#熊

『熊がルネ・ラリックを観に来た話』

…秋が深まって来たというのに、熊は冬眠する気配もなく、13人が熊に襲われて亡くなっている。一方、秋田県で駆除された熊だけで既に1000頭以上を数えるという。…もはや熊と人との仁義なき全面闘争となって来た感がある。

そんな中、1頭の熊が秋田県仙北市の大村美術館にやって来たというニュ-スは少し私の気をひいた。…大村美術館…?はじめて聞く名前である。…熊が来るくらいなら、渋い日本画でも展示しているのかな?…と思って検索したら、ア-ル・デコ様式ルネ・ラリックのガラス作品を展示している個人美術館であった。

 

 

 

 

 

…(この熊は、危険を冒してまでもルネ・ラリックの作品が観たかったのか!?)…そう思って、私は息を呑み込んだ。そして思った。美術館にやって来たその熊は、その後で駆けつけたハンタ-によって撃たれてしまったのだろうか?

 

…もし撃たれたなら、…そしてハンターがその死骸に近寄って、硬直した熊の手のひらを開いた時、熊がしっかりと美術館の無料優待券を握りしめていたなら、それはそれで…悲しいものがある。

 

 

先月の10月19日に起きたル-ブル美術館のナポレオン関連などの王冠の宝石(155億円相当)が大量に盗まれた事件は、この美術館の警備の甘さが露呈してしまった感がある。

犯人(実行犯は2人、計4人組)は、長い梯子(機械式リフト)を使って階上に上がり、ガラス窓を割って侵入し、警備員(これも怪しい)を脅かしながら、短時間で現場から逃げ去ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

…その一報が入って来た時、私は(白昼にル-ブル美術館で盗難⁉…ならばきっとあの場所から入ったな‼)…と思ったら、果たしてそうであった。…表のピラミッドの入り口付近は警官がいて警備が堅く、しかも来館した人々の長い行列でたくさんの人目がある。しかし裏側のセ-ヌ河に面した方のドゥノン翼館の奥の通りはいつも静かで、人影もあまり無い。

 

犯人は開館直後に侵入し、数分の犯行の後に現場からスク-タ-で逃走したという。…開館直後、すなわちあまりに白昼堂々の犯行ゆえに、その梯子が階上に延びていても、通行人はおそらく、美術館の作業中だと思うに違いない!犯人はその効果も考えて犯行に及んだに違いない、…そう推理していた。…すると、私のその気が喚んだのか、高島屋の美術画廊Xで個展開催中に面白い人物が画廊に現れたのであった。

 

…あれは個展が後半に入った頃であったか。…画廊のテ-ブルの椅子に座って書き物をしていると、30代らしい一組の男女が現れて作品を観はじめた。すると突然男性の方が私の作品を観ながら(カッコいい‼)という甲高い声をあげた。

 

…その後ろ姿から(作家だな)と思って近寄って話しかけると、その男性は(昨日ル-ブルから帰って来ました)と言う。??……事情を詳しく訊くと、その男性はAIの画像を動かして「動く写真」を作っている作家で、ル-ブル美術館の地下で10月に開催しているア-トフェアに出品して帰って来たばかりだと言う。

 

更に話を訊くと、その男性は10月19日の早朝の午前9時30分頃にア-トフェアの会場に行く為に、セ-ヌ河に面したル-ブル美術館の裏通りを歩いていると、地上にスク-タ-が2台あって人が数人おり、梯子が階上に延びていたので、(あぁ、朝早くから作業をしているんだなぁ)と思いながら、そこを通って、ル-ブル美術館の地下に入って行くと、たくさんの美術館職員が血相を変えて走り回っている光景が飛び込んで来たのであった。

 

…彼のスマホで撮影したその画像を見ると、確かに小走りに走るたくさんの美術館職員が映っていた。……私は言った。(すると君は、正に犯人が梯子を使って階上で宝石を盗んでいる最中に、その現場に通りかかったわけで、その場にもう少しいたら、宝石を抱えた犯人達が梯子(機械式リフト)から必死な姿で降りてくる場面に遭遇した事になるわけだ。…お手柄になるか、いやむしろナイフで刺されていた可能性が高いかもしれないね‼)

 

…事件後にル-ブル美術館の副館長が記者会見で次のように語った。…(強盗犯が侵入した窓を映す監視カメラは老朽化の為に映っていなかった)と。……………ル-ブル美術館内に展示されている作品数は実に3万5千点あるという。…その多くに監視カメラが設置されているというが、実情は、さぁどうであろうか。…仮に全ての作品に監視カメラを設置した場合、その監視カメラを随時チェックしているセンタ-は膨大な広さと人員が要り、現実的に不可能である。

 

私は以前に映画『ダ・ヴィンチコ-ド』を観ていて、主人公がひそかに語った或る台詞に注目した事があった。…何と、監視カメラの1/3がダミ-なのだという。…ル-ブル美術館の監視カメラが脆弱な事は以前から指摘されていたが、(監視カメラの多くがダミ-であった)とは、とても公に言えない話であり、苦肉の案として出た老朽化という言葉であったように思われる。

 

 

次回のブログは『記憶は果たして遺伝するのか!?』と題して、徒然なるままに私のあまりにも不思議な体験談を交えながら書く予定。ぜひご期待ください。

 

 

 

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