月別アーカイブ: 4月 2013

『個展がまもなく終了』

画廊香月での個展も残り数日(27日まで)となった。今回の大きな成果は、今までに私の作品をコレクションされている方々に加えて、未知の方がかなりの数で、私の作品と直接出会い、コレクションされていっている事である。昨今の、存在感の薄い作品を作る作家が多い中で、「芸術は美と毒と深いポエジーを併せ持った強度なものでなくてはならない!!」という私の信条と、画廊香月のオーナーである香月人美さんの理念が一致しているせいか、この画廊を訪れた方の多くが、その事を理解しており、実に手応えのある個展になっている。今回の個展を勧めて頂いた先達の美術家の池田龍雄さんも時折、画廊に来られて成り行きを見守って頂いている。本当に有り難い事であるし、私は池田さんと御会いする度にとても良い波動を頂きプラスのエネルギーとなっている。昨年の秋から数え、七ヶ月で七回の個展を開催して来た。たいていの作家が、決められた、たった一つの画廊で二年に一回のペースで個展をやっている事を思えば、ギネス入りのようなペースで駆け抜けて来たわけであるが、この画廊香月での個展を節目として、しばらくは個展は行わない。「風林火山」ではないが、動く時は疾風のように駆け抜け、静まる時は無明に見る山影のごとく、全くの静まりの中へと私は入ってしまう。すなわち次に備えての、というよりも、次なる未知のイメージの領土に向かって行く為に、感性を研ぐのである。とは云え、個展は行わないが、五月は詩画集の刊行記念展(森岡書店)、六月は『名作のアニマ –  駒井哲郎池田満寿夫・北川健次によるポエジーの饗宴 』(不忍画廊)が続いて予定に入っている。

先日、早稲田大学の近くで、思潮社の藤井さん、装幀の伊勢さんと集い、詩画集に入れる作品の色校正の最終チェックを行った。実に美しい仕上がりで、今月末の完成が待ち遠しい。また不忍画廊では、六月の展覧会と合わせたように駒井哲郎氏の名作が集まり、池田満寿夫氏の作品は、普段はあまり見る事の出来ない、西脇順三郎氏との詩画集の名作『トラベラーズ・ジョイ』が展示される予定になっている。駒井・池田・両氏のポエジーの在りようは異なるが、各々に銅版画の権能において極を究めたものである。なかなか見応えのある、昨今に類のない展覧会になるであろう。

 

話は戻るが、画廊香月での展示は、香月人美さんのアイディアで、(壁面に、まるで映画などに登場するイギリスの館の壁面に夥しく掛けられた絵のごとく、)作品が全面に展示されている。私も以前から密かに一度はやってみたいと思っていたこの展示法を、遂に香月さんは断行し、今までになかった効果を上げてコレクターの方にも好評である。どの作家にも出来るという展示法ではないが、私の作品においては非常に画期的な良い効果を上げていることは確かである。そこから考えて、私のイメージの特質もまた見えて来ようかと思う。ともあれ、個展はしばらくは封印となる為に、まだ御覧になっておられない方には、ぜひ御覧頂きたい今回の個展である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『未知の方との出会いを求めて』

御覧になって頂いているこのオフィシャル・サイトは、個展を開催している地域以外の方から度々届く御手紙がきっかけに立ち上げられる事になった。それらの文面には、私の作品を見たいのだが地元には画廊が無い為にそれが叶わない。出来れば作品も入手したいし、折々の情報も知りたい・・・・という内容が数多くあり、その点と点が繋がっていないものを繋ぐものとして実現したのである。かつて版画集を刊行した時は、計七つの種類の版画集がいずれもだいたい三ヶ月くらいで全て完売となってしまった為に、版画集を入手出来なかった方がかなりおられる事をその後で知った。その方たちは限定版が全て絶版となった為に、15部のみのAP版の作品を個々に求められる事になるのだが、それもだいぶ残りが少なくなってきてしまった。個展以外では、このオフィシャル・サイトでの作品入手が可能であるが、このサイトを通して自由に作品をコレクションされる方が、最近増えてきているからである。

 

現在個展を開催中の画廊香月のオーナー香月人美さんは、前回のメッセージで記したとおり、美術家の池田龍雄さんからの御紹介でお知り合いになれたわけであるが、画廊で香月さんとお話をしていて、なかなかに人間として多彩であり、ギャラリストとしても逸材の人であるという事がわかってきた。人生は一度きりである。故に良き人との出会いは大事な意味があるのである。私は先達の池田龍雄さんに感謝しなければならない。画商とは企画一本で貫いている精神が骨太の画廊主のみを指すわけであるが、その本当の意味での画商が少なくなってきた。香月さんは勿論、この画商と云える数少ない人であるが、この人の強みは、その人間性の豊かさゆえに、全国からこの画廊を訪れる人が多いという事である。私が画廊にいると、そういう未知の方との出会いが多く、今回はいろいろな方を知る機会が一気に増えた。何しろ画廊を訪れる人が多く、人の絶え間がないのである。そして嬉しいのは、その方たちの求めているものと、私の作品が照応し、大作の銅版画『ドリアンの鍵』や一点物のオブジェがかつてない勢いでコレクションされていっている事である。ちなみに『ドリアンの鍵』は、〈二次元のオブジェ〉という言葉で私が表現している代表作であるが、最近この作品に対する評価が更に高まってきている事は、作者として嬉しい手応えを覚えている。

