月別アーカイブ: 10月 2013

『時間迷宮 – 私のアトリエ』

先日、装幀家の中島かほるさんから連絡が入り、私の写真作品を表紙に使いたい旨、依頼があった。今回は須賀敦子さんの『イタリアの詩人たち』で、青土社から単行本で来月に刊行予定との事。中島さんは、作家の久世光彦さんはじめ、多くの作家や出版社から、その高い美意識を評価されている出色洗練の人である。中島さんが今回の表紙のために選んだのは、私の写真『ヴェネツィア頌』(モノクローム)である。須賀さんの文と私のそれに共通している「死」のイメージがピタリと来るらしい。又、最新作の私のコラージュ作品も気に入られ、近々に刊行される本の表紙にこれも使いたいとの由。という訳で、来月は二種類の本が書店に並ぶことになった。

 

今朝、今月末から日本橋の高島屋で始まる個展の案内状が刷り上がったので送られて来た。なかなかに良い仕上がりになっている。私は案内状を個展の序章と考えており、毎回、作品を作るように神経を使っている。今回はコラージュ作品二点が見開きに入り、各々に書き下ろしの詩を載せている。今回の画像では、それも読んで頂く為に載せているので、併せて作品のイメージを紡いで頂ければと願っている。案内状の発送は個展の数日前に行う予定。

 

前回でもお知らせしたが、今はオブジェ作品を作っている。コツコツと、イメージを積算的に加乗して、まるで小説を書くような感覚で、この二次元と三次元のあわいに揺蕩う「不思議な、語りえぬ」構造に取り組んでいる。アトリエは約16畳くらいの空間であるが、そのほとんどがいろいろな所から収集して来た「時」の断片に満ちていて、その様を、ありていに言えば「時間迷宮のイメージの森」である。アンダルシア、パリ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ミラノ、ローマ、・・・・・アッシジ、ブルージュ、バース,ポートメリヨン、そしてカダケスにボマルツォの怪獣庭園・・・・・etc。様々な場所を巡りながら、私はイメージの充電を計り、感受性を研いで来た。そして、その旅先で出会い収集して来た様々な「時の断片」は、舞台裏で出を待つ役者のようにして、オブジェやコラージュに登場する、その時を待っている。私が使わなければ、忘却へと向かう、それらの断片の数々は、私に使われる事をことほぐかのようにして、アトリエの各所にあって、まるで喜々としているようである。法学部出身の三島由紀夫は、その専門であった「刑事訴訟法」のようにして小説を書いていた。判決においては、先ず主文が読まれるように、彼は小説を書く時には必ず、その最終行が決まっていたという。私には、その感覚がよくわかる。私の場合は言葉ではないが、いつも、作っている作品の最終の果てが作る前から過かし視えているのである。その完成という行為の過程において、言葉を選ぶように、私はアトリエのイメージの森の中に分け入って、その確たる「何ものか」をイメージの狩人のようにして選んでいくのである。この作業は、私の人生において最も活き活きとした時間であるかと思われる。16畳の空間には本や作品の為の断片が充ち、実際に作業する空間は本当に限られている。そこで夢を紡ぎ、永遠の時間を形象化するようにして、私は作品に挑んでいる。以前に窓外の庭を暗く横切る人物と目が合った事があった。・・・・・泥棒である。しかし、驚きもしなければ、怖くもない。つまり、その時は現実には全く関心がなく、ひたすら虚構の美しき構築に、私のそれは向けられているのである。コツコツコツコツと、明日も又、それが繰り返されていく。私の生が終わるその時まで。

 

北川健次展 「ガール・ド・リオンの接合された三人の姉妹」

2013年10月30日(水)→11月18日(月)

東京日本橋高島屋6階美術画廊X

東京都中央区日本橋2-4-1  Tel.03-3211-4111(代)

午前10時~午後8時

 

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『個展近づく!!』

酷暑の夏がようやく去り、さぁ、いよいよ秋の風情を楽しもうと思ったら、素通りするように、いきなり晩秋の気配である。少年時代の時間は、あれほどにゆっくりと流れていたが、昨今の時の流れは誠に慌ただしい。

 

ここ数ヶ月間、私はほとんどの日々をアトリエに籠り、ひたすらコラージュとオブジェの制作に没頭している。今月の30日(水)から11月18日まで、東京日本橋高島屋の美術画廊Xで開催される個展の為の新作を作っているのである。美術画廊Xでの個展は毎年秋に連続して開催され、今回で5回目である。今回の個展のタイトルは『ガール・ド・リオンの接合された三人の姉妹』。このタイトルの中に、パリのリヨン駅(私のイメージの充電の原点となった)、コラージュ論、物語の原器としての〈三〉という数字に寄せる想い…など、幾つかの私的試論的なものが詰めこんである。個展の中心はコラージュとオブジェになるが、コラージュの新作は既に50点以上が完成し、今はオブジェの制作に切り換わっている。案内状は中旬には完成の予定。個展は三週間の会期が組まれているので、なかなかお会い出来ない遠方のコレクターの方とも再会出来る楽しみがある。

(制作途中のオブジェ・部分)

 

この個展が終わるとすぐに厳寒の北海道に行く予定が入っている。北海道教育大学・教育学部で特別講義をするために、岩見沢に行くのである。北海道は10年ぶり。前回は小樽が目的地であったが岩見沢は初めてである。12月には北イタリアの墓地の彫刻を撮影に行く予定でホテルも決まっていたが、急きょ中止して来春の四月に延ばした。ミラノのイゾラ・ベッラ島の空中庭園の場所にあるグロッタの館が10月から3月まで閉ざされるということを知り、慌てて延期したのである。この撮影で、私は写真とオブジェの融合、つまり、写真家や美術家が絶対に出来ない、私だけの表現領域の開拓をいよいよ具体化する事を考えている。ことほどさように、常に私の表現世界は動いており、今回の個展も今までにない世界を立ち上げている。個展の件は追って更にこのメッセージ欄でお知らせしていく予定である。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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