先日の25日、三週間に渡って開催された、銀座・画廊香月での個展が盛況のうちに終了した。画廊主の香月人美さんの知人、そして私の知人が数多く来られ、会場には常に来訪者が誰か必ずいるといった具合で、気を休められないものがあった。……今回の個展で特に良かったのは、遠方にいる私のコレクタ―で、まだ存じ上げなかった仙台や愛媛、そして長崎などにおられる方々に初めてお会い出来た事が嬉しい収穫の1つであった。……いずれの場所もまだ個展をしていない地域であるが、私のサイトや雑誌他の情報から、今回の個展開催を知り、遙々遠方からこの個展を目指して来られたのだという。そして、私の作品を前にして真剣に迷われながら、各々の方の感性に共振する作品を的確に選ばれて帰られて行った。……分けても仙台の方は、後日に名産の『牛タン』を香月さんと私の各々に送って来られ、特に記憶に残る人となった。仙台は、以前に宮城県立美術館で講演を行い、その翌年には講座でも喋ったという場所だけに懐かしい。……また、近々に盛岡で画廊を開設する予定だという初対面のS氏が来られ、即座に私の作品を買われた後で、画廊空間について幾つか問われたので、先ず第一に重要なのは照明の問題である事を伝え、幾つかのアドバイスを更にした。……この方はなかなかに飄々としたものがあり、しかも直感に光るものがあり、以後も何らかの形でご縁が特にあるように思われた。
……そのS氏が帰られた夕刻、珍しく来客が途絶えたと思って少し寛いでいると、一人の三十代後半の男性が静かに画廊に入って来られた。……その一瞬の気配で「この人物は……」と思わせる只者ではないものを私は感じた。その人は、画廊内に展示されているオブジェやコラ―ジュ、そして版画をじっくりと観ながら、新作のオブジェ二点と、版画『フランツ・カフカ高等学校初学年時代』一点を買われた。画廊の香月さんがお茶を出して雑談になった。伺うと、この人は京都の古美術商で未だ修行中の身であるが、私の作品を含め、既にかなりのコレクションがあり、やかては画廊を京都の地に開設する事を考えているのだという。……古典から現代に渡ってかなりの知識があり、鋭い眼識と直感の持ち主と視た私は唐突に「宗達について書かれた幾つもの論考の中で、あなたは誰を第一に挙げますか!?」と問うと、はたして即座に受けて「宗達の中に、大和絵の髄とバロックの強度を同時に併せ視た三島由紀夫以外に、本質を突いた人はいないでしょう!」と返して来た。……本物である。その返しの見事な瞬発力は、「考えるは常住の事、席に及びて間髪を入れず」と語った芭蕉の即応の覚悟を思わせ、また具体的には、私の知る限り最も鋭い眼力の持ち主である、画廊「中長小西」のオ―ナ―である小西哲哉氏を想わせるものがあり、私は嬉しくなって来た。次代に続く若手の画商に人材が絶えて久しいが、まだまだ若いながらも雄伏している人材が確実にいる、その事を知り、私は無性に嬉しくなったのであった。なおも伺うと、昨年のこの時期に福島のCCGA現代グラフィックア―トセンタ―で開催された私の個展に、京都から遙々二回も観に行かれたのだという。そして、昨年に刊行した私の作品集『危うさの角度』をはじめ、パリで刊行した画集、美術館の私の図録なども全て持っているとの事で、私は大いに手応えを覚えたのであった。…………まだまだ私の存じ上げていない、私の作品を推す人達がこの国にはたくさんいる。今回の個展は、その事を具体的に知る出会いに恵まれた、そういう個展なのであった。……さぁ、今年前半の個展はこれで終了した。明日からは、凝縮していた新作への創造欲を爆発させる日々が待っているのである。