月別アーカイブ: 11月 2017

『新たなる表現の地平へ』

日本橋高島屋・美術画廊Xでの個展が盛況のうちに終了した。そして、多くの作品が縁という出会いを経て様々な人のコレクションに入っていった。これからは、その人達が作品との長い対話を交わしていく、もう一人の作者になっていくのである。…長かった個展が終わり、私はアトリエへと戻って来た。そして数ヵ月間にわたった制作の日々を思い出してみた。85点の新作を、およそ2日に一点の速度で次々と立ち上げてきたわけであるが、やはり私の制作速度はかなり早い方かと思う。だからであろうか、私は他の表現者でも、早い人の方を好む傾向が強い。わけても佐伯祐三は、今もなおその筆頭である。また27年前にロンドンの大英博物館で見た、モ―ツァルトの楽譜、そしてその横に並んで展示されていた、ジョンとポ―ルの『Help』の、凄まじい速さで書かれた楽譜を見た時の興奮は忘れ難い。また、詩人のランボ―をモチ―フとした私の二点の版画(今回の画像にその内の一点掲載。掲載本の左からジム・ダイン、ジャコメッティ、私、パブロ・ピカソ)が展示されている、フランス・シャルルヴィルのランボ―ミュ―ジアムで見た、象徴主義の天才詩人アルチュ―ル・ランボ―の詩『イルミナシオン』の直筆原稿を見た時の興奮は忘れがたい。まさしく天啓のごときインスピレ―ション、稲妻捕りの速度がそこからありありと伝わって来るのである。

 

今回掲載した画像の中に、舞踏会をモチ―フにした作品がある。画面下方の45度に開いたコンパスのような金属の断片を手にした瞬間に、たちまち舞踏会のイメ―ジが間髪を入れずに閃いて来て、一気に攻めるように作品が体を成して出来上がるのである。金具と舞踏会が何故、私の中で瞬時に結びつくのか、私自身にもわからない。ただ私の直感がインスピレ―ションを喚んで瞬時に二つを結び付け、『偏角45度から成る舞踏会の情景』という作品へと一気に形象化していくのである。そして、出来た作品を観た多くの人達が、この結び付きからインスパィア―して、一気にイメ―ジを拡げていくのを見ると、私のこの直感は独断にとどまらない普遍性を帯びて、人々の想像力を揺さぶる確かな装置と化しているのを、私は確かな実感を持って数多く見てきた。…この辺りの話を、個展会場に来られた、名古屋ボストン美術館の館長であり、また俳人でもある馬場駿吉さんにお話ししたところ、私の制作速度は、連句を作り上げていく集中した呼吸に重なるのではないか……という鋭い分析を頂いた。その時には、高崎市美術館・学芸員の堤淑恵さんも同席されていて、馬場さんの分析に興味をもって頷いておられたのが印象に深く残っている。……とまれ、個展は終わった。そして、私は毎日会場にいて、自分の現在形をまさぐり、次なる表現の地平を透かし求めていた。そして、次なる展開へと拡がる幾つかの確かなヒントを掌中に得た。来年は前半に既に幾つかの個展開催が決まっており、また10月からは日本橋高島屋での次なる個展も決まっている。更には、6月から9月までの長期に渡って、福島にある美術館での私の個展開催も決まり、またその前の2月にヴェネツィアでの写真撮影も入っている。……ただ、今は少しだけの休憩をとって、じっくりと読む事が出来ないでいた読書に浸りたいのである。読書、……これもまた豊かな充電とエッセンスの吸収になるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『作者は二人いる』 

日本橋高島屋本店6階の美術画廊Xで開催中の個展が27日で終了するが、かつてない手応えの中で、私は毎日会場に通いつめている。遠くは北海道や鹿児島の個展で知り合ったコレクタ―の方々をはじめ、画廊や美術館の学芸員、そして旧知のコレクタ―の方々が遠方からも駆けつけてくれて、今までの個展の中で最もクオリティ―の高い今回の個展を堪能されている。

 

