月別アーカイブ: 5月 2019

『次なる創造に向けて』

先日の25日、三週間に渡って開催された、銀座・画廊香月での個展が盛況のうちに終了した。画廊主の香月人美さんの知人、そして私の知人が数多く来られ、会場には常に来訪者が誰か必ずいるといった具合で、気を休められないものがあった。……今回の個展で特に良かったのは、遠方にいる私のコレクタ―で、まだ存じ上げなかった仙台や愛媛、そして長崎などにおられる方々に初めてお会い出来た事が嬉しい収穫の1つであった。……いずれの場所もまだ個展をしていない地域であるが、私のサイトや雑誌他の情報から、今回の個展開催を知り、遙々遠方からこの個展を目指して来られたのだという。そして、私の作品を前にして真剣に迷われながら、各々の方の感性に共振する作品を的確に選ばれて帰られて行った。……分けても仙台の方は、後日に名産の『牛タン』を香月さんと私の各々に送って来られ、特に記憶に残る人となった。仙台は、以前に宮城県立美術館で講演を行い、その翌年には講座でも喋ったという場所だけに懐かしい。……また、近々に盛岡で画廊を開設する予定だという初対面のS氏が来られ、即座に私の作品を買われた後で、画廊空間について幾つか問われたので、先ず第一に重要なのは照明の問題である事を伝え、幾つかのアドバイスを更にした。……この方はなかなかに飄々としたものがあり、しかも直感に光るものがあり、以後も何らかの形でご縁が特にあるように思われた。

 

……そのS氏が帰られた夕刻、珍しく来客が途絶えたと思って少し寛いでいると、一人の三十代後半の男性が静かに画廊に入って来られた。……その一瞬の気配で「この人物は……」と思わせる只者ではないものを私は感じた。その人は、画廊内に展示されているオブジェやコラ―ジュ、そして版画をじっくりと観ながら、新作のオブジェ二点と、版画『フランツ・カフカ高等学校初学年時代』一点を買われた。画廊の香月さんがお茶を出して雑談になった。伺うと、この人は京都の古美術商で未だ修行中の身であるが、私の作品を含め、既にかなりのコレクションがあり、やかては画廊を京都の地に開設する事を考えているのだという。……古典から現代に渡ってかなりの知識があり、鋭い眼識と直感の持ち主と視た私は唐突に「宗達について書かれた幾つもの論考の中で、あなたは誰を第一に挙げますか!?」と問うと、はたして即座に受けて「宗達の中に、大和絵の髄とバロックの強度を同時に併せ視た三島由紀夫以外に、本質を突いた人はいないでしょう!」と返して来た。……本物である。その返しの見事な瞬発力は、「考えるは常住の事、席に及びて間髪を入れず」と語った芭蕉の即応の覚悟を思わせ、また具体的には、私の知る限り最も鋭い眼力の持ち主である、画廊「中長小西」のオ―ナ―である小西哲哉氏を想わせるものがあり、私は嬉しくなって来た。次代に続く若手の画商に人材が絶えて久しいが、まだまだ若いながらも雄伏している人材が確実にいる、その事を知り、私は無性に嬉しくなったのであった。なおも伺うと、昨年のこの時期に福島のCCGA現代グラフィックア―トセンタ―で開催された私の個展に、京都から遙々二回も観に行かれたのだという。そして、昨年に刊行した私の作品集『危うさの角度』をはじめ、パリで刊行した画集、美術館の私の図録なども全て持っているとの事で、私は大いに手応えを覚えたのであった。…………まだまだ私の存じ上げていない、私の作品を推す人達がこの国にはたくさんいる。今回の個展は、その事を具体的に知る出会いに恵まれた、そういう個展なのであった。……さぁ、今年前半の個展はこれで終了した。明日からは、凝縮していた新作への創造欲を爆発させる日々が待っているのである。

 

 

 

 

 

