラリ―が在り、その上の階からは40室ばかりが在り、イギリスで学んだという皮製品のデザイナ―のスタジオや、何故か烏賊の絵ばかりを描く女流画家……といった一部屋ごとに様々な人達が住んでいる、……不思議な建物なのである。さっそく、私は古書店で永井荷風の『断腸亭日乗・上下』(磯田光一編と、イギリスで刊行されたブリュ―ゲルの美しい画集を購入した。

 

 

 

 

さて、今回のレトロフトでの個展のタイトルは、『〈盗まれた会話―エステ荘の七つの秘密〉』であるが、このタイトルにはいつもとは異なる秘めた想いが在る。……オ―ナ―の永井明弘さんはミラノで庭園の設計を学ばれていた時に、やはりミラノでテキスタイルの勉強をされていた永井友美恵さんと出逢われたのであるが、昔、縁があって永井さんご夫妻とお会いした時に、私はその出逢いの運命的な話に惹かれ、そこに私のイタリア旅行時の様々な体験を重ねた重層的なイメ―ジが閃き、その舞台をあの謎めいた『エステ荘』に設定して、3年前に鹿児島での個展を開催したのであるが、今回の個展はその更なる展開であり、また永井さんご夫妻に献じたオマ―ジュ展の意味も強くあるのである。現実と虚構がかなり意識的に組み込まれた個展というのは私には珍しいものがあるが、その着想の独自性は、やはり、私の表現世界と入れ子状に交差する、このレトロフトの魅惑的な構造がかなり影響しているように思われる。……今日は個展の初日であるが、早くも多くの方が次々と来られ、また私の作品を以前から気になりながら、なかなか実際に観る機会のなかった人達が来られて、じっくりと熱心に観られているのを実際に見るというのは、作者冥利につきるものがあり、直に自信と確信に繋がっていくものがある。

 

……個展は11日で終わり、今年の作品発表は終了である。その今年最後のレトロフトでの個展。様々な想いを胸に、私の鹿児島での滞在はしばらく続くのである。

 

 

北川健次展

〈盗まれた会話―エステ荘の七つの秘密〉

会期: 12月6日~11日

時間:11時~19時(会期中無休)

場所:レトロフトMuseo

TEL:099―223―5066

〒892―0821 鹿児島市名山町2―1 レトロフト千歳ビル2F

(会期中・作家在廊)

 

 

 

 

 

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『一葉に恋して・本郷編』

先日まで開催していた高島屋の個展に、映画の企画をされている成田尚哉さんが来られて、24歳の若さで逝った、日本初の女流作家・樋口一葉の映画化に触手が動いて来た旨を話された。……7月頃のブログに書いたが、アトリエに成田さんが来られた際に、樋口一葉を、従来の文芸ではなくミステリ―の角度から現代の切り口で立ち上げると間違いなく面白い作品が出来ますよ!……と私は話して、劇画家の上村一夫の『一葉裏日誌』を渡していたのだが、持ち帰って読まれて、次第に企画者の視点から一葉の多面的な面白さ、捕らえ難さが浮かび上がって来たようで、私は嬉しかった。

 

 

 

11月20日の11時に、丸の内線『本郷三丁目』駅で、私は成田さんと待ち合わせて、ある方向へと歩き出した。成田さんに「これから何処に行こうとしているかわかりますか?」と話すと、成田さんは「本郷菊冨士ホテル跡か、樋口一葉の旧居跡!」と言われた。その通りで、私はこれから成田さんを連れて、本郷の坂の下、さらにその坂の下にある、作家を志し始めた頃に母親と妹の邦子と住んでいた頃の井戸が今に残る旧居跡(画像参照)、その石段上に住んでいた金田一京助(石川啄木も頻繁に訪れた)旧居跡、その傍に在った、樋口一葉が金銭的に追い詰められ、意を決して「秋月」という変名で接近した怪しい相場師・久佐賀義孝の旧居跡、一葉がその短い晩年まで通った質屋『伊勢屋』(そのままの姿で遺構が残っている)、一葉が死んだ年に生まれた宮澤賢治が上京して一時期住んだ旧居跡、……等を歩きながら、私は一葉という謎多き天才の魅力について語り、その後に老舗の鰻屋『鮒兼』に入って、嬉しくも成田さんの奢りで鰻重、肝焼き、ビ―ルを頂きながら、なおも語った。……一葉が書き遺した日記(14歳からの)は膨大な頁になるが、その数頁が一葉によって何故か意図的に破られている。また、晩年に樋口一葉宅を多くの文学青年達が慕って訪れ、その光景と彼らの人物像を一葉は詳細に描いているのであるが、何故か、その青年達に交じって訪れていた若き日の泉鏡花については全く触れていない。しかし、敏感な一葉は、只者ではなく、一葉の美を継ぐように文学空間を拓いていく鏡花には、一際覚えるものがあった筈で、その鏡花からの視点も映画の中に取り入れていくと、謎は深まりを見せる筈…………などなど語りながら、そのまま私達は、いま本郷三丁目のギャラリ―884で開催中の私の個展会場へと向かったのであった。今回の個展では、なかなか展示する機会のなかった銅版画作品(10点)をメインに、オブジェ(9点)、コラ―ジュ(9点)、写真(3点)、併せて31点を展示中。会期は今月の30日迄であるが、本展が東京での今年最後の個展になる。……連日多くの方が来られて賑わいを見せているが、近年の中でも最も完成度の高い作品が展示されている今回の個展、ぜひご覧頂けると有り難いのである。