多くの方々が、作者である私が会場にいるのに気づいて感想を言われていくが、先日来られた、日本美術史に詳しい方は、「今年観た展覧会の中で、運慶展とこの個展が最も見ごたえがあった」と率直な感想を真顔で語ってくれたのは、さすがに嬉しかった。制作の合間を縫って私も運慶展は観ているが、昨今の薄っぺらく浅い美術の在りように比べ、この濃密で奥深い運慶の強度な作品を観る観客の眼差しは真剣であった。……当然な事であるが人は皆、本物の芸術に出会いたいのである。

 

作品が優れているか否かの最もわかりやすい見分け方は、その作品の前で、どれだけの時間、観者が観ているかである。……つまり作品それ自体が持っている牽引力が、それである。運慶展の時の観客が作品を観る時間は確かに長く、皆、その時間の中で自分との内なる対話(観照)を交わしているのである。……そして私の作品を観る人々もまた長く、かつて見た事のない「不思議」に立ち会うように諸々の作品の前で、自分の肖像を映すようにして内なる対話を交わしている。……そして揃って人々が私に話す作品の感想は、「不思議な懐かしさを持っているが、しかし今まで全く観た事のない世界」という感想である。人は皆、誰もが実は素晴らしい想像力を持っている。そして、人々の記憶の深層には共通した記憶の分母(イメ―ジの心器)があると私は確信を持って思っている。

 

……人々が共通して持っている、共通してある記憶の原郷、……それをこそノスタルジアというのだと私は思っている。そのノスタルジアの核を揺さぶり、その遠い感覚を突いて立ち上がってくる想像力を顕在化させる装置を私は作っているのである。だから人々が私に語ってくれた感想は、その想いと見事に照応していることを、個展の会期中に確認する事が具体的に出来るのである。……画廊にいて、この世に一点しか存在しない作品が、何方に所有されていくのかを確認する事は、私の創造行為における最終行程である。私は作品をこの世に立ち上げた。後は所有した方々が自室に飾り、その作品との長く尽きない対話を自在に紡いでいくのであり、その意味でも、その人がその作品の活きた作り手、すなわちもう一人の作者になっていくのである。私はマチスが自らの芸術観に課した言葉―豪奢・静謐・逸楽を自分の作品にも課している。眼の至福、眼の逸楽をもって艶を帯びた「視覚によるポエジ―の顕在化」を追っているのである。……とまれ、今回の個展をまだご覧になっていない方々は、ぜひのご来場をお待ちしております。

 

 

(作品部分)

 

(作品部分)

 

(作品部分)

 

(作品部分)

 

 

 

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『大規模な個展始まる―PART②』 

今月の27日まで日本橋高島屋で開催中の個展が、ようやく半ばに入った。しかしまだ会期が半分以上あるので、これからどのような方々が来られるのか楽しみである。今回の個展では、会場の中にパルテノン神殿にあったギリシャ彫刻『セレネの馬』がインスタレ―ション的に、大きな三角定規、ダ・ヴィンチの布の素描、暗示的な14の数字……などと共に構成されて展示してあり、来廊者の目を驚かせている。私はこの、大英博物館所蔵の『セレネの馬』がたいそう気にいっており、版画やミクストメディアで作品化しているが、その見事な石膏像が7月にロンドンから届いたので、個展の為に展示したのである。巨大なのでかなりインパクトがあるが、今回の展示している数々の作品が放つ強い磁場と合わさって、会場に硬質な緊張感を醸し出している。…………個展の一日が終わり、夜にアトリエに戻ると、つい先月までアトリエを埋めていた作品が全て個展会場に運ばれてしまった為にたいそう静かである。……個性ある様々な役者逹が劇を演ずる為に舞台に行った後の、まるで静まりかえった楽屋のようである。その役者逹のほとんどがコレクタ―の人逹との幸福な出会いを経て、その人逹の元へと行き、私のアトリエにもはや戻ってくる事はない。……私はそのアトリエの中にいて、つい先月まで没頭していた制作の日々のことを思い出していた。

