『白洲・駒井・そしてジム・ダイン』

〈あの日〉から1ヶ月が経ったが、福島県を中心にして余震が止まらない。いやむしろ、地中深くで不気味な地霊が再びさ迷い始めた感さえある。私たちが体感しない揺れも含めると、実は四六時中、絶えず地面は揺れ続けているのであろう。関東南部までも含めた二つのプレートがぶつかり合っている圏内では、再び襲ってくるかもしれない震度6以上の揺れに備えて、神経を張りつめた日々が続いている。

 

そんな憂さを払うべく二つの展覧会を見に行った。白洲正子展(世田谷美術館)と駒井哲郎展(町田市立国際版画美術館)である。白洲展は予想を越えて圧巻。白洲正子が求めた先には、スピノザが『エチカ』で唱えた汎神論(キリスト教のような絶対神ではなく、私たちの内に既にして在る内在神)と重なるものがあると見た。駒井展は内覧会があったので、その日に訪れた。来場者の多くが見知った顔。しかし皆、白髪が増えてずいぶんと表情が大人しい無難な顔になってしまった。その彼らが私に向かって〈全く昔と変わっていないが何故!?〉と問う。たぶん、私は何処かで成長が止まり、大人になりそこねてしまったのであろう。

 

さて、駒井哲郎展。生前彼は口ぐせのように〈イメージの物質化〉について語っていた。それが実証として目の前に在り、私の忘れかけた初心を衝いてくる。今、私は二年以上銅版画の制作から遠去かっている。新たな思い切った展開を計っている為である。私は駒井哲郎から多くを学んだが、しかし最も影響を受けたのはジム・ダインであった。造形思考、エスプリ、複眼的な視点・・・・。一人の作り手としてジム・ダインの存在は二十代の私の強い導きであった。そのジム・ダインの展覧会が今月23日から名古屋ボストン美術館で開催される。500点近い数の作品が展示されるという。ジム・ダインも来日の予定。館長の馬場駿吉さんとの半年ぶりの再会も楽しみである。名古屋に行き、更なる充電を私は期している。上記の三つの展覧会は私がお薦めする必見の展覧会である。

 

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