 

 

 

北川健次個展『黒の廻廊―〈切り取られた〉光の記憶』

会期:11月12日~11月30日 11時~18時30分

〈月曜休み・最終日は4時まで〉

会場:ア―トギャラリ―884

東京都文京区本郷3―4―3 ヒルズ884 お茶の水ビル1F

TEL03―5615―8843

 

 

 

 

 

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『大規模な個展終了、そして次へ……』

やく3週間の長きに渡って開催された日本橋高島屋本店・美術画廊Xでの個展が先日、盛況のうちに終了した。今回で12回目になるが、夏にアトリエに来られて「出品作品全てが、今までで最も高い完成度を示している」と分析された、美術部の福田朋秋さんの予見通り、個展初日のオ―プンと同時にコレクタ―の人達が次々に来られ、また、美術館も運営され、私の作品と3年前に出会って以来、既に50点以上収蔵されているS氏が、秘書の方と共に来廊され、今回も鋭い直感力と眼識を持ってたちまちの内に作品が選ばれていき、初日の午前の2時間だけで早くも10点以上の作品が、その人達のコレクションに入っていった。それが幕開けとなって、会期中に都内、また遠方の各地からも、連日数多くの方が来られ会場は賑わった。そして、この賑わいは年毎に高まりを見せている。……私は、「作品の作者は二人いる」という考えを強固に持っている。その一人は、まぎれもなく作品を立ち上げた私。そしていま一人は、それをコレクションし、日毎に様々なイメ―ジを組み立て、長い年月をかけて、その作品と対話していくコレクタ―の人達である。コレクションするという行為はまさしく創造行為であり、特に私の作品をコレクションされている人達は、その意識の高みが高く、美意識が強いという感想を、私は経験的に抱いている。作品とは本質的に匿名であり、故に作品を観て、またコレクションに何れを決めるか!……と考えている時の、会場でのその人達が放つ「気」は真剣そのものであり、鋭い空気が会場に充ちている。作品の前で、いま彼らは自身の観照の意識と向き合って対峙している!……会場にいて、私が最も手応えを覚えるのは、まさにこの瞬間なのである。

 

…………かくして、3週間が過ぎ、個展最終日がやって来た。毎日会場にいる私の疲労も、さすがにピ―クを迎え、最終日は静かな終わり方をすると思っていた。…………午前中から画廊の奥の小部屋では、私の次に開催される個展『現代美術の室礼―村山秀紀の見立て』で特別上映される映像インスタレ―ション『糸口心中』の為の器械設置で、美術家の束芋さんが設営準備に取り組んでいる。そして、個展をされる、我が国の表具師の第一人者である村山秀紀さんが、照明などの事で美術部の人と奥で打ち合わせをされている。……村山さんと「見立て」についての話をし、意見が一致する。どの表現の道も詰まる所の着地点と、その深度は同じなのである。ただ、多くの表現者たちがそれに気づかず、狭い概念を安易になぞっているだけである。……個展最終日も夕方に近づいた頃に、写真家として私が最も尊敬している川田喜久治さんが来られた。川田さんが笑みを浮かべながら私にA3大の硬いカルトンに入ったものを渡された。開けて見ると、昨年の個展の際に私を被写体として背景にオブジェを配した、私のポ―トレ―トを厚い和紙にプリントした貴重な作品である。裏面には川田さんのサインが書かれており、氏の代表作に加え、私はまた一点、貴重な作品を川田さんから頂いたのであった。暫く歓談されて川田さんは帰られた。そして画廊にまた静寂が訪れたと思ったのも束の間、個展最終日を知って訪れた人達で会場が再び人群れで埋まった。……その中に、私は一人の人物(しかし、最もお会いしたかった人の一人)が来られているのを見つけ、熱いものが込み上げた。……アメリカの美術界でもその名は知られる存在であり、私のオブジェを絶賛したクリストやホックニ―とも親しいコレクタ―のW氏が、昨年に続き来廊されたのである。話を伺うと、先ほど成田に着かれ、その足で私の個展に直行された由。……さっそく、展示作品の中から鋭い直感力で、たちまちの内にコレクションの数々が選ばれていった。……かくして、美術画廊Xでの個展は終了した。……来年の会期も早々と決まり、私は福田朋秋さんに、来年秋の個展のタイトルを書いた紙をそっとお見せした。生き急ぐ私は、もう次を見据えているのである。そのタイトルはまだ秘密であるが、次の個展では、更なる展開と実験的な拡がりを暗示すると思われるそのタイトルを見て、福田さんはすぐに私の秘めた意図を了解された。

