執行草舟、安田靫彦、執行草舟

『二つのコレクション展開催中』

現在、私の作品を含むコレクション展が、福島と東京で開催中である。1つは福島県立美術館で開催されている『もうひとつの日本美術史―近現代版画の名作2020』展(8月30日まで)。明治から平成にかけての版画の名作約300点を網羅した大規模な展示であるが、版画を文脈として、近現代日本美術史を編み直そうという試みの由。作品は複数の美術館のコレクションから成っている。……山本鼎、青木繁、岸田劉生、竹久夢二、田中恭吉、恩地孝四郎、長谷川潔、川瀬巴水、…そして、1月からブログでも連載した藤牧義夫、……谷中安規、棟方志功、浜口陽三、駒井哲郎、池田満寿夫、加納光於、……そして私ども現代に至る、正に俯瞰的な内容である。私の版画は『午後』が展示されている。この作品は22才の学生時に制作した作品で、制作時の事が思い出されて懐かしい。三島由紀夫の短編小説『真夏の死』の冒頭のエピグラフにあったボ―ドレ―ルの『人工楽園』の一節、「夏の豪華な真盛の間には、われらはより深く死に動かされる」という文章に触発され、ならば、自分なりの絶対の静寂の時間―停止した永遠の午後を立ち上げてみようと挑んだ作である。この作品は、現代日本美術展でブリヂストン美術館賞を受賞し、幾つかの美術館が収蔵しているが、今回は、和歌山県立近代美術館が収蔵している『午後』が展示されている。送られて来た図録を見ると、版画史に於ける自分の立ち位置が客観的に見れて面白い。本展は福島の後は、9月19日から11月23日まで、和歌山県立近代美術館で巡回展が開催される予定。

 

 

 

東京でのコレクション展は、千代田区麹町にある戸嶋靖昌記念館で2021年1月16日まで開催中の執行草舟コレクションによる『青き沙漠へ―新たなる出帆展』である。この館の館長でもある執行さんの膨大なコレクションは主に安田靫彦戸嶋靖昌の二軸から成っている観があるが、多方に渡るコレクションの全容は私も未だ掴みきれていない。……この展覧会では、私の版画『study of skin Rimbaud』と『バジリカの走る雨』以外に、執行さん所有の数多あるオブジェ収蔵作品の中から、本展の主題に合わせて選ばれた5点とコラ―ジュが展示されていて、他の作家の作品と共に、静謐な空間の中で、美しい調和を見せている。執行さんは、若冠10代の半ばにして三島由紀夫と出会い、その才を認められ、三島の死まで深い交流を交わした早熟の人であり、その直感力の鋭さは他に類が無い。私の個展時には、一陣の風のように突然現れて、忽ちの内に共振する作品を選別してコレクションしていかれるのであるが、「蒐集もまた創造行為である」という言葉を体現するかのように、私の作品を選別していく時の早さは実に速く、その時は会場内が張り詰めた緊張感に包まれる。その鋭さの感、春雷の如しである。川崎にある執行さんの事業の製造・研究部門の(株)日本菌学研究所には私のオブジェ作品が多数、常設展示されているが、本展と同じく事前の予約で見学可能。……詳しくは戸嶋靖昌記念館までお問い合わせ下さい。

 

 

 

 

 

 

 

戸嶋靖昌記念館

東京都千代田区麹町1丁目10番 バイオテックビル内

日・祝休み、平日11.00―18.00開館・ 要電話予約 TEL03―3511―8162(直)

 

 

 

……先日、人々が熱中症でバタバタと倒れていった猛暑の真昼時に、10代の時から強い影響を受けた二人の画家、佐伯祐三中村彜のアトリエを見に目白の下落合に行った。佐伯の突出した才については最早言わずもがなであるが、同じく結核で夭折した中村彜の恐ろしき天才性についてはあまり気づいた人は少ないか、或いは皆無かと思う。彼は、その初期にレンブラント、次にモネ、ルノワ―ル、セザンヌ……と、その画風の影響を直に受けて様々に変貌しているのであるが、その恐るべき点は、彼らの画風の影響をもろに受けながらも、彼らに近づきその模倣の域に淫するのではなく、忽ちの内に中村彜自身の内にそのエッセンスを取り込み、消化して完成度の高い中村の作品にしてしまっている点にあり、その消化力の見事さは日本の近代美術史上に殆ど類が無いと言っていいだろう。これに比べればシュルレアリズムの影響を受けたと意味付けされている福沢一郎、北脇昇達の未消化の様はあまりに表象のみに止まり、問題の多くを残している。……中村彜は、前前回のブログで書いた、私が或いは入っていたかもしれない太平洋洋画研究所で学んだ事もあり、アトリエ内にその頃に撮った写真も展示されていて面白かった。佐伯と中村のアトリエは近く、この下落合には当時多くの画家が住んでいて交流があったが、その点は忘却と化して既に久しい。佐伯、中村共に夭折はしたが、しかし作品は遺っている。私は久しぶりに佐伯、中村に近づいた事で、10代のひたすら描く事に集中して、その原初的な悦びの中にいた自分を思い出していた。……そして暫くいた後に横浜のアトリエに戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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