ぎゃらりー図南

『狂い月』

……イタリアでは、3月の事を〈狂い月〉というのをご存知であろうか。春めいた気配が、イタリア半島を縦断するアベニン山脈の冷気によって狂わされ、こと3月のイタリアは、気象が荒れて天気が読めないのである。私がその言葉を知ったのは、3月の後半にイタリアへと向かう機上においてであった。(……面白い言葉だなぁ、これは何かに使えるな)……そう思いながら過ごした10日間ばかりの短い旅。しかし、日本に帰る私の頭の中には次なる版画集の構想が生まれていた。2003年に刊行した私の三作目の版画集『ロ―マにおける僅か七ミリの受難』のタイトルの伏線には、この〈狂い月〉という言葉の存在があったのである。

 

しかし、狂い月はイタリアだけではない。3月に入り、例年より早い桜の開花が訪れたと思うや、一転しての冷たい春の雪。10度以上も異なる日々の寒暖の差で、私達の体は悲鳴をあげているに違いない。悲鳴……、私達の体は内実の意識下で体調に関する悲鳴をあげているが、桜が散る頃には悲鳴もやがて消える。…………しかし、怯えたトンボの目玉、或いは体型が陸に上がった小柄な河童を連想させる佐川なにがしは、いま自らが発した霞が関ロジック、官僚レトリックに破れが生じ、……内心、ここまで晒し者になって詰められるとは……、更には、ここまで身代わりの人柱にされてしまうとは!!の悲鳴をあげているに違いない。地検も動き始めたというが、さてどうなるかの、ここは妙なる夜桜見物である。論理的に緻密なシンタックス(統語論・整語法)から成る英語と違い、日本語は曖昧さを持って成り立っているので、国会の言語は不気味なまでに主語がなく、語尾も曖昧で、ロジックというよりは、もはや真逆の詭弁を労するだけの、汚ない日本語が乱れとぶ不毛な場にすぎない。曖昧さも極めれば、泉鏡花の美に到達するが、自称エリ―トを自負する官僚連中にその意味での艶ある文才は無い。ある筈がない。その点、三島由紀夫は東大法学部を出て大蔵省に入ったが、たちまち任されたのは大蔵大臣の答弁の原稿書きであったというから、言葉の正しい意味での突出したエリ―トだったのであるが、才能自らが運命を欲したように、その不毛な現場から離れて向かったのは、美しいレトリックが絢爛と咲き乱れる初期の名作『金閣寺』の執筆であった。彼が得意とする刑事訴訟法の明晰な論理の展開術は、日本語のひとつの結晶美へと転じていったのである。

 

 

 

 

……さて、先日の17日、私は豪雪が去ったばかりの富山へと向かった。ぎゃらり―図南で、4月1日まで私の個展『記憶の刻印』が開催されているのである。そしてオ―ナ―の川端秀明さんご夫妻、また初日から熱心に観に来られる懐かしいコレクタ―の人達に久しぶりにお会いするために、私はこの日の富山行を何日も前から楽しみにしていたのである。早いもので、隔年毎に開かれる、ぎゃらり―図南での個展開催は7回以上になる。川端さんと最初にお会いしたのは東京であった。私の展覧会を開きたいと熱心に云われる、その熱意が直に伝わってきて有り難かったのであるが、何より最初にお会いした時の川端さんの第一印象が何故か「既に知っている懐かしい人」という温かい感じが伝わってきて、私は無性に嬉しかったのを今もありありと覚えている。「懐かしい人」……初対面でこういう印象が伝わってくる人との出会いは、短い人生の中でそうあるものではない。そして事実、川端さんご夫妻とのご縁はますます深みを増し、版画からオブジェへと作品の主体は変わっても、その本質にある私の表現世界の特質への理解を、慧眼なその眼力で見守って頂いている事の手応えを、私は強く感じているのである。断言するが、この人の真贋を見抜く眼は間違いなく本物である。……初日の17日に私が画廊に着いたのは、2時を過ぎた頃であったが、懐かしいコレクタ―の人達が続々と来られて、私と話を交わしながらも、各々の人が持っている感性の周波数に最も響く作品を、実に的確に選んでコレクションに選ばれていく。この世に1点しか存在しないオブジェが、その人達に選ばれていく現場こそ、私にとってドラマチックな瞬間はない。……川端さんご夫妻から富山の旬のご馳走のもてなしを、河畔の静かな料理屋で頂きながら、本音で語り合える事の尽きない至上の嬉しさ。……1泊して翌日も4時頃まで在廊したのであるが、また新たなコレクタ―の人や、懐かしい方々で画廊が埋まる中、一人で2点選ぶ方もおられて、個展というものの手応えが強く伝わってくる。……ぎゃらり―図南の展覧会の最たる特質は、作品展示のセンスの上手さに先ずは指を折る。……展示の形がそのままに作品への鋭い批評であり、分析であり、また観る人への最良な配慮が充ちている。だから私は毎回訪れるのが楽しみであり、また学ぶところも毎回あるのである。〈個展は4月1日まで。〉……吾が個展ながら、或いは故に、この機会に、ぜひのご高覧をお薦めする次第である。

 

ぎゃらり―図南

北川健次展『記憶の刻印』

2018年3月17日(土)〜 4月1日(日)

AM10:00〜PM6:00

富山市西大泉17―20・第二浜忠ビルB1

TEL076―492―5850(月曜休廊)

 

 

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『9月からの個展に向けて』

 

 

 

今秋から始まる個展の題が『目隠しされたロレンツォ・ロットが語る12の作り話』に決まった。9月1日から日本橋高島屋の《美術画廊X》でその第一弾が始まり、ギャルリー宮脇(京都)MHSタナカギャラリー(名古屋)ぎゃらりー図南(富山)と続き、来年の2月まで合わせて八カ所以上の会場で催される予定である。もっとも、各画廊には、そこでしか発表しない作品も「書き下ろし」のように作るため、画廊によって展示内容が異なってくる。内容は,オブジェ、コラージュ、版画、写真、詩をからめたもので、上記したタイトルは、その全ての分野を通底するイメージとして考えたものである。

 

 

私は個展を一種の解体劇のように考えているために、タイトルは重要であり、それが決まらないと火がつかない。だから今、猛暑の中で、アトリエに閉じこもり、狂ったように制作に没頭の日々である。昼は写真のプリント、それが終わるとオブジェ、コラージュに入り、日が没してからは連載の原稿の執筆や資料の詠み込みをするのであるが、集中しすぎて自分の名前を忘れることがある。もっともあまり現世の自分に執着していないために、それは心地よい感覚ではある。

 

 

一時の中断を経て、新たに立ち上げたオフィシャル・サイト。多くの方々から再開の要望を頂いた事は、まことに感謝すべき事であるが、そういう理由から、このサイトで〈新作〉の姿を見て頂くのは、もう少し時間の余裕が出来てからと考えている。サイトの方もこれから少しずつ情報の肉付けをしていき、楽しんでもらえる内容にしていきたいと思っている。今後ともご支持頂ければなによりである。

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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