 

…………11月12日~30日迄は本郷のギャラリ―884で、そして12月6日~11日迄は鹿児島の画廊レトロフトで3年ぶりの個展が開催され、今年の私の表立った活動は終わる。しかし、私の頭の中では、来春刊行予定の初の詩集の為の構想がじわじわと沸き上がっており、またオブジェの新たな領土への模索が既に始まっているのである。

 

 

 

 

 

 

 

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『細部に宿る美の密度』

ここ最近の台風、大雨の勢いは凄まじく、その被害は甚大で、自然が持っている底無しの不気味さが牙を剥いて私達に襲いかかっている。この不気味さは来年、更に勢いを増して私達に襲いかかってくる可能性は大である。遥か500年前に「人類は間違いなく水で絶滅する」とコ―デックス(手稿)に書き記した知の怪物―レオナルド・ダ・ヴィンチの醒めた洞察と断言が、ここに来ていっそうのリアルさを増しているのが気にかかる。……閑話休題、ふとある事に気がついた。日本中が水浸しの観がある中にあって、山形県だけが雨風をかすってほとんど無傷である事に気がついたのである。偏西風の流れと地勢学的なものが絡まって、かの山形県が今、平穏なイメ―ジとして、私の脳裡に在る。以前にこのブログで『山口県』と題して、山口県だけが、地震国・日本の中で地震が極めて少ないという事に気がつき、その事を書いたが、今回は山形県について先ずは書いてみたくなったのである。今、開催中の個展会場に来られたご夫妻と話をしていて、山口県から来られたというので、山口県が地震が少ないのでは!?という持論をしたら「よく気がつきましたね。山口県の人はたまに起きた震度1の地震で、もう大騒ぎしますよ」と言われた。極めてザックリと書くが、地下深くのプレ―トに独自な今一つの層があるのかも知れない。昔訪れた事のある、秋吉台と秋芳洞の特異な剥き出しの白い岩肌をいま思い出して、ふとそう思うのである。

 

……高島屋本店6F・美術画廊Xでの個展『盗まれた記憶―Francesco Guardiの郷愁に沿って』の会期がようやく折り返し地点に入ったが、日を増す毎に来廊される方が増え、二度三度来られる方も見受けられる。これからは遠方から来られる方も増えるので、嬉しく懐かしい再会も待っている。……前回のブログにも書いたが、今回の個展は今までで最高に高い完成度のある作品が数多く揃っているので、それを映すように画廊に来られた方は真剣勝負で作品と対峙し、長い時間をかけて作品が孕んでいるアニマ(霊性)と無言の対話をされている。私が以前から言っているように、作者は二人いる。私はその一人として作品を立ち上げたが、それをコレクションされた方は、以後、長い時間をかけてその作品との対話が続き、その度に異なる作品の変容してやまないイメ―ジを堪能しながら、その人の生が続いていく、つまりはもう一人の作者となっていくのである。今までに作り上げたオブジェ作品の総数は900点近くになるが、今、私の手元(アトリエ)に在るのは未発表も含めて僅かに10点くらいしか無く、コレクタ―の人達に作品が所有され、大切にされているという事は、作家として最高に幸せな事だと思っている。

 

