『いっそ知らずにいたかった!!』

昨日まで三日間、福井に滞在していた。11月下旬から福井県立美術館で開催される私の個展の打ち合わせと、コレクター、画廊、美術館から集められた250点近い私の作品のチェックの為である。ここに掲載した画像は、その一部分であるが、収蔵庫に並べられた処女作から最新作までを一堂に見るのは初めての事なので、いろいろと考えるものがあった。作家活動を始めてから35年間の私の人生の〈形〉が眼前に並べられている事に、それなりの感慨を覚えたのである。しかし、これは回顧展ではない。あくまでも現在、そして未来の私の作家活動の展開を照射するための展覧会なのである。タイトル名は,北川健次展『KENJI・KITAGAWA — 鏡面のロマネスク』である。

 

滞在期間中、講演の打ち合わせや新聞での連載執筆の話をする為に様々な方とお会いした。その中の一人のA氏と話をしていた折、Fという人物の話が出た。話していくと、Fは私の中学時代の親友と同一人物である事が解った。Fは半年以上、風呂にも入らず勉強していたという誇張された逸話がある程のガリ勉であった。しかしそのFが最近あろうことか女装して銭湯の女風呂に侵入して現行犯逮捕されたという。話を聞きながら,私はもう一人、やはり中学時代の友人であったYの事を思い浮かべた。Yは、歩きながら本を読んで勉強していた程の、これまたガリ勉であった。Yは東大の 文科Ⅰ類に入ったが、学生時に郵便局に侵入して放火をし、やはり現行犯で捕まっている。過度の勉強、過度の禁欲は,成長時の少年の脳,特に扁桃帯に歪みを生じるのであろうか。そこへ行くと,少年期に早々と野生に向かって吠えていた北川少年は、昨今すこぶるバランスが良い。しかし、そうは言ってみても、やはり旧友の後日譚はあまりにも哀しい。

 

私たちは放課後に自転車に乗って郊外に行き、輝く山の白雪を遠望しながら、(大人になったら・・・・)という淡い夢を語り合ったものである。そう、まるで映画『青い山脈』の少年版のように。その美しかった記憶が今、切れ切れになった散っていく・・・・。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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