先日、装幀家の中島かほるさんから連絡が入り、私の写真作品を表紙に使いたい旨、依頼があった。今回は須賀敦子さんの『イタリアの詩人たち』で、青土社から単行本で来月に刊行予定との事。中島さんは、作家の久世光彦さんはじめ、多くの作家や出版社から、その高い美意識を評価されている出色洗練の人である。中島さんが今回の表紙のために選んだのは、私の写真『ヴェネツィア頌』(モノクローム)である。須賀さんの文と私のそれに共通している「死」のイメージがピタリと来るらしい。又、最新作の私のコラージュ作品も気に入られ、近々に刊行される本の表紙にこれも使いたいとの由。という訳で、来月は二種類の本が書店に並ぶことになった。
今朝、今月末から日本橋の高島屋で始まる個展の案内状が刷り上がったので送られて来た。なかなかに良い仕上がりになっている。私は案内状を個展の序章と考えており、毎回、作品を作るように神経を使っている。今回はコラージュ作品二点が見開きに入り、各々に書き下ろしの詩を載せている。今回の画像では、それも読んで頂く為に載せているので、併せて作品のイメージを紡いで頂ければと願っている。案内状の発送は個展の数日前に行う予定。
前回でもお知らせしたが、今はオブジェ作品を作っている。コツコツと、イメージを積算的に加乗して、まるで小説を書くような感覚で、この二次元と三次元のあわいに揺蕩う「不思議な、語りえぬ」構造に取り組んでいる。アトリエは約16畳くらいの空間であるが、そのほとんどがいろいろな所から収集して来た「時」の断片に満ちていて、その様を、ありていに言えば「時間迷宮のイメージの森」である。アンダルシア、パリ、ヴェネツィア、フィレンツェ、ミラノ、ローマ、・・・・・アッシジ、ブルージュ、バース,ポートメリヨン、そしてカダケスにボマルツォの怪獣庭園・・・・・etc。様々な場所を巡りながら、私はイメージの充電を計り、感受性を研いで来た。そして、その旅先で出会い収集して来た様々な「時の断片」は、舞台裏で出を待つ役者のようにして、オブジェやコラージュに登場する、その時を待っている。私が使わなければ、忘却へと向かう、それらの断片の数々は、私に使われる事をことほぐかのようにして、アトリエの各所にあって、まるで喜々としているようである。法学部出身の三島由紀夫は、その専門であった「刑事訴訟法」のようにして小説を書いていた。判決においては、先ず主文が読まれるように、彼は小説を書く時には必ず、その最終行が決まっていたという。私には、その感覚がよくわかる。私の場合は言葉ではないが、いつも、作っている作品の最終の果てが作る前から過かし視えているのである。その完成という行為の過程において、言葉を選ぶように、私はアトリエのイメージの森の中に分け入って、その確たる「何ものか」をイメージの狩人のようにして選んでいくのである。この作業は、私の人生において最も活き活きとした時間であるかと思われる。16畳の空間には本や作品の為の断片が充ち、実際に作業する空間は本当に限られている。そこで夢を紡ぎ、永遠の時間を形象化するようにして、私は作品に挑んでいる。以前に窓外の庭を暗く横切る人物と目が合った事があった。・・・・・泥棒である。しかし、驚きもしなければ、怖くもない。つまり、その時は現実には全く関心がなく、ひたすら虚構の美しき構築に、私のそれは向けられているのである。コツコツコツコツと、明日も又、それが繰り返されていく。私の生が終わるその時まで。
北川健次展 「ガール・ド・リオンの接合された三人の姉妹」
2013年10月30日(水)→11月18日(月)
東京日本橋高島屋6階美術画廊X
東京都中央区日本橋2-4-1 Tel.03-3211-4111(代)
午前10時~午後8時