『異才の人―中西夏之』 

「山頂の石蹴り」の連作や、2次元と3次元を絡めた弓形のシリ―ズなどの問題作で知られる美術家の中西夏之さんが逝去された。一定の距離をおきながらも私が現存する先達の表現者として、唯一人意識していた人だけに心中よぎるものがある。……澁澤龍彦氏の1周忌の折、私と中西さんは北鎌倉駅から浄智寺へと、そぼふる雨の中、相合傘で歩きながら話に没頭しすぎたあまり、間違って無人の東慶寺の奥に入っていってしまった事、……また別な時に池袋で、西脇順三郎以後の最も優れた詩人―吉岡実さんとの三人で話した、表現者としての矜持に関わる濃密な話しなどを思い出す。……最後にお会いしたのは、鎌倉近代美術館で個展を開催した加納光於さんのレセプションの二次会の酒宴の時であった。……私はこの時は中西さんが、かつて土方巽の舞台装置として突きつけた、触れれば切れる「真鍮板」の着想の妙について言及した。多くの美術家達が土方から装置を依頼された時に、彼らが作ったのはオマ―ジュでしかなかったが、中西さんの真鍮板は、中西夏之の側に土方を巻き込む難題を先鋭的に提示したものであったかと思う。私はその事を珍しく中西さんに熱く語った。……話しがそのまま続けば形而上学の話しになるところであるが、この日の私の語りは急に飛び、年長者の中西さんに向かって「誠に男子の気概とは、そのようなものでありたいですなぁ!!」と言い放った。……美術家の宴会が一転して、そこだけが幕末の京都、祇園の座敷で気炎を挙げる高杉晋作や久坂玄瑞の口調で話しは終わり、……この異才とは、それが現世での最後の会話となってしまった。………………私のアトリエには、その中西さんの作品が一点ある。それは正面性と反対称を主題とした中西芸術の根幹を成す作品であるが、私はその作品を見ながら、この謎多き異才のやり残した問題について、私なりに絡めとりながら考えていく事になるであろう。

 

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