月別アーカイブ: 7月 2011

『蝉の鳴かない夏に・・・』

9月23日から日本橋高島屋本店の美術画廊Xで私の個展が始まるが、その展覧会のタイトルがようやく決まった。『密室論-Bleu de Lyonの仮縫いの部屋で』が、それである。写真とミクストメディアを主とした50点以上の出品を予定して現在制作が進んでいる。タイトルは私にとって、とても重要なものであるが、それは私が今やりたい表現の形、深層のイメージを言葉で自らが掴みとる行為のようなものなのである。だからピシリとタイトルが言葉として収まった時、ようやく制作に弾みがつくのである。

 

先日、河出書房新社の西口徹氏よりTELがあった。春に刊行した久生十蘭の小説の表紙に私のオブジェを使ったところ、とても好評で、9月初旬刊行の久生十蘭のシリーズも、続けて私の作品を使いたいとの事である。私は以前から久生十蘭と私の世界とは通じるものがあると密かに思っていたが、さすがに、かつてのユリイカの名編集長としても知られた西口氏のアンテナは鋭い。装幀のデザイナーのセンスもとても良く、私は一切何も言わず、新刊が出るのを楽しみにしているのである。また久生十蘭とは別に、ドイツの数学者で代数学の基本定理の証明などで知られるガウスと、私の作品世界を結びつけて、筑摩書房の編集長である大山悦子さんは、その関連した研究書の表紙に度々、私の作品を使われている。こちらも又、刊行される度に、私の作品の硬質なイメージと合っていて、私は大山さんの炯眼さに、いつも驚かされるのである。ご興味のある方は、ぜひ御一読をおすすめします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の地震の地殻変動で地中の幼虫の多くがつぶされてしまったのか、今年の夏は、不気味なまでに蝉の鳴き声を聞かない。ギラギラとしたかつての叙情的な夏は絶え、歪んだ静かな、気持ちの悪い気象がゆっくりと過ぎていく。記憶の中の、あの遠い日々を思い出しながら、制作の日々が続いている。

 

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『横浜から名古屋へ』

12日(水)の11時に名古屋ボストン美術館に着き、館長の馬場駿吉さんと、三時間ばかり、久しぶりのお話をした。主に瀧口修造氏の話、そしてヴェネツィアと俳句の事が話題になる。その後、開催中のジム・ダイン展を見る。五月以来2度目であるが、現在開催中のクレー展(東京国立近代美術館)と双璧の、質の高い展示内容である事を実感する。

 

2時過ぎに、名古屋芸術大学教授の西村正幸さんに車で美術館まで来て頂き、共に大学へと向かう。今日は私が、版画コース・アートクリエイターコースの学生に話をする日なのである。車中で西村さんから、先月の講義をした版画家の山本容子さんが、〈ホスピスに展示する絵は何が相応しいか?から、芸術とは何か〉を語った由を聞く。意外と真面目なテーマである。では今日は、「芸術における二元論」を中心に、話をしようという考えがまとまった。会場に行くと、百人近い学生が既にいた。東京の美大の学生の多くは、ボーッとして覇気が無いのが多いと聞くが、ここの学生は好奇心に充ちた眼をしていて、〈よ~し、たっぷり話そう〉という気が湧いてくる。二時間ばかり話した後に質問が多くあり、手応えを感じる。京都精華大学で講義をした時も同じような手応えを覚えたが、二つの大学に共通しているのは、教える側の教授の理念に〈本当に育てたい!!〉という意思があり、学生各人の可能性を引き出す事に眼差しが届いている事だと思う。西村さんは初対面であったが、話をしていて旧知のような親しみを覚えた。100人学生がいれば、100の版画の新しい概念、新しい技法が在って当然という西村さんの考えは私と全く同じであるが、多くの美大の指導法は、その真逆が、ことのほか多い。既存の技法の型に、現代の感性を詰めていっても才能は開花しない。その意味で、この大学には可能性を強く覚えた。また再び訪れて話をしてみたくなる、そんな自由な気風のある大学である。

 

