『危うさの角度』

先日の17日に、高島屋美術画廊Xで三週間開催されていた個展「Glass  Obsession―スピノザの皮膚の破れ」が手応えのある盛況の中で終了した。年々増えている来廊者の数。……そして今回の個展では、一度ご覧になった方が再び来られて、名残惜しそうにじっくりと作品をご覧になる姿が目立った。私の未知の方達のツィッタ―などの書き込みでも「格が違う」「最高にハイレベルな展覧会を堪能した」……といった感想が数多く見られ、打てば響くという手応えを覚えた。やはり人々は、美が強度の内に在るという事を感じ取っているのであろう。……会期中、私は毎日その広い画廊の中に在って、訪れて来られた旧知の人達との貴重な会話を楽しみ、また今回、縁あって新たなコレクタ―となられた人達との、作品が取り持つ不思議な、強い出会いに感謝した。……そして、来訪者のふと絶えた静かな時間に、私は今回作り上げた作品群の意味と「かたち」について自問した。制作時にアトリエにあった作品群はいまだ生々しい。それが、画廊の中に運ばれて展示される事で客観性のフィルターを帯び、ようやくにして見えてくるものがあるのである。……そして、次なる主題が、パリにかつて存在した異形な建築物「トロカデロ」なるものから既に立ち上がってきている事を会期中に感じ取り、美術画廊Xで私の個展を第一回目からプロデュースしていただいている福田朋秋さんにだけ打ち明けた。……そして持参してきたその建築物の沢山の写真を見てもらい、現時点での、未生でイノセントなままの私の次なる主題の共有が早くも始まった。まさに美術画廊Xでの個展は、福田さんと私との共同作業から毎回始まっているのである。……おそらくは、全く意外な幾つもの方向性へと転じていくであろう、この「トロカデロ」。私は企画・構成力において抜群のセンスを持つこの福田さんに全幅の信頼を寄せているが、次に攻めるべき新たなイメ―ジの領土を共有し合う事で、早くも私達は次の個展へと歩み出しているのである。

 

さて、日本橋高島屋の美術画廊Xでの個展が終了して、例年ならば暫くの休養に入るのであるが、今年の私はそうはいかない。……11月3日―26日まで、名古屋のSHUMOKU  GALLERYで開催される私の個展「危うさの角度」に出品する為の新作オブジェを制作しているのである。……名古屋では以前にも何回か個展を開催してきたが、版画や写真が主であり、オブジェやコラ―ジュをまとめて発表するのは今回の個展が初めてである。名古屋は、名古屋ボストン美術館館長の馬場駿吉さんをはじめ、長いおつきあいの方々も多く、馴染みの深い土地である。とはいえ、11月からの私の個展がいかなる形作りを成していくのかは、勿論未知数であり、それだけに期待もまた大きいものがある。……この個展についてはまた今後のメッセージで詳しく書く予定であるが、ともかく、まだ暫くは制作に追われる日々が続くのである。

 

 

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