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『個展最終日、近づく』

まだ5月下旬だというのに、気温は30度に早くも達する暑い日が続き、もはや7月の気温になって来た。この異常事は史上初の事であるという。この後に梅雨が訪れ長雨のトンネルがしばらく続いたその先には、昨年の猛暑を超える、更なる炎暑、熱波の夏がメラメラと待ち構えていて、日常の中に〈メメント・モリ(死を想え)〉が蔓延するに違いない。……今回の個展は、そう考えてみると、ギリギリでベストな時期に開催されたように思われる。……今年の12月に3年ぶりに個展を開催する予定の、鹿児島のギャラリ―・レトロフトのオ―ナ―の永井友美恵さんをはじめ、北海道、仙台、愛媛他、遠方からも実に多くの方が遙々と私の個展を観に来られ、本当に有り難いと思っている。この場をお借りして感謝を申し上げる次第である。……さて、残る2日間、最期に如何なる方々の不意の訪れが待っているのか興味津々の個展である。……個展が終われば、10月から始まる日本橋高島屋・美術画廊Xの個展が待っている。今の個展が終われば、すぐに制作に没頭の日々が私を待ち受けている。その集中の日々を想うと、今からぞくぞくとする感覚が立ち上がって来るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『個展開催中―奥野ビルの謎が解けた!!』

前回のメッセ―ジでお知らせした通り、今月の25日まで、銀座1丁目9―8の奥野ビル6階の画廊香月で個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』が開催中である(注..日・水は休み)。会場の奥野ビルは昭和7年から存在しているというから、まもなく築90年になろうとしている。このビルの存在を初めて知ったのは、『日曜美術館』での、ドイツ文学者・種村季弘さんの特集の時であった。……番組の冒頭で、カメラが、このビル内の石の階段を這うように低く、ミステリアスなアングルで映し出されていく。すると、突然、階段の途中で唐突に立て掛けられた、額に入った版画が画面に映し出され、それを幕開けとして、三島由紀夫が最も高く評価していた知の巨人―種村季弘ワ―ルドの世界が一気に開かれていくという流れであったが、観ていた私は驚いた。……何故なら、その版画は拙作の『フランツ・カフカ高等学校初学年時代』であり、種村さんの愛蔵のコレクションだったのである。後日、種村さんにお会いした時に伺ったら、番組出だしのそのアイデアは種村さん自身が考案された由(ちなみに、この作品はカフカの翻訳でも知られる池内紀さんも書斎に愛蔵されている、80年代の代表作である)。……まぁ、それはともかくとして、その番組で、このタイムスリップしたような、帝都の面影を色濃く遺す奥野ビルの存在を知ったのであったが、後日に縁あって、美術家の池田龍雄さんからお話があり、そこで個展を開催する事になるとは、これもまた面白いご縁か。

 

……さて、この奥野ビルであるが、戦時中に何度も銀座は空襲爆撃に遭いながら、何故か、この奥野ビルだけが戦禍を免れ無傷のままに焼け残り今に残ったのだという話であるが、私にはその話に引っ掛かるものがあり、何故に空襲を免れたか……という事にずっと秘かな疑問を抱いていた。しかし、その疑問が解ける日が、今回の個展でやって来た。…………先日、デザイナ―で、私の作品の熱心なコレクタ―でもある久留一郎氏が画廊に来られた。久しぶりの再会なので話題がいろいろと飛び、やがて話がこのビルの話になった時、久留氏の口から、このビルの長い歴史の中であまり知られていない或る時代の事が明かされた。……彼の話に拠ると、このビルは戦時中には、築地の聖路加病院の看護婦たちが住む女子寮であったのだという。……かつては詩人の西条八十も棲んだというが、戦時中にそういう事があったとは意外であった。……その話を聴きながら私には、戦前のある秘話が浮かび上がって来たのであった。

 

……1934年(昭和9年)に、ベーブ・ルース、ルー・ゲーリック達、アメリカ野球のMLB選抜チームが日本を訪れ、沢村栄治らを擁する日本の野球チームとの親善試合が数回、場所を変えて行われた。そのアメリカチームの選手の中にモー・バーグという名前の捕手がいた(かなり格が落ちる二流の選手)。バーグは数試合に出ただけで突然、姿を消し行方がわからなくなったが、それを気にする者は誰もいなかった。……試合が行われている頃に、築地にある聖路加病院の最上階の見晴らしの良い屋上に一人の背の高い男が手にカメラを持ちながら立っていた。……モー・バーグである。彼は野球選手でありながら、今一つの顔は〈スパイ〉であった。バーグは、浅草寺、隅田川、富士山、筑波山……などの要所を基点に入れながら360度、一望に見渡せる広角の連続撮影でパノラマ写真を撮りながら、後に日米間の戦争を見据えての精確な撮影を秘かに行っていたのである。つまり、東京を始めとする、実に緻密な情報が、戦前からアメリカは入手していたのであるから、向こうが遥かに上手である。……私は今も築地の聖路加病院の近くを通ると、その秘話を思い出して、病院の最階上に眼を遣るのであるが、その秘話と絡め合わせると、銀座の奥野ビル近辺への爆撃を意図的に止めていた事が浮かび上がって来るのであった。聖路加の病院名は、新約聖書の福音書『ルカによる福音書』を書いたと云われる聖ルカに由来し、その建物は古くからキリスト教と密接な関わりがあるので、その病院で働く看護婦たちが住む、当時女子寮であったビルだけが戦禍を免れた事は想像に難くない……とも見えてくるのである。……ともあれ、様々な人達のドラマがあり、長い時間の澱が秘めやかに刻印されている、この奥野ビルで開催されている今回の個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』は、いかにもこの建物とリンクして、相応しいタイトルではないだろうかと思っている。……その個展が始まって、会期の三分の一が過ぎたが、まだまだ25日まで個展の日は続く。……そして遠方も含めて数多くの方々が観に来られて、様々な出会いの日々にもなっている。毎日が実に充実した日々がまだ暫く続き、その後は、10月からの日本橋高島屋の個展の為の、今度は一転してアトリエでの静かなる制作の日々へと移っていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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〈個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』今月7日より東京にて開催さる!!〉

