月別アーカイブ: 11月 2017

『大規模な個展始まる―PART②』 

今月の27日まで日本橋高島屋で開催中の個展が、ようやく半ばに入った。しかしまだ会期が半分以上あるので、これからどのような方々が来られるのか楽しみである。今回の個展では、会場の中にパルテノン神殿にあったギリシャ彫刻『セレネの馬』がインスタレ―ション的に、大きな三角定規、ダ・ヴィンチの布の素描、暗示的な14の数字……などと共に構成されて展示してあり、来廊者の目を驚かせている。私はこの、大英博物館所蔵の『セレネの馬』がたいそう気にいっており、版画やミクストメディアで作品化しているが、その見事な石膏像が7月にロンドンから届いたので、個展の為に展示したのである。巨大なのでかなりインパクトがあるが、今回の展示している数々の作品が放つ強い磁場と合わさって、会場に硬質な緊張感を醸し出している。…………個展の一日が終わり、夜にアトリエに戻ると、つい先月までアトリエを埋めていた作品が全て個展会場に運ばれてしまった為にたいそう静かである。……個性ある様々な役者逹が劇を演ずる為に舞台に行った後の、まるで静まりかえった楽屋のようである。その役者逹のほとんどがコレクタ―の人逹との幸福な出会いを経て、その人逹の元へと行き、私のアトリエにもはや戻ってくる事はない。……私はそのアトリエの中にいて、つい先月まで没頭していた制作の日々のことを思い出していた。

 

……制作は、今年の6月から始まった。6月から10月まで、およそ150日で85点。芸術を紡いでいくこの速度は相対的に計れないので、速いのかどうかはわからないが、美の先人逹の速度に想いを馳せると、私のこの速度に近いのはゴッホである。奇跡の二年と言われた最晩年の二年間、二日に一点の速度でゴッホは描いていたのである。……しかし、ゴッホより速いのが佐伯祐三で、一日に一点。フラゴナ―ルは三時間で一点の肖像画を仕上げていたという。……しかし、最も速いのはやはりミケランジェロが描いた、ロ―マ、システィ―ナ聖堂の天井画に指を折る。早く仕上げなくてはならないフレスコ画という事もあるが、畳3枚分の面積を彼は三時間で、最高度の表現世界を描いていたのである。昔読んだ宮城音弥氏の『天才』(岩波新書)によると、レンブラントの名作銅板画『三本の樹』は、女中が街に買い物に行って帰ってくる間に仕上げていたという。……ただ、速さと同時に大事なのは、いうまでもなく完成度の高さである。この2つは両刃の難しさがあるが、その2つを作品に孕ませていくところに作り手である事の、創る醍醐味がある。……池田満寿夫氏はかつて私を評して「異常なまでの集中力の持ち主」と書いてくれたが、池田氏自身も、版画集の最高傑作『スフィンクスシリ―ズ』を僅かに3週間で完成させている。……三島由紀夫が、その眼力を澁澤龍彦氏と共に最も評価していたドイツ文学者の種村季弘氏は、「美術の分野で、作品の完成度の高さでは北川健次を越える者はいない」と断言してくれたが、私はその言葉を自分に向ける常なる刃の切っ先として自らを追い込み、この「完成度の高さ」というものに自分を強いて制作している。……そして、その意識の緊張は、今回の個展でも、観者の人逹の感性に直に伝わっているように思われる。……とまれ、まだ個展は27日まで、暫く続いていくのである。

 

 

 

 

 

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『大規模な個展始まる』 

先日の8日から日本橋高島屋6階の美術画廊Xで、個展『鏡の皮膚―サラ・ベルナ―ルの捕らわれた七月の感情』が始まった(27日まで)。……この美術画廊Xの会場の規模は広く、平均した画廊のスペ―スのゆうに三倍以上の広さがある。……私は個展を開催する際には、その画廊空間を劇場に見立て、各々の空間に合った個展の主題を立ち上げるのであるが、この美術画廊Xはその意味で、例えるならば叙情詩ではなく叙事詩的な拡がりを持った主題が自ずと必要となってくる。この主題の切り替えは、プロとしての醍醐味であり、結果として今回の個展はオブジェ、ミクストメディア、コラ―ジュ他を含めて新作86点という、今までで最大の個展となったのである。また今回の個展は制作中から手応えを覚えていたが、私の作品の変遷をよく知っておられる来場者の方々から、今まで観た個展の中で、今回の新作の質が最も高く、また一点一点の作品が持つ完成度が最も高いという確かな感想を数多く頂き、個展会場にいて私は、大いなる手応えを覚えているのである。また普段なかなかお会い出来ない九州や北海道といった遠方のコレクタ―の方々も各々に遥々来られて、旧知を暖めあっているのであるが、私はこの事を毎回の個展における大事な楽しみにしているのである。……作品は、また新たな実験性と、完成度の高さを併せ持たねば、というなかなかに難しいハ―ドルをいつも自らに課しているが、とまれ今回の個展は、その視点からも自信作が多く、来場された時に、じっくりと愉しんで頂ければと願っている。……会期は27日までと長く、個展はまさに始まったばかりである。……作品はまたその多くがコレクタ―の人たちのコレクションとなって、その方々がもう一人の作者として長い対話を交わしていくのであるが、その意味でも、私は会場に在って、「作品」という私の直なる肖像の映しと暫しの対話を交わしてもいるのである。……この機会にぜひのご来場をお待ちしております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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