先日、ギャルリ-東京ユマニテで開催中の故・中川幸夫ガラス作品展に行って來た。個展の制作に忙殺される日々であったが、この展覧会だけは必見と思い、美と毒と妖しさを多分に吸収するつもりで行ったのである。
……作品はガラス作家の高橋禎彦氏との共同制作であるが、ガラスを強度に加熱して歪ませ、或いは全方位的に垂らし、その瞬間々々の神経の集中によって、ガラスは強度な狂気性を帯びて、遂には狂女にも似た結晶へと変容する。しかしこの結晶には強度なるものと共に、あえかなともいうべき儚げな一面も併せ持っていて、いっそう謎めいている。……作品を観てあらためて、正しく中川幸夫は天才と断ずるに足る人であったと痛感した。…生前その中川さんには一度だけであるがお会いしてお話を交わした事がある。…場所は銀座のザ・ギンザアートスペースでの佐谷画廊企画のオマージュ滝口修造展:中川幸夫「献花」オリーブ展での中川さんの個展の時であったか、確かドイツ文学者の種村季弘さんの紹介であったと記憶するが、それは今としては貴重な体験であった。刹那ではあるが、先達の内に狂おしいまでの才を帯びた人との魂の交感は得難い財産となっている。
………………さてともあれガラス、そして新たなるガラスの表現。………私は自作のオブジェの中に、ここ数年来、割れたガラスの断片、或いは螺旋状にねじれたガラスなどを取り入れて、それもまた私の作品中の、限りなく正面性を帯びた劇場の中で、一つの詩の言葉、或いは活人劇の役者として機能している。…まことにガラスとは両義牲を持った不思議な素材で、脆いと思えば強かに硬く、透けているのに閉ざした一面もあり、エレガントかと思えば凶器的でもあり、何処かしらノスタルジアを喚起する不思議な表情をその内に秘めている。私の内なるオブセッションとフェティシズムが揺れて、ますますガラスは私の作品の中で重要な存在となっていくであろう。
…………さて、10月2日から21日まで、東京日本橋・高島屋本館6階の美術画廊Xで、個展「狂った方位-レディ・パスカルの螺旋の庭へ」を開催するが、その出品作の中にはガラスが様々な表情をして、劇中に配されているので、各々の変容した様と、その演技を観て頂けれはと思っている。…またこの展覧会では、タイトルにも登場する「螺旋」が様々な表情や役割をしているので、それもご覧頂きたいと思っている。出品数65点の新作が一堂に展示されています。ぜひご覧下さい。
場所:日本橋高島屋・美術画廊X(本館6階)
会期:10月2日(水)~ 21日(月)
時間:10時30分 ~ 19時30分