以前に、美術画廊Xで作品画像の資料を作る必要から、新潮社の人とカメラマンが個展時に来廊され、作品撮影をされていた折りに、面白い感想を聞いた事がある。……私の作品を撮影する為にカメラで細部を追っていくと、その細部のどの部分にも凄みある表情があり、何か深い迷宮に入っていくような不思議な感覚を覚えて興味が尽きないというのである。そしてこのような体験は、他の作家の作品を撮影していた時には全く感じない新鮮な驚きであると言う。このような感想は、昨年に私の作品集『危うさの角度』を編集していく際にも、出版社の求龍堂の編集者の方から伺った事がある。……イメ―ジの強度こそが作品の生命であり、美はそれなくしてあり得ないという想いが強いが、その強度な感覚が、作品の細部にまでイメ―ジの執拗な浸透を促しているようにも思われる。しかし、この細部へのこだわりは私だけでなく、例えば、私がコレクションしているルドンの版画『ヨハネ黙示録……これを千年の間、繋ぎおき』に描かれた、とぐろを巻く蛇に拡大鏡を当てて見ると、正に眼前にいっそうリアルで巨大な蛇が立ち現れ、虚構が現実を凌駕して、正に芸術の芸術たる優位がそこにあるのを体験した事がある。幻視者ルドンの自作のイメ―ジへの確信と、この道を進むという信仰にも似た直線性の成せる成果を私はそこに覚えたのである。……その辺りの事を、今、発売中の月刊の美術誌『美術の窓』に『版画のマチエ―ル』と題して、駒井哲郎、私、ルドンについて書いているので、ご興味のある方はお読み頂けると有り難い。……さて、今回の個展、何れも自信作であるが、今回のブログの主題である『細部に宿る美の密度』の為に、何点かの作品の細部画像を掲載しようと思う。……この密度で総数80点以上の新作が展示されている今回の個展。ぜひご来場頂いて実際に作品の前に立ち会って頂ければ幸甚である。(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

〈掲載画像は全て作品の部分〉

 

 

高島屋・美術画廊X

北川健次〈盗まれた記憶―Francesco Guardiの郷愁に沿って〉

会期:10月16日(水)→11月4日(月・休)

会場:本館6階美術画廊 直通TEL (03)3246-4310

 

 

 

 

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『個展〈盗まれた記憶―Francesco Guardiの郷愁に沿って〉高島屋・美術画廊Xにて遂に始まる』

元号が令和になったこの4月から、不思議と集中的に過激な過去にあまり類のない事件や異変が絶え間なく起きているのは何故だろう。その極まりと言っていいのが、この度の東日本を襲った台風(もはやハリケ―ンと言っていい)である。多摩川、千曲川、阿武隈川……といった名だたる数多の河川が氾濫し、甚大な被害が今もその爪痕を残して容赦ない。先日、被害の大きかった長野に住んでおられる小塚一昭さんから電話が入った。被害状況を伺うと、今もなお不便な停電が続いているという。その小塚さんは、ご自身が大変な時期なのに、私の個展の事に意識が強く在り、停電が直り次第、すぐに北川さんの個展を観に行きます!と言われたのには頭が下がり、感動した。……小塚さんは私の作品をコレクションされ始めてから随分の時が経ち、長い間、親しいお付き合いをして頂いている大切な友人である。6年ばかり前に、福山に住んでおられる三宅俊夫さんが、ご自身のコレクション展を福山の美術館で開催された際に私が記念講演をする事になった時には、小塚さんははるばる長野から来られ、羽田から私に同行されて福山に一緒に向かい、三宅さんに案内して頂いて、念願だった尾道や鞆の浦を尋ね歩いた時の思い出は特に忘れ難いものがある。停電が直り次第、私の個展に必ず来られると言われた小塚さん、そして、なかなか個展の時しかお会い出来ない遠方に住まわれているたくさんの懐かしい方々にお会い出来る、この〈個展〉というものには、作品の展示を介在として、様々な嬉しい意味も含まれているのである。

 

……感覚を集中的に作品の制作に注いでいる日々が続き、気がついてみるとアトリエの大きな作業台の上には、形を得たオブジェやコラ―ジュ作品の、約八十点近い数の新作が陣を成すように出来上がっている。それを観て、ようやく今回の個展全体の姿が視えてくる。……8月の初旬頃に、10年以上、毎年の個展をプロデュ―スして頂いており、私がその感性と眼力に絶対的な信頼を寄せている日本橋高島屋本店美術部の福田朋秋さんがアトリエに来られ、作品を観て、今回の作品が今までよりも更に強度を増して来ている、という評価を頂き、それを聞いた瞬間に忽ち、自作への客観的な自信が湧いてくるのを覚え、最後の追い込みに熱が高まってくる。また、搬入した直後、会場である高島屋美術画廊Xに作品80点以上の作品が並ぶや、美術部の金子浩一さんが「今回の個展作品が、今までの中で最高に平均値が高く、充実した完成度の高い作品が揃っていますね」という、熱い評価を頂いた。……私は思うのだが、今まで100回以上の個展を開催して来たが、ひょっとすると、その完成度の高さに於いて、今回の個展が最も充実しているのではあるまいか、そういう確信を、いま個展会場にいて静かに抱いているのである。……更に強度を増し、完成度を高めているという、この自作への批評分析は自惚れではなく、次なる作品の果敢な実験性への挑戦を意味している。とまれ、今回の個展は11月4日まで、休みなく続くのである。(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高島屋・美術画廊X