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『受講生募集のお知らせ』

渋谷の東急プラザ内の「東急セミナーBE」というカルチャーセンターで、〈オブジェ〉の講座を担当して、早いもので十年以上が経つ。はじめは半年持てば良いくらいのつもりでいたが、受講を希望する人が次々と入って来られて、以来、何百人の人が育っていっただろうか・・・・・。現代の美術のジャンルの中で〈オブジェ〉は避けて通れない、ミステリアスにして必須のものである。しかし、美術大学や他のスクールでは、それを担当可能な人がいない為に、〈オブジェ〉に興味を持たれた方が、私の講座に集中して来られるのである。メンタルな面も含めて自己表現への覇気がない美術大学の学生に比べ、この講座を受講される方は皆、やる気に充ちてる為、やりがいがあって面白い。その中には作家として十分やっていけるだけの表現力を持っている方もかなりおり、どんどんとエッセンスを吸収して作品に存在感と深みが増していくのは、見ていて嬉しいものである。

 

「〈オブジェ〉とは、平面(二次元)と立体(三次元)の間のミステリーゾーンにたゆたう、スリリングで捕らえがたい分野であるが、寸秒夢のように、一瞬の閃めきでポエジーの定着が可能な魅力を多分に持っている。芸術の本質にポエジーは不可分なものであるが、現代の美術表現は、その自明な事からますます離れていっている為に、貧血症の不毛なものと化している。しかし、〈オブジェ〉は、シュルレアリスムから立ち上がった分野であるが、新たな表現の可能性を、その切り口の内に様々に秘めていて尽きない手応えがある。

 

今年の四月から、講座は渋谷から自由が丘へと移り、リニューアルして新たな出発を迎えた。〈オブジェ〉に興味を持たれている方は、ぜひこの機会に受講して頂きたいと思う。

 

東急セミナーBE (自由が丘校):

受講日/第二・第四水曜日(13:30~16:00)

場所/東京都目黒区自由が丘1-6-9フレル・ウィズ

自由が丘4F東急セミナーBE

お問い合わせ/TEL03-5726-4153(担当:加藤)

 

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『熱波の中での近況報告』

外出から戻ってみると、閉め切ったアトリエの中がかなりの高温になっていた。さてとと思い、クーラーのリモコンを捜してみたが、これが何故か見つからない。アトリエの中は本の多さに加え、オブジェの材料がかなり在り、その中に紛れて、杳として見つからないのである。既に5時間以上捜したが見つからない。例年はそうでもなくとも、今年はクーラーのリモコンは生命線の重みを持つ。このメッセージを書いた後に又捜すつもりでいるが、果たして見つかるのか否や?

 

ネットギャラリーを開設したが、予想を上回る反響に、開設の手応えを覚えている。私の作品のコレクターの方々からの注文もあったが、沖縄や北海道まで含めて、今まで個展を開催した事の無い地域の方々からの注文が入って来た事は本当に嬉しいことである。注文の際に、私の作品への感想も細かく書いて頂き今後の励みにもなっている。もっと作品の数を増やして欲しいという感想も頂いたが、今後の方向として考えていきたいと思っている、ともあれ、多くの方々に感謝を申し上げたいと思う。

 

十一月から福井県立美術館で私の個展が開催されるので、先日、館長の芹川氏と学芸員の野田氏とを交えて初の打ち合わせを行った。カタログに掲載するテクストの件も進んでいる。谷川渥氏(美学)、四方田犬彦氏(比較文化)、飯沢耕太郎氏(写真評論)、J・Colas氏(アルチュール・ランボー研究の第一人者)、川田喜久治氏(写真家)、野村喜和夫氏(詩人)、鶴岡善久氏(シュルレアリスム研究)、中村隆夫氏(美術評論)・・・・そして、私の最初の個展(24歳時)に見事なテクストを執筆して頂いた池田満寿夫氏の文の再録を含めると都合九名。各人とも当代一流の方々が記されたテクストだけに興味が深い。又、私自身の書き下ろし文も掲載する予定。

 

数年前にANAの機内誌『翼の王国』から執筆を依頼されてパリを訪れた事があった。もの凄い猛暑で、その日パリでは六人が死亡した日である。同行した写真家のAも私も、さすがにクラッときた。するとコーディネーターのKさんが既に用意しておいたらしく、私たちにサングラスを借してくれた。外人と比べ日本人の黒目は、もともと紫外線に強い(と言われている)。しかし掛けた瞬間に意識がスッと冷えたのには驚いた。脳の疲労は視神経からもくるのである。かつてはオシャレの道具であったサングラスは、今や有効な暑さ対処の必需品なのである。ぜひお薦めしたいと思う。もっとも街中が黒のサングラスで溢れたら、これも又、不気味ではあるが・・・・・。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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