『個展を前にして』

 

昨日、二冊の本が拙宅に届いた。一冊は河出書房新社刊の『パノラマニア十蘭』(久生十蘭短編集)で、表紙には私のオブジェ『パルミジャニーノの青の肖像』が使われている。前回も私のオブジェだったが、担当されたデザイナーのセンスが良く、私は大いに気に入っている。作品の使用に関しては、私は一切の注文をしない。彼らのプロの感覚を信用しているし、自在にいじくられても耐えうるだけのイメージの幅を、私は、自分の作品が持っているという自信があるからである。

 

 

 

 

 

もう一冊は、平凡社刊のコロナブックシリーズの『写真集』というタイトルの本である。編集執筆は森岡督行氏。私の個展を度々企画開催されている、茅場町にある森岡書店の社主である。会社名には「書店」が付いているが、以前にもメッセージで紹介したように、昭和2年建立のミステリアスな空間で、展示の際は、私の作品とピタリと照応してしまう。本は、優れた写真集の「現在形」を的確に紹介し,森岡氏の写真に対しての博識と炯眼が伝わってきて面白く参考になる。これもぜひ読んで頂きたい本である。

 

 

 

さて、ネットギャラリーを開設して三ヶ月ばかりが過ぎた。全国にいながらも私がまだ存じ上げない,私の作品のコレクターの方々から、「遠方にいる為に個展を見て作品を購入出来ないので詳細を知りたい。出来ればネットを通じて作品をコレクション出来ないだろうか!?」という問い合わせや依頼を受け、それに応える形で開設したギャラリーである。しかし正直なところ、オリジナルを見ないで購入に踏み切れる人などいるであろうかという疑問があった。ところが開設してみると、私の不安はたちまち消えた。私が個展をした事のない特に遠方の地方の方々からコレクションの申し込みが予想を遥かに越えて入り、私が存じ上げなかったコレクターの方がかなり存在していることを知って、大いに自信づけられているのである。パソコンは〈未知〉を切り結ぶ可能性に充ちている。その意味で、私の作品を何点もコレクションされていながら、出会える事のなかった人達と出会えるという豊かな状況が急速に開けているのである。私は〈個展〉という形と併せて、ネットギャラリーにも、今後さらに力を入れていきたいと考えている。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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