北川健次〈盗まれた記憶―Francesco Guardiの郷愁に沿って〉

会期:10月16日(水)→11月4日(月・休)

会場:本館6階美術画廊 直通TEL (03)3246-4310

 

 

 

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『川田喜久治・勅使川原三郎―表現の深度に沿って』

個展が終わり、アトリエに静かな制作の時間が戻って来た。……語り得ぬ物、立ち上がらんとする何物かを捕らえんとする、イメ―ジの狩人のようなもう一人の私に変わる事の、緊張と静寂に充ちた至福の時間。…このアトリエでは満ち足りたものと、逃がすまいとする焦燥が混在化して、何とも不思議な時間が流れていく。……………その制作の合間を縫って、二日間続けて、以前から楽しみにしていた写真展と公演を観に出かけた。写真の川田喜久治作品展「影のなかの陰」と、勅使川原三郎ソロ公演「青い記録」である。

 

……川田喜久治さんから個展の度に頂くオ―プニングパ―ティ―のお知らせは、いつも決まって実に昂るものがある。私はよほど本物の表現に接する事に飢えているのであろうか、美術家の個展などには全く見向きもしない私であるが、こと川田さんの場合だけは、暦にその日時を書き込み、逸る気持ちを抑えるようにして、その日を待つのである。 ……今回の個展のタイトルは「影のなかの陰」。実に上手いタイトルで、やられた!!と思った。英語ではshadowの一語しかないが、日本語だと書き分けによって、更に〈かげ〉〈蔭〉〈カゲ〉〈翳〉という文字までも孕んで自著のテクストの中に使い分け、そこに複雑な表情を持った陰影のマチエ―ルが立ち上がる。短い言葉の中に、川田さんが抱く「闇の多彩な透層」というものへの様々な拘りと凝視的な視座が伝わって来て、「タイトルとは、こうでなくてはならない」という感をあらためて持った。この短いタイトルだけで、既にして自らの川田喜久治論が饒舌に内包されているのである。……東麻布にある会場の「PGI」の壁面には、新作の写真作品が、やや間を詰めながら、通過する魔群のような表情を帯びて数多く展示されていた。……昨年辺りから、川田喜久治さんはインスタグラムを始められた由であるが、気軽に発信可能という、その意識のフットワ―クの良さを掌中の武器として、また新たな表現世界を顕在化したように思われる。昨年の高島屋の個展に川田さんが来られた際に、私はその被写体として撮られ、それは数日後には川田さんのサイトにたちまちアップされた次第であるが、私もまた、虚構と現実とのあわいに潜む実体不明な住人の一人と化したのであった。……会場で、黒い仮面を付けた、なんとも強い黒の深度を帯びた女性の写真があり、気になったので川田さんに伺うと、その黒い仮面は、ゴヤの版画『ロス・カプリチョス』中に描かれている仮面を実際に作って、妖しいモデルに付けさせた由。……あぁ、確かにあの作品の中にこの仮面があった……と思いが至ると、そこまでゴヤに入り込んでおられたのか!という、その徹底に驚嘆する。私はかつて「……かくして時を経て、ゴヤの遺伝子は間違いなく川田喜久治のそれへと受け継がれた。」という主旨の文を書いた事があったが、その想いをまた新たにしたのであった。……さて川田喜久治さんの写真であるが、そのほとんどがニュ―ヨ―ク近代美術館やテ―ト・モダン……また国内外の主要な美術館に収蔵されているので、なかなかに入手困難であるが、私のアトリエには奇跡的に、その川田さんの代表作二点(ボマルツォの怪獣庭園の巨大な怪物の顔と、日蝕の闇夜を飛ぶ奇怪極まる怪しいヘリコプタ―を撮した写真作品)が、ルドンやホックニ―、ヴォルスなどと共に掛けてあり、我がアトリエの空間をいよいよ緊張の高みへと誘って私を鼓舞してくれるという、コレクションの中でも、極めて重要な作品であり、その黒のメチエは群を抜いて深く、私に様々な示唆を与えてくれるのである。……さて、この個展は7月5日(金曜)まで。お問い合わせは会場PGIまで。入場無料にて開催されているので、ご覧になられる事を強くお薦めする次第である。

 

