名古屋ボストン美術館で開催中のジム・ダイン展(8月28日まで)を見に行ったが、初期から現在までの版画が150作品、この先鋭で独自な作家の軌跡を巧みに見せて圧巻であった。午後から愛知芸大で、ジム・ダイン氏とボストン美術館キュレーターのクリフォード・アクレー氏による対談があるので行く。実りの深い内容の対談により、ジム・ダイン氏が何よりも作品の中に有機的な〈気〉を入れることを重視している事を知る。
対談後、名古屋ボストン美術館館長の馬場駿吉氏の御好意で、控え室のジム・ダイン氏とクリフォード・アクレー氏に紹介され、直接面識を得る機会を持てたのは幸運であった。ダイン氏は私が版画を始めた20代に最も影響を受け、範とした作家なのである。3年前にフランスのランボーミュージアムで、ジム・ダイン、ピカソ、エルンスト、ジャコメッティ・・・そして私の作品が共に展示され、私は強い自信を得たのであるが、まさか数年後に、ジム・ダイン氏本人に御会い出来るとは思ってもいなかった。アクレー氏には後日、私の作品が入ったCDをボストン美術館の方に送る事を約束する。アクレー氏は、ジム・ダイン氏が国際的な評価を得るために尽力した人。秀れた慧眼の人である。
『主題と変奏—版画制作の半世紀』と題したこのジム・ダイン展は、しかし残念ながら他の美術館へは巡回しない。《ハート》《バスローブ》《道具》などの身近なモチーフを描きながら、見る者の感覚の普遍を深々と衝いてくるジム・ダイン芸術を体感したい人には、ぜひ名古屋ボストン美術館を訪れて見て頂く事をお薦めしたい展覧会である。
「芸術は癒しである」—そのような浅薄な認識を真顔で語る作家や画商は存外に多い。そういう一面的な狭い認識しか持てない者たちに対し、芸術とは何よりも観照であり、鋭く磨かれた鏡面のごとき、自分への問いかけである事を自明のように体感出来る展覧会が、銀座一丁目の中長小西(NAKACHO KONISHI ARTS)で今月の30日まで開催されている。陶芸作家—岡部嶺男氏の没後20年を経て実現した天目茶盌14点による、初の天目展である。考え抜かれた照明、そして作品各々が共振を奏でる配置。この画廊が作者に寄せる真摯な思いが直に伝わってくる空間の中で、今一人の自分と立ち会ってみるのも得難いものがあるのではないだろうか。こちらも又、お薦めしたい展覧会である。