9月23日から日本橋高島屋本店の美術画廊Xで私の個展が始まるが、その展覧会のタイトルがようやく決まった。『密室論-Bleu de Lyonの仮縫いの部屋で』が、それである。写真とミクストメディアを主とした50点以上の出品を予定して現在制作が進んでいる。タイトルは私にとって、とても重要なものであるが、それは私が今やりたい表現の形、深層のイメージを言葉で自らが掴みとる行為のようなものなのである。だからピシリとタイトルが言葉として収まった時、ようやく制作に弾みがつくのである。
先日、河出書房新社の西口徹氏よりTELがあった。春に刊行した久生十蘭の小説の表紙に私のオブジェを使ったところ、とても好評で、9月初旬刊行の久生十蘭のシリーズも、続けて私の作品を使いたいとの事である。私は以前から久生十蘭と私の世界とは通じるものがあると密かに思っていたが、さすがに、かつてのユリイカの名編集長としても知られた西口氏のアンテナは鋭い。装幀のデザイナーのセンスもとても良く、私は一切何も言わず、新刊が出るのを楽しみにしているのである。また久生十蘭とは別に、ドイツの数学者で代数学の基本定理の証明などで知られるガウスと、私の作品世界を結びつけて、筑摩書房の編集長である大山悦子さんは、その関連した研究書の表紙に度々、私の作品を使われている。こちらも又、刊行される度に、私の作品の硬質なイメージと合っていて、私は大山さんの炯眼さに、いつも驚かされるのである。ご興味のある方は、ぜひ御一読をおすすめします。
先の地震の地殻変動で地中の幼虫の多くがつぶされてしまったのか、今年の夏は、不気味なまでに蝉の鳴き声を聞かない。ギラギラとしたかつての叙情的な夏は絶え、歪んだ静かな、気持ちの悪い気象がゆっくりと過ぎていく。記憶の中の、あの遠い日々を思い出しながら、制作の日々が続いている。