……川田喜久治さんの個展を拝見した翌日の6月1日の夕刻、私は荻窪にいた。この荻窪にあるスタジオ「アパラタス」を拠点として、まさしくアップデイト(更新)するように、公演の度に新たな身体表現の未踏の極へと迫って留まる事を知らない、勅使川原三郎氏のアップデイトダンス公演(62作目)『青い記録』のソロ公演の、その日は最終日なのである。いつもながら会場は既にして満員。公演は2部構成(「光の裏側」と「白い嘘」)から成る。……川田喜久治さんの闇の透層への拘りは、写真という2次元であるが、このダンス公演では、川田さんとはまた異なる勅使川原氏の拘りを見せて、3次元の舞台空間に妖しくも劇的に開示されていく。……始まりは闇。……そして薄い光が射すや、舞台空間はあたかも、かつて視た銀閣寺の白砂の枯山水の夜の面のような清浄とした表情が点り、その立ち上がりと共に、影から実体へと勅使川原氏の姿が顕と化していく。……そして様々な光のマチエ―ルの移りと共に、身体による様々な変幻が、不思議な時間感覚の中で揺れ動く。そして、一条の過剰な、刃の切っ先にも似た〈或る意思〉を帯びたかのような鋭い光が、勅使川原氏の身体上部(丸い頭部、肩、腕の直線、……指先の先端まで遍く)を貫いていく。……次に一転して、会場を切り裂くように響く、細い板木が執拗に何度も倒れる音。(これもまた聴覚から強引に入り込んで観者を揺さぶる一つのダンスか!!)…………倒れるようにして倒れる事、或いは絶対に倒れないようにして倒れる事。そのしなやかな背反の身体的トレモロ。……2部に移ると、私達の身体が、僅かな最少の骨と筋肉があれば、そこはもはや感情がかしぎこわれ、或いは逆巻く場としての異形な、形なき皮袋である事実を危ういまでに突きつけてくる。もはやこの段では、勅使川原氏は自らの身体にマネキンのごとき客体〈オブジェ〉性を課し、積算された緊張は、対極の緩やかな官能性の襞までも見せてくる。……極限まで引きつった顔の筋肉の戦慄は一転して、ダ・ヴィンチの描いた聖アンナのごとき慈愛の相へと落下するようにして転じ、その極から極への変容を支える、中空に浮くかのような(静の中に動を内包した)アルカイックな美しき身体は、あくまでも勅使川原氏のものであるが、そこに本作の主題である「身体の記録性―記憶の曖昧なる虚ろ性」が絡んで、つまりは、圧巻的に美しい。本作は、記憶の曖昧なる虚ろさよりも、身体に刻まれた記録こそ、或いは確かなのではないか!?……という設問が核にあるが、私は、勅使川原氏が常に自問していると想われる、イメ―ジと偏角性までも孕んだ〈距離の問題〉も、本作に観て取ったのであった。……かつて私は拙作の作品―或る版画集に『ロ―マにおける僅か七ミリの受難』というタイトルを付けた事があったが、本作を観ながら、私は『僅か七ミリの距離を52分をかけて渡りきる試み』という設問を勅使川原氏に伝えたいという、妙な閃きに捕らわれたのであった。……凡庸な表現者であるならば、「そんなのはダンスの主題ではない」「ダンスを知らない者の戯言」と言って、ダンスの狭い概念に汲々として安逸な顔を見せるであろうが、もはやダンスの概念を越境している勅使川原氏ならば、この七ミリの僅かな距離が、遠大にして不到達な距離としてイメ―ジされ、そこに多層的な解釈が加わって艶までも呈するに違いないと私は思うのである。……敏感な人ならば、私のこの設問が、ジャコメッティのオブセッションに繋がっている事に気づかれたかもしれない。……とまれ、次の勅使川原氏の公演へと、もはや私の関心は跳んでいるのであるが、それは間近の今月17日から~25日にわたって早くも開催される事が用意されている。驚異的な速度である。……『マネキン・人形論』(ブル―ノシュルツ原作)。……その案内の葉書には「無限なき物質的生命の陶酔」と記されている。……こちらも、ぜひご覧になられる事をお薦めする次第である。……お問い合わせはKARAS APPARATUSまで。

 

 

川田喜久治『影の中の陰』

会場:PGI
東京都港区東麻布2―3―4 TKBビル3F
TEL:03―5114―7935
時間:11―19時(月~金)11~18時(土)
(日・祝日/休館)
*入場無料

 

 

勅使川原三郎『マネキン・人形論』
(ブル―ノシュルツ原作)

日時: 6月17 ,18,19,20,日/24,25日 20:00
6月22,23日  16:00〜
*受付開始:30分前、客席開場:10分前
料金:一般 予約 3,000円 当日3,500円
学生 2,000円 *予約・当日共

場所:東京都杉並区荻窪5―11―15
カラス・アパラタスB2ホ―ル
TEL03―6276―9136

 

 