前回のノ―トルダム大聖堂炎上に関して書いたメッセ―ジには、多くの方から様々な反響を頂いた。いろいろなご意見があって面白く拝読したが、異質なものとして面白かったのは、美大の後輩で、細密な天使像を描く佐藤弘之君のご意見「聖堂が炎上している時に、あのノ―トルダムのせむし男は、果たして無事に逃げ延びられたのでしょうか!?」という着想は、特に私の気を引き〈しまった、そこまで考えなかった!〉と反省をしたのであった。ウンベルト・エ―コの名を出さずとも、美には醜が憑き物のように付いているので、この佐藤君の閃きには〈負けた!〉と脱帽したのであった。……そう、確かにあの炎上の最中に、ノ―トルダム聖堂の、あの黒ずんだ巨大な鐘を鳴らす男が必死で逃げ惑う様を想像するのは、絵になる光景ではあるだろう。……マクロンは、聖堂を僅か5年で直して見せると発言した。……5年、この早さに何の意味があるのか。何を急ぐのか!?……神無き現代に、聖堂が精神的支柱としての存在への崇高な希求などは、もはやそこにはなく、あえて意味を見るならば、観光資源としての必要からの早急さしか、私には見えないのであるが、はたして皆さんのご意見は如何であろうか。

 

 

 

 

……さて、今回のメッセ―ジで書きますと前回予告したのは、ある意味でノ―トルダム聖堂の炎上以上に大変な事態が、実はル―ヴル美術館で起きており、それを書けば誰もが唖然とする事なのであるが、その惨状を示す画像の拡大したものが、未だ私宛に届いていないので、画像が届き次第書くことにして、……今回は、予告を変えて、今月7日から25日まで、銀座の奥野ビル6Fにある画廊香月で開催される個展『立体犯罪学―密室の中の十七の劇場』についてのお知らせを書こう。美術家の大先輩である池田龍雄さんから、銀座の画廊香月でぜひ個展を!!と直接の依頼を頂いてから、もう何年になるであろうか。……早いものであり、いつしか毎年、春の個展として定着するようになってしまった。画廊のオ―ナ―の香月人美さんは、かつてラジオのパ―ソナリティや、舞踏家の大野一雄に私淑してその弟子になったりと、その経歴は多彩であり、また未だ謎であり、ために普段私などが知り合う機会のない方面の方々が画廊に来られるので、私自身もまた一興にして一驚の妙があり、期間中は出来るだけ画廊に行くようにしている。また作品への様々な感想も伺えるので、表現者として発展的な日々が、これから約3週間続くのである。……長い連休が続き、郵便の配達が作動しなかった為に、場所によっては、今回は個展のご案内が届かない場合もある可能性があるので、以下に詳しい画廊の住所を記しておこうと思う。……更なる新作の展開をご覧頂きたく、皆さまのご来場を楽しみにお待ちしています。

 

 

『画廊香月』

会期:  5月7日(火)―25日(土)

時間:13時~18時30分まで (休廊:日曜・水曜)

場所:東京都中央区銀座1丁目9―8 奥野ビル6F TEL&FAX 03―5579―9617

(昭和初期に建てられたレトロな建造物で一見の価値あり。今ではロ―マなどでしか見られない、開きの手動エレベ―タで6Fのボタンを押してから、階上へと上がっていく仕組みで、これもまた面白い体験です)

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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