 

……制作は、今年の6月から始まった。6月から10月まで、およそ150日で85点。芸術を紡いでいくこの速度は相対的に計れないので、速いのかどうかはわからないが、美の先人逹の速度に想いを馳せると、私のこの速度に近いのはゴッホである。奇跡の二年と言われた最晩年の二年間、二日に一点の速度でゴッホは描いていたのである。……しかし、ゴッホより速いのが佐伯祐三で、一日に一点。フラゴナ―ルは三時間で一点の肖像画を仕上げていたという。……しかし、最も速いのはやはりミケランジェロが描いた、ロ―マ、システィ―ナ聖堂の天井画に指を折る。早く仕上げなくてはならないフレスコ画という事もあるが、畳3枚分の面積を彼は三時間で、最高度の表現世界を描いていたのである。昔読んだ宮城音弥氏の『天才』(岩波新書)によると、レンブラントの名作銅板画『三本の樹』は、女中が街に買い物に行って帰ってくる間に仕上げていたという。……ただ、速さと同時に大事なのは、いうまでもなく完成度の高さである。この2つは両刃の難しさがあるが、その2つを作品に孕ませていくところに作り手である事の、創る醍醐味がある。……池田満寿夫氏はかつて私を評して「異常なまでの集中力の持ち主」と書いてくれたが、池田氏自身も、版画集の最高傑作『スフィンクスシリ―ズ』を僅かに3週間で完成させている。……三島由紀夫が、その眼力を澁澤龍彦氏と共に最も評価していたドイツ文学者の種村季弘氏は、「美術の分野で、作品の完成度の高さでは北川健次を越える者はいない」と断言してくれたが、私はその言葉を自分に向ける常なる刃の切っ先として自らを追い込み、この「完成度の高さ」というものに自分を強いて制作している。……そして、その意識の緊張は、今回の個展でも、観者の人逹の感性に直に伝わっているように思われる。……とまれ、まだ個展は27日まで、暫く続いていくのである。

 

 

 

 

 

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『大規模な個展始まる』 

先日の8日から日本橋高島屋6階の美術画廊Xで、個展『鏡の皮膚―サラ・ベルナ―ルの捕らわれた七月の感情』が始まった(27日まで)。……この美術画廊Xの会場の規模は広く、平均した画廊のスペ―スのゆうに三倍以上の広さがある。……私は個展を開催する際には、その画廊空間を劇場に見立て、各々の空間に合った個展の主題を立ち上げるのであるが、この美術画廊Xはその意味で、例えるならば叙情詩ではなく叙事詩的な拡がりを持った主題が自ずと必要となってくる。この主題の切り替えは、プロとしての醍醐味であり、結果として今回の個展はオブジェ、ミクストメディア、コラ―ジュ他を含めて新作86点という、今までで最大の個展となったのである。また今回の個展は制作中から手応えを覚えていたが、私の作品の変遷をよく知っておられる来場者の方々から、今まで観た個展の中で、今回の新作の質が最も高く、また一点一点の作品が持つ完成度が最も高いという確かな感想を数多く頂き、個展会場にいて私は、大いなる手応えを覚えているのである。また普段なかなかお会い出来ない九州や北海道といった遠方のコレクタ―の方々も各々に遥々来られて、旧知を暖めあっているのであるが、私はこの事を毎回の個展における大事な楽しみにしているのである。……作品は、また新たな実験性と、完成度の高さを併せ持たねば、というなかなかに難しいハ―ドルをいつも自らに課しているが、とまれ今回の個展は、その視点からも自信作が多く、来場された時に、じっくりと愉しんで頂ければと願っている。……会期は27日までと長く、個展はまさに始まったばかりである。……作品はまたその多くがコレクタ―の人たちのコレクションとなって、その方々がもう一人の作者として長い対話を交わしていくのであるが、その意味でも、私は会場に在って、「作品」という私の直なる肖像の映しと暫しの対話を交わしてもいるのである。……この機会にぜひのご来場をお待ちしております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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