月別アーカイブ: 1月 2011

『仮面劇場』

昭和の終わりと共に消えていくかと思われた職業の一つに「チンドン屋」というのがある。しかし、それが若い世代から支持を得て、地道ながらも息を継ないでいるという。つまり、“不思議と消えない職業”なのである。

 

29日(土)まで個展を開催中の森岡書店は、茅場町・霊岸橋川岸に立つ古いビルの3階にある。昼は気持ちのいい光が差し込み、窓を開けると眼下に幅広の川が流れていて、ちょっとアムステルダムのような趣きがある。昨日の昼下がり。来場者が多く会場が賑わっていた時、そのチンドン屋の音が風に乗って聞こえて来た。窓外を見ると、霊岸橋の上を流して行く四人のチンドン屋が見えた。そして、やがて見えなくなり、来廊者も引いて展示空間が再び静かになった。「あの音は、迷惑ですよね。」とオーナーの森岡さんが話す。展示してある作品はヴェネツィアの写真、それと聞こえて来たコテコテの和の音とは、確かにミスマッチであるだろう。

 

展示作品の中の一点に、ヴェネツィアのカーニバルの仮面を被った人物が映っている写真がある。何気なくそれを見ていた時、ひとつの疑念がふと立ち上がった。−−−街中に貼ってある殺人犯の指名手配写真。何年経っても容易に捕まらない逃亡犯。それと先程のチンドン屋が重なったのである。白塗りの誇張した化粧、それは素顔を隠した仮面である。その姿でコンビニに立ち寄っても、或は電車に乗って移動しても−−−それは日常の一コマの情景にしか映らない。もし先程見た橋上の連中の中に、「その人物」がひょっとして紛れ込んでいたとしたら、さあ、どうだろう−−−。そんなことを考えていると、再び、あの音が聞こえて来た。チンチンチンとはしゃいだような鐘の音、哀愁を帯びたクラリネットの悲しい響き−−−。それが風に乗って、遠くから、そして時に近くから切れ切れに聞こえて来て、やがて−−−消えていった。

 

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『千年劇場—ヴェネツィアの〈逃げる水〉を求めて』

『奇才逝く』

携帯電話を開くと、ニュースが断片的に流れてくる。先日何気なく見ていたら,〈和田勉氏死去〉の知らせが入って来た。そして間を置かず、次に〈ソフトの不具合が原因か!?〉の文字が入って来た。メカに弱い私は、即座に二つの情報をくっつけて解釈し、てっきり和田勉の死因は、パソコンをいじくっていて感電死してしまったのだと結論付けてしまったのであった。そして・・・あの和田勉氏らしい最期だなぁと、妙な感慨にふけっていったのであった。

 

確かに和田勉というディレクターは奇才であった。「天城越え」「阿修羅のごとく」などの重厚な名作が次々と浮かぶ。TVドラマの水脈を拓き、太地喜和子夏目雅子といった女優を次々と〈本物〉に化えていった。しかしTVから名作ドラマが生まれなくなるのと、和田勉氏の姿を見かけなくなるのは重なり合い、TVは唯の呆けた影像を垂れ流すだけの入れ物と化していった。そして、TVドラマから、情熱、思い入れ、こだわりが消えていった。いやTVドラマだけではない、美術の世界もそうである。そこそこに軽く病んだ(勿論ふりだけであるが)絵や,情報のための具と化した作品が次々と現れては消えていく痴呆現象が、まだ暫くは続くのであろう。メディアの情報を幻想ではなく、実体と思い込んでしまう若くて芯の無い多数派は、当分の間、目先だけの状況に一喜一憂しながらブルブルとぶれ続けるのであろう。美術の世界も軽くて薄い方へと歪みながら落ちていっている。

 

 

森岡書店で個展開催中!

 

さて、17日から茅場町の森岡書店で始まった個展『千年劇場−ヴェネツィアの〈逃げる水〉を求めて』は、好評のうちに進んでいる。出来るだけ会場には足を運んでいるが、場所柄もあってか様々な出会いが毎日のようにあって面白い。シャープなセンスを持ったデザイナー、写真家、出版編集者、そして滅多に御目に掛からない骨太の評論家etc。昨年も来てくれたが,今回も自称—外人部隊を名乗る謎の人物が極上のワインを持って来てくれた。今回の写真の試みはかなり実験的な事をしているが、初日から早くも反応があり,コレクションされていく方が多い。プロフェッショナルとして当然なことではあるが〈常に表現する者は変化していなくてはならない〉という事を、私は自分に課している。そしてそれが、眼力を持った本物の観者の方には確実に伝わっている事を、今回の個展でも実感しているのである。

 

 

会期:2011年1月17日(月)〜29日(土)(13:00-20:00)会期中無休。
会場:中央区日本橋茅場町2-17-13 第2井上ビル305号 Tel: 03-3249-3456

地下鉄・東西線、日比谷線茅場町駅下車。3番出口から徒歩2分。
永代通りを霊岸橋に向かい橋の手前を右へ。霊岸橋川岸に立つ、
昭和2年建立のレトロモダンな建物の3階が会場です。

 

 

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『目前に迫った三つの個展』

新年あけましておめでとうございます。今年もメッセージのご愛読を宜しくお願いします。

 

さて、2011年の幕明けは寒波で始まった。鳥取までも含めた日本海側は久しぶりの大雪である。私が生まれた福井もかなりの積雪であるらしい。しかし、昔はもっと凄かったと記憶している。田んぼの真ん中にある小学校を目指して集団登校の私たちは進むのであるが、上からではなく、横なぐりに降る雪の激しさで、視界はかすんで全て灰色。目の前にいる数人以外は何も見えない。ただ勘だけを頼りに、小学校が在ると思われる方向を目指して進むのである。この状況を詩的に言えば、フェリーニの映画「アマルコルド(私は憶えている)」の世界。リアルに言えば、映画「八甲田山−死の彷徨」のようなものである。自分で言うのもなんであるが、粘り強い性格は、この体験で養われたように思われる。しかし情緒もくそもない凄まじい吹雪の中で、小学生の私は早くもこう思ったものである。「一刻も早くこの土地を出よう−−−」と。

 

今月の17日から茅場町の森岡書店で個展〈千年劇場−−−ヴェネツィアの「逃げる水」を求めて〉が始まり、2月7日からは、恵比寿にある二つのギャラリー(同じビル内に隣接している)で、二つの個展「十面体−−メデューサの透ける皮膚のために」と「リラダンの消えた鳥籠」の開催が予定されているので、今その制作に追われている。これらの個展を企画された三人のオーナーの方々は、センスの高さに加え、強度に洗練された美意識を持っているので、そのハードルの高さが、私を追い込んでいくのであるが、これは表現者として理想的な形だと思う。各々の個展の詳細は追って又、お知らせします。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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