 

かつて池田満寿夫氏は「作者にとって最大の批評は、その作品がそれを賞賛する人にコレクションされる事である。」という名言を記しているが、これは至言である。それを証すように、初日の個展が始まる時間の前に地方から早くも画廊香月に来られた方があり、その場でまとめて四点の作品を購入された事は、この個展に際しての私の大いなる励みになっている。又、私が画廊に不在の時に来られた方がおられたが、後で香月さんから、その方が100点以上も私の版画やオブジェ、そしてコラージュをコレクションしている日本でも代表的なコレクターである事を知った。勿論、私にとっては未知の人である。最初に記したように、私の存じ上げない方も含めて、全国にはかなりのコレクターの方がおられるが、実際に個展が出来る機会は限られているので、このオフィシャル・サイトでの情報発信を続けながら、まだ出会ってはいない、しかし私の表現世界と感覚が直結する人たちとの出会いを求めて積極的にやっていきたいと思っている。安定を求めず、常に新しいイメージの狩猟場へと感性を動かしながら、表現者一本だけで生きているわけであるが、この崖っぷちに身を置く事でのみ、はじめて見えてくる絶景というものがある。そして、その凄まじい絶景の享受こそが、プロのみに体感出来る醍醐味であると思っている。表現者にとって〈安定〉こそは、メンタリティーの落ちる最大の敵なのである。

 

昨年の秋から八ヶ月で八回、毎月異なった個展を開催して来たが、五月には、思潮社から刊行される、詩人・野村喜和夫氏との詩画集刊行記念展があり、六月は東京の不忍画廊で『名作のアニマ ー 駒井哲郎・池田満寿夫・北川健次によるポエジーの饗宴』が予定されている。画廊香月での個展は残り二週間となった。自信作を集中的に展示した密度の濃い集大成的な内容になっているので、ぜひ御覧頂きたい今回の個展である。

 

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『個展はじまる – 帝都の面影のある場所で』

銀座の一角に、昭和の名建築としての高い評価を得たビルがある。その名は「奥野ビル」。一歩中に入ると、まさに昭和初期へとタイムスリップしたような空間が奥へ奥へと広がり、訪れた人の何とも懐かしい郷愁の琴線を突いてくる。かつては詩人の西條八十も住んでいたというこのビルの竣工は1932年(昭和7年)というから、実に81年の歴史を刻んで今も健在である。

美術家の池田龍雄さんは、私が最もその生き方を範としている先達の方であるが、その池田さんから、「奥野ビル六階の画廊香月で個展を」という御話を頂いたのは最近の事である。そして4月5日(金)から27日(土)までの3週間、私の近年の代表作を選んで個展を開催する事となった。

 

三月に個展を開催した森岡書店が入っている井上ビルは昭和2年の竣工。井上ビルの風情を例えるならば、それは1930年代の魔都上海へと繋がっているとすれば、ここ奥野ビルは、私の遠戚にあたるらしい実相寺昭雄監督の映画『帝都物語』の、まさに舞台としてふさわしい。又、以前に「日曜美術館」でドイツ文学者の種村季弘氏を特集した際に、種村さんのイメージ世界を視覚化する為に、このミステリアスな奥野ビルが使われ、種村さんが愛蔵しておられた私の銅版画『フランツ・カフカ高等学校初学年時代』が突然、画面に登場してきた時は驚いたものである。あまりに作品の世界と、その空間がピタリと照応していたからである。しかしそれにしても、3月の個展会場となった井上ビルといい、四月のこの奥野ビルといい、私の作品は何故かくもこれらのレトロモダンな建物とピタリと合うのかと、我ながら考えてしまう。共通点を挙げれば、・・・・・時間が止まったままに、静かにポエジーが息づいている、という表現にでもなるであろうか。とまれ、このビルの六階にある「画廊香月」での個展『廻廊にてー午前四時のシメールの肖像』は始まったばかり。オーナーの香月人美さんはギャラリストとしても30年以上の経歴を持つベテランであるが、何よりも芸術に寄せる情熱と理念の高さは、並のそれではない。さすがに池田龍雄さんが推されるだけの、確かな裏付けがある。

 

四月の中旬から私はベルギーのブリュッセルに旅立つ予定であったが、この重要な個展のためにそれを急遽中止して、個展に臨んでいる。六階の画廊香月に行くには、ローマの古いホテルにでもありそうな引戸式のエレベーターのようなそれに乗り、静かに上に昇っていけば、そこに画廊香月が在る。そして三島戯曲にでも登場して来そうな不思議なる麗人 – 香月人美さんが、静かにあなたを待ち受けている。

 

 

 

北川健次 展「廻廊にて ー 午前四時のシメールの肖像」

2013年4月5日~27日(土)13:00 – 19:00(木・日休廊)

画廊香月

東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル605

tel&fax: 03-5579-9617  mail: luna.kazuki@gmail.com

東京メトロ「銀座一丁目駅」下車。徒歩1分。

「銀座駅・京橋駅」下車。徒歩3分。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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