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『個展最終日、近づく』

まだ5月下旬だというのに、気温は30度に早くも達する暑い日が続き、もはや7月の気温になって来た。この異常事は史上初の事であるという。この後に梅雨が訪れ長雨のトンネルがしばらく続いたその先には、昨年の猛暑を超える、更なる炎暑、熱波の夏がメラメラと待ち構えていて、日常の中に〈メメント・モリ(死を想え)〉が蔓延するに違いない。……今回の個展は、そう考えてみると、ギリギリでベストな時期に開催されたように思われる。……今年の12月に3年ぶりに個展を開催する予定の、鹿児島のギャラリ―・レトロフトのオ―ナ―の永井友美恵さんをはじめ、北海道、仙台、愛媛他、遠方からも実に多くの方が遙々と私の個展を観に来られ、本当に有り難いと思っている。この場をお借りして感謝を申し上げる次第である。……さて、残る2日間、最期に如何なる方々の不意の訪れが待っているのか興味津々の個展である。……個展が終われば、10月から始まる日本橋高島屋・美術画廊Xの個展が待っている。今の個展が終われば、すぐに制作に没頭の日々が私を待ち受けている。その集中の日々を想うと、今からぞくぞくとする感覚が立ち上がって来るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『個展開催中―奥野ビルの謎が解けた!!』

前回のメッセ―ジでお知らせした通り、今月の25日まで、銀座1丁目9―8の奥野ビル6階の画廊香月で個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』が開催中である(注..日・水は休み)。会場の奥野ビルは昭和7年から存在しているというから、まもなく築90年になろうとしている。このビルの存在を初めて知ったのは、『日曜美術館』での、ドイツ文学者・種村季弘さんの特集の時であった。……番組の冒頭で、カメラが、このビル内の石の階段を這うように低く、ミステリアスなアングルで映し出されていく。すると、突然、階段の途中で唐突に立て掛けられた、額に入った版画が画面に映し出され、それを幕開けとして、三島由紀夫が最も高く評価していた知の巨人―種村季弘ワ―ルドの世界が一気に開かれていくという流れであったが、観ていた私は驚いた。……何故なら、その版画は拙作の『フランツ・カフカ高等学校初学年時代』であり、種村さんの愛蔵のコレクションだったのである。後日、種村さんにお会いした時に伺ったら、番組出だしのそのアイデアは種村さん自身が考案された由(ちなみに、この作品はカフカの翻訳でも知られる池内紀さんも書斎に愛蔵されている、80年代の代表作である)。……まぁ、それはともかくとして、その番組で、このタイムスリップしたような、帝都の面影を色濃く遺す奥野ビルの存在を知ったのであったが、後日に縁あって、美術家の池田龍雄さんからお話があり、そこで個展を開催する事になるとは、これもまた面白いご縁か。

 

……さて、この奥野ビルであるが、戦時中に何度も銀座は空襲爆撃に遭いながら、何故か、この奥野ビルだけが戦禍を免れ無傷のままに焼け残り今に残ったのだという話であるが、私にはその話に引っ掛かるものがあり、何故に空襲を免れたか……という事にずっと秘かな疑問を抱いていた。しかし、その疑問が解ける日が、今回の個展でやって来た。…………先日、デザイナ―で、私の作品の熱心なコレクタ―でもある久留一郎氏が画廊に来られた。久しぶりの再会なので話題がいろいろと飛び、やがて話がこのビルの話になった時、久留氏の口から、このビルの長い歴史の中であまり知られていない或る時代の事が明かされた。……彼の話に拠ると、このビルは戦時中には、築地の聖路加病院の看護婦たちが住む女子寮であったのだという。……かつては詩人の西条八十も棲んだというが、戦時中にそういう事があったとは意外であった。……その話を聴きながら私には、戦前のある秘話が浮かび上がって来たのであった。

 

