リルケの『マルテの手記』は『ドラクロアの日記』と共に、時としての私の枕頭の書である。その中で、リルケは、「詩は感情ではなくて経験である。一行の詩をつくるのには、さまざまな町を、人を、物を見ていなくてはならない。・・・」と記しているが、ここには幾分かの真実があると私は思う。この一節に触れる度に、私はかつて歩いたセビリアのサンタクルス街のパティオの原色の花々を、またトレドのアルカンタラ橋の夕景を、又、ポートメリヨンの村の灯やブルージュの霧に接した事などの一刻一刻を思い出し、旅の記録の重なりが、私の想像力におけるポエジーの胚種となって変容して、今の私の表現に、感覚と共にそれを支える構造体となっている事を強く実感する。私の作品は、つまり、〈視覚を通しての見える詩〉であるという認識が、私にはあるのである。
さて、13日(金)から東京茅場町にある森岡書店で私の個展『召喚-フレミングの仮説』が始まった。新作のミクストメディア作品や写真・オブジェ・版画を併せた20点以上を出品している。森岡書店は今回で三回目。毎年最初の個展はここで始まる。以前にも記したが、昭和二年築のミステリアスなビルの中にある。この空間は、私の作品世界とあまりにピタリと合っており、作品の虚構性が現実とリンクし合って、不思議さの尽きない展示となっている。
会期は1月28日(土)までで日曜のみ休み。開廊時間は午後1時から夜の8時までなので、夕刻からゆっくりと来られる方も多い。私は19日(木)と、25日(水)は休むが、それ以外は1時の始まりと共に森岡書店に在廊の予定。今回の個展は、最近刊行した私の写真集も直接販売している刊行記念展になっている為か写真関係者も多く、初日の今日は、パリのオデオンで写真のビンテージ物や写真集を商っている御夫妻なども来られた。会期は二週間、ぜひご来場されたし。
森岡書店:中央区日本橋茅場町2-17-13 第二井上ビル305
TEL.03-3249-3456 www.moriokashoten.com
地下鉄東西線・日比谷線「茅場町」3番出口より徒歩2分。
永代通りを霊岸橋に向かい橋の手前を右へ。
古い戦前のビル(第二井上ビル)3階。