CCGA現代グラフィックセンタ―

『インフルエンザA型に』

3月の富山の画廊・ぎゃらり―図南(川端秀明さん)、……そして4月の東京の画廊・ギャラリ―香月(香月人美さん)での各々の個展が成功のうちに終了した。新しいコレクタ―の方々が各々の画廊で共に増え、個展はやはり「継続こそ力」である事をあらためて実感する。そして、常に実験性を絶やすべきではない事を実感する。……先ずは、個展を成功へと導かれた川端秀明さん、香月人美さんにあらためて御礼を申し上げたいと思う。……そして、遠方からも含めて、個展にいらして頂いた全ての方々に。また、私の作品を昔から変わらず愛しておられるコレクタ―の方々。そして、今回の個展を出会いとして、新たに私の作品をコレクションされた方々に、感謝の気持ちを捧げたいと思う。……皆さん、本当に有難うございました。

 

……個展とは、しかし様々な意味でかなり体力を消耗するという事を、個展終了後に今回は身をもって知らされた。……個展が終わりホッとする間もなく、深夜に急に悪寒と40度より確実に高い熱に突然襲われてしまったのである。翌日、病院で検診すると、インフルエンザA型との由で1週間くらいは安静に……と言われて、久しぶりの床に伏せる日々が続いた。しかし、のんびりと休みたい気持ちもあるが、迫っている〈やるべき事〉を前にすると、グルグルと頭が回る。

 

前回のメッセージでも少し触れたが、先ずは6月から9月まで福島の美術館―CCGA現代グラフィックセンタ―で開催される大規模な私の版画の個展。……求龍堂から刊行される私のオブジェ作品集の様々な打ち合わせと、詰めの進行。……以前に求龍堂から拙著『美の侵犯―蕪村vs西洋美術』が刊行された直後から、オブジェの作品集刊行の企画は立ち上がっていたが、担当編集者の方と私のスケジュ―ルがなかなか合わず、漸く、満を持しての具体化を見たのである。……また今年の10月からは、都内でも最も大きな空間である、日本橋高島屋・美術画廊Xでの個展(今回で毎年連続通算10回目となる)の為の制作が待っている。毎回、少しずつ新たな試みをしながら歩んで来た、美術画廊Xでの個展。継続は力なりで、この個展を楽しみにしている人達が年ごとに増え、私も制作に力が入るというもの。…………さてさて、今回は珍しく病床からのメッセージ記述となってしまい、正岡子規や宮沢賢治の晩年の姿が枕元に浮かんで仕方がないが、次回は全快した脳みそで頑張って書きますので、乞うご期待なのであります。

 

 

 

 

 

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『銀座・画廊香月個展PART②』

ずいぶん昔、まだ20代の頃に、犬山市にある「明治村」を訪れた事があった。広大な敷地の中に、移築した実際の漱石の家や帝国ホテルなどの貴重な遺構が数多く点在し、まさにタイムスリップの醍醐味があって、一日中、嬉々としながら過ごしたのであった。夕刻、明治村の閉門の時が来て出る時に、「もし、この広大な敷地の中の貴重な建物の中に、そっと人が潜んでしまったらどうなるか!」……その点の警備の事に興味が湧いて、係員に訊ねた事があった。係員の答は素晴らしかった。「閉門30分後になるといっせいに犬を放して潜伏者を見つけ出します」。

 

刑務所から逃走して向島の中に10日以上潜んでいるという男の話は、辞職に追い込まれた財務省の男や新潟県知事の弛んだ話よりもよほど面白く、私は興味を持って注視している。逃走者1名VS警官2000名。……品川区ほどの広さがあるという向島。その中で今もなお(尾道に泳ぎ渡ってしまった可能性もあるが)逃走劇は続いているのである。……未だ捕まらないという今回の報道を見て、私が思い出したのは、先ほど記した明治村の犬を放つという話であった。島民を向島の一ヶ所に集めて、性格の荒いド―ベルマンをいっせいに八方から放つと、さてどうなるか!?……それを私はいま想像しているのである。この向島には20年ばかり前に訪れた事があるから、この想像は1種のリアルさを帯びて浮かんでくる。

 

この向島には1000軒以上の空き家があり、その家々をチェックしている警官は、家のチェックが終わるとその家の目立つ場所に〈チェック済み〉の緑のシ―ルを貼って次の捜査に向かうという。……しかし、その緑のシ―ルを貼ってある家(既に捜査済み)に、そのチェック法を知ってか知らずか、逃走者が夜陰に乗じて密かに入ってしまったら、事は厄介である。……この逃走している孤独な男の、追い詰められた「眼差し」に、光眩しい西海道、春ことほぎの向島の空や海や緑陰は、はたしてどのように映っているのであろうか。……この男の脅える視線がそのままにカメラのレンズとなって風景を撮したら、その写真は犯意を映した陰りのマチエ―ルを帯びて、なかなかに面白い写真が出来そうな気もする。あぁ、そのような犯意を帯びた視線のままに、また撮影の旅に出たいと思う、春四月末の私なのである。

 

―さて、24日まで開催中の銀座・画廊香月での個展も後半に入った。連日、遠方からも個展を観にはるばる来られる方が多く、私の現在の表現世界をゆっくりと時間をかけて鑑賞されている。私が造り出すオブジェの表現世界。個々がこの世に一点しかないオリジナル故に、各々の作品をどなたがコレクションされていくのかを見届ける事は、私の表現行為における、ある意味での最終行為である。私は、その作品をこの世に立ち上げた。……そして、コレクションされた方は、これから後、その作品と長い時をかけて対話を交わし、様々なイメ―ジを紡いでいく、もう一人の紛れもない作者なのである。その意味で、個展の最終日まで、私の表現活動は続いているのである。……この個展の後は、6月から開催される郡山のCCGA現代グラフィックセンタ―での、版画を主とした大規模な個展。……また求龍堂から刊行される、私のオブジェ(近作を主とした)の作品集の打ち合わせ……と、多忙な日々が待っているのである。

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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