……1934年(昭和9年)に、ベーブ・ルース、ルー・ゲーリック達、アメリカ野球のMLB選抜チームが日本を訪れ、沢村栄治らを擁する日本の野球チームとの親善試合が数回、場所を変えて行われた。そのアメリカチームの選手の中にモー・バーグという名前の捕手がいた(かなり格が落ちる二流の選手)。バーグは数試合に出ただけで突然、姿を消し行方がわからなくなったが、それを気にする者は誰もいなかった。……試合が行われている頃に、築地にある聖路加病院の最上階の見晴らしの良い屋上に一人の背の高い男が手にカメラを持ちながら立っていた。……モー・バーグである。彼は野球選手でありながら、今一つの顔は〈スパイ〉であった。バーグは、浅草寺、隅田川、富士山、筑波山……などの要所を基点に入れながら360度、一望に見渡せる広角の連続撮影でパノラマ写真を撮りながら、後に日米間の戦争を見据えての精確な撮影を秘かに行っていたのである。つまり、東京を始めとする、実に緻密な情報が、戦前からアメリカは入手していたのであるから、向こうが遥かに上手である。……私は今も築地の聖路加病院の近くを通ると、その秘話を思い出して、病院の最階上に眼を遣るのであるが、その秘話と絡め合わせると、銀座の奥野ビル近辺への爆撃を意図的に止めていた事が浮かび上がって来るのであった。聖路加の病院名は、新約聖書の福音書『ルカによる福音書』を書いたと云われる聖ルカに由来し、その建物は古くからキリスト教と密接な関わりがあるので、その病院で働く看護婦たちが住む、当時女子寮であったビルだけが戦禍を免れた事は想像に難くない……とも見えてくるのである。……ともあれ、様々な人達のドラマがあり、長い時間の澱が秘めやかに刻印されている、この奥野ビルで開催されている今回の個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』は、いかにもこの建物とリンクして、相応しいタイトルではないだろうかと思っている。……その個展が始まって、会期の三分の一が過ぎたが、まだまだ25日まで個展の日は続く。……そして遠方も含めて数多くの方々が観に来られて、様々な出会いの日々にもなっている。毎日が実に充実した日々がまだ暫く続き、その後は、10月からの日本橋高島屋の個展の為の、今度は一転してアトリエでの静かなる制作の日々へと移っていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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〈個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』今月7日より東京にて開催さる!!〉

前回のノ―トルダム大聖堂炎上に関して書いたメッセ―ジには、多くの方から様々な反響を頂いた。いろいろなご意見があって面白く拝読したが、異質なものとして面白かったのは、美大の後輩で、細密な天使像を描く佐藤弘之君のご意見「聖堂が炎上している時に、あのノ―トルダムのせむし男は、果たして無事に逃げ延びられたのでしょうか!?」という着想は、特に私の気を引き〈しまった、そこまで考えなかった!〉と反省をしたのであった。ウンベルト・エ―コの名を出さずとも、美には醜が憑き物のように付いているので、この佐藤君の閃きには〈負けた!〉と脱帽したのであった。……そう、確かにあの炎上の最中に、ノ―トルダム聖堂の、あの黒ずんだ巨大な鐘を鳴らす男が必死で逃げ惑う様を想像するのは、絵になる光景ではあるだろう。……マクロンは、聖堂を僅か5年で直して見せると発言した。……5年、この早さに何の意味があるのか。何を急ぐのか!?……神無き現代に、聖堂が精神的支柱としての存在への崇高な希求などは、もはやそこにはなく、あえて意味を見るならば、観光資源としての必要からの早急さしか、私には見えないのであるが、はたして皆さんのご意見は如何であろうか。

 

 

 

 

……さて、今回のメッセ―ジで書きますと前回予告したのは、ある意味でノ―トルダム聖堂の炎上以上に大変な事態が、実はル―ヴル美術館で起きており、それを書けば誰もが唖然とする事なのであるが、その惨状を示す画像の拡大したものが、未だ私宛に届いていないので、画像が届き次第書くことにして、……今回は、予告を変えて、今月7日から25日まで、銀座の奥野ビル6Fにある画廊香月で開催される個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』についてのお知らせを書こう。美術家の大先輩である池田龍雄さんから、銀座の画廊香月でぜひ個展を!!と直接の依頼を頂いてから、もう何年になるであろうか。……早いものであり、いつしか毎年、春の個展として定着するようになってしまった。画廊のオ―ナ―の香月人美さんは、かつてラジオのパ―ソナリティや、舞踏家の大野一雄に私淑してその弟子になったりと、その経歴は多彩であり、また未だ謎であり、ために普段私などが知り合う機会のない方面の方々が画廊に来られるので、私自身もまた一興にして一驚の妙があり、期間中は出来るだけ画廊に行くようにしている。また作品への様々な感想も伺えるので、表現者として発展的な日々が、これから約3週間続くのである。……長い連休が続き、郵便の配達が作動しなかった為に、場所によっては、今回は個展のご案内が届かない場合もある可能性があるので、以下に詳しい画廊の住所を記しておこうと思う。……更なる新作の展開をご覧頂きたく、皆さまのご来場を楽しみにお待ちしています。

 

 

『画廊香月』

会期:  5月7日(火)―25日(土)

時間:13時~18時30分まで (休廊:日曜・水曜)

場所:東京都中央区銀座1丁目9―8 奥野ビル6F TEL&FAX 03―5579―9617

(昭和初期に建てられたレトロな建造物で一見の価値あり。今ではロ―マなどでしか見られない、開きの手動エレベ―タで6Fのボタンを押してから、階上へと上がっていく仕組みで、これもまた面白い体験です)

 

 

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