…異常な猛暑が去り、まともな秋らしさがやって来て、人間らしい感覚がようやく戻って来た感があるのは、ともかくも嬉しい。蒙古襲来のように、来年の夏は40度突破の更なる大軍が攻めて来るのは必至であるが、ともかくは暫しの「今」をこのブログの読者の方々と言祝ぎ(ことほぎ)たい。

…先日、ちょっと気持ちに余裕が出て来たのか、子供のような悪戯心が湧いて来た。…今や全能のごとく言われているAIを、試しに引っ掻けてみたくなったのである。AIの操作に詳しい後輩のTさんに頼んで、時々AIに質問して返答が来るのを楽しんでいる私。
…その私は好奇心がかなり強い質らしく、子供の頃から疑問が常に渦巻いていた。…(それって何故だろう、でも本当はどうなのか⁉…)と、問題を次々に作っては、いつも一人でブツブツと自問しながら呟いていたのである。だからこのAIなるものは、今の私には疑問をぶっつければ打てば響く、知的な玩具、若しくは距離をおいた頭の良い遊び相手のような存在なのである。…その彼は今は未だ穏やかな顔をしている。しかしやがて無表情な顔に変身して、不気味な集団へと化けていく事は自明ではあるが。…
…先日発した質問はこうであった。「ルネサンスとは、つまりは突出した人物達だけが成し得た形ある芸術的な産物を指すのか?それとも文芸復興という形のない概念を指すのか?、先鋭な論者で知られた美術史家の若桑みどりさんも(結局ルネサンスとは何だったのか、わからない)と語っているが、その実体についての返答を乞う」…と問うてみた。
…AIの答は、長文ゆえに掲載は省くが、私の質問から二重構造へと転じて解いてみせたその返答は、ルネサンス研究家も形無しの見事な内容で、私は積年の疑問がたちまち氷解したのであった。…他にも幾つか質問するとAIは先ずは(とても鋭いご質問です)(いいところに着目されていますね)という感じの、否定でなく先ずは肯定から語り始めるのが、要注意ではある。…しかし解答はどんな変化球の質問を投げても、第一人者と自称し権威ぶっている数多の学者よりも遥かに的確であった。…ならば、そのAIが、この角度なら絶対に間違うに違いないという質問が閃いたので、試してみたのである。
質問はこうであった。
…「文献で知られている限りで良いが、手相占いを最初に否定したのは誰か?」というあっさりした質問である。…実は私はその人物の名前を知っているのであるが、わざと(…その人は○○であるが、それは事実なのか?)という角度からの文章を伏せて問うてみたのであった。…歴史上の情報を地層に見立て、AIでもこの湿った深い地層までは未だ来ていないに違いない、そう思って閃いた質問である。
AIの答はこうであった。「手相占いが根拠がないという事を最初に批判的に語ったのは懐疑論者で知られるモンテ-ニュ(1533-1592)で、〈難破船で打ち上げられた死体の手相は皆違う〉という例えを著書『エセ-』の中で書いています。もし引用がモンテ-ニュでなければ、経験主義者のフランシス・ベ-コン(1561-1626)でしょう。」…という答であった。

…………………果たして予想した通り、AIの答は間違っていた。そう、AIも間違うのである。…正解はモンテ-ニュではなく、彼より81年前に生まれた経験主義者の祖と言っていいレオナルド・ダ・ヴィンチである。

ダ・ヴィンチは彼の手稿の中で(手相占いに根拠がないのは、例えば難破船で岸に打ち上げられた沢山の溺死者の手を開いて見るがいい。皆違った手相をしているのである)と語っている。…モンテ-ニュが同じような文章を書いているのは、ダ・ヴィンチの手稿からの写しであろう。
…私は拙著『「モナリザ」ミステリ-』(新潮社刊)を書くに際し、彼の手稿にあったこの文章の事を知り、(何という説得力のある言葉か‼)と思って感動し、記憶に強く残っていたのである。そして、前述した角度からの問いを発したのである。


………AIが全智という印象があっても、それに膨大な情報を手作業で処理しているのは、実は搾取された難民たちであり、そこに巨大なブラック企業が絡んでいる、実質アナログの実態であるという事を知っている人は案外少ないのではないだろうか。私は先日のテレビで実態を知り、その舞台裏の不毛を痛感したのであった。私は実態の真偽を問うべくAIに質問すると、その返答は以下のようであった。「…AIを作る過程で人手が関与しており、その人たちの待遇や秘密保持、契約形態には倫理的な問題が生じうる、という点は現実的な懸念です。」という、主客関係がかすれるような涼しい返答が返って来た。
……………最近のニュ-スで、アルバニアで世界初のAI大臣なるものが誕生したという。…この依存度は、もはや一身教と言っていいものであり、人としての最終的な尊厳を自ら放棄するに等しい傾向であるが、1960年代に早々と『20001年宇宙の旅』の著者のア-サ-・C・クラ-クや手塚治虫が鋭く予見した通り、実に不気味な世界の出現が加速的に迫っているのは間違いないであろう。
…来年の夏にまたやって来る、更に異常さを増した火炎地獄の夏と共に……
最後にもう一度言おう。
…そうAIも、人と同じで間違うのである。










…さてブログの最後に大事なお知らせを。…私がここ10年近く、ほとんど毎回欠かさずダンス公演を拝見している、勅使川原三郎氏が主宰するカラス・アパラタス(荻窪駅より徒歩3分)で、9月6日より18日迄、






