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『「モナ・リザ」はいつ割れたのか!?…part①』

…私はオブジェも作るが、時にまとまった文章も書くという二股の人生を生きている。オブジェという、言葉では決して語り得ない領域と、言葉の権能を駆使した、文章という語り得る領域との、右脳と左脳の間を慌ただしく行き来するのが面白く、いつしか二股の人生になってしまった。とにかく、仮説から実証へと向かい、何らかの形が見えて来るのが面白く、今まで読んで頂いたブログでもおわかりのように、人生をミステリ-漬けにして生きているのである。…言い換えれば、成長に失敗して大人になれなかった、ただ好奇心だけが強い子供のままなのかもしれない。

 

 

………………一年間ばかり制作を中止して「モナ・リザ」一点が孕んでいる様々な謎を説くべく200枚近い原稿執筆のみに専念し、『「モナ・リザ」ミステリ-』と題する本を新潮社から刊行してから既に20年の月日が経つ。…早いものである。

 

それまでに、『デルフトの暗い部屋』と題するフェルメ-ル論を、…そして『停止する永遠の正午-カダケス』と題したピカソダリデュシャン論を文芸誌の『新潮』に発表していたが、さすがにダ・ヴィンチが描いた『モナ・リザ』だけは、まるでスフィンクスの謎かけのように手強い難物であった。…それ故に、こちらの感性と直感力も、推理する刃の切っ先を鋭く研いでかからねば攻めきれない、故にこんな面白い対象はない相手であった。

 

 

 

 

 

…執筆時は、日々頭の中がモナ・リザ一色に渦巻いていて、ダ・ヴィンチという最高な知性と、計り知れない闇の底の持ち主に挑むように書き進んでいったのであった。書くとなったら私は徹底してやる性格で、……執筆の為に、イタリアとフランスに飛び、ダ・ヴィンチの足跡を追うように各地を巡り、哲学者の木田元さんからの紹介状を持って京都大学大学院の発達心理学の教授に会い、意見を交換しながらダ・ヴィンチの鏡面文字の謎に迫ったりもした。私の推理して立てた仮説の客観的な整合性を問うべく、専門家の意見も取り入れて裏付けを更に固める為である。…結果、私が解いた「鏡面文字の謎」の解析によって、今まで謎とされていた事は謎でなくなり、私達の多くが発達の段階(4歳頃)の一時期に鏡面文字を書いている事を立証したのであった。

 

 

 

…………ダ・ヴィンチは肖像画のモデルが誰であるかを、絵の中の何処かにヒントとして忍ばせているが、モナ・リザだけにはそれが無い!…というのがそれまでのダ・ヴィンチ研究家の間での定説であったが、定説なるものを単純に受け入れない私は(あの「モナ・リザ」だからこそ、秘めたヒントは必ず有るに違いない)…と考えて、「モナ・リザ」の大きく開いた襟ぐりの縁に描かれた飾り模様のレ-ス部分に着目し、国立国会図書館に赴いて、あるだけの文献を漁り、そのレ-ス模様が「柳の細枝」を意味するvinciである事を突き止め、モナ・リザのモデルがダ・ヴィンチその人を暗示して描かれた組紐模様である事に辿り着いたのであった。…私のこの推論は、最近ではレオナルド研究にも学説として取り入れられており、モナ・リザ解析の一歩が更に進んだという観があって面白い。

 

レオナルド晩年の素描

 

 

…また私はイギリスのクライスト・チャ-チ美術館が収蔵しているダ・ヴィンチが描いた1枚の素描にも着目した。……「真実」を映すという円い手鏡の前で、その映された自身の姿に恐怖しておののく一人の老人(明らかにダ・ヴィンチ自身を想わせる)の横顔。…そしてその後頭部に不気味にくっついた肉付きの一人の妖しく微笑する女の顔(何故かモナ・リザのそれと重なって見える)。…その膨らんだ腹部から、この人物は妊婦である事に気付くが、…モナ・リザの絵の女性像も組んだ両手奥の膨らみから妊婦である事が、今日の研究で指摘されている。…私はこれらの複合的な点から、この1枚の素描が、実はダ・ヴィンチが密かに吐露したモナ・リザの秘めた主題であると断じて、それも書いた。

 

………このようにして一年を要して書き終えた「モナ・リザ」論は、先に文芸誌に発表した二作と併せて『「モナ・リザ」ミステリ-』と題して刊行されたが、反響は予想以上に大きかった。…全国の主要な新聞の書評欄に記事が載り、「わが国におけるモナ・リザ論の至高点」と評された時は、さすがに嬉しかった。…美術書としては異例の増刷になり、二万部が読まれた事を知った時は、一年間の執筆の疲れから解放され、…モナ・リザについては全て書き尽くしたという達成感があった。

 

 

…しかし、その後、20年の月日が経ち、その間に、与謝蕪村の俳句の中に古今の西洋絵画に通低する、云わば時空を越境したイメ-ジの共通性が有る事を、比較文化論的な視点で気づいたので『美の侵犯-蕪村×西洋美術』(求龍堂刊)として刊行し、また詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』(沖積舎刊)を書いたりしたが、次第に表現の比重は、オブジェの制作に重きを向けた方に進んで来たのであった。……以来、この20年間で、およそ1500点近い数のオブジェが作られ、その多くが私の手元を離れていった。

 

 

…………………………………しかし、もうそちらの方に向く事は無いと思っていた『モナ・リザ』は、20年を経て、再び私の前に、あの絶対の静けさと不気味極まる薄笑いを帯びて、或る日卒然と、立ち現れたのであった。……未だ解き明かしていない謎があるぞと言わんばかりに。…そして、その謎は今まで500年間もの間、確かに誰もその事に全く気づかなかった、まさか‼…と思うような謎の問い掛けなのであった。

 

 

……次回の『「モナ・リザ」はいつ割れたのか⁉…part②』は、その謎の真相に迫りながら、昔、学生時に深夜の上野公園内にある国立科学博物館の真っ暗な闇の中で体験した、レオナルド・ダ・ヴィンチと私との、実に幻想的な交感体験について書く予定です。…乞うご期待。

 

 

 

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『2023年・晩秋を告げる四つの展覧会etc』

……来年秋の高島屋の個展のタイトルが早くも決まった。『YURAGI―レディ・パスカルの螺旋の庭へ』である。来年はつごう四つの展覧会が各地の画廊で予定されているので、各々に向けてスイッチが入るのが、いつもよりも早いようである。……さて今日は展覧会の話である。

 

①11月21日から12月27日まで、福島県立美術館で『現代版画の小宇宙』(金子コレクションから)展が開催中である。福島県の版画のコレクタ―の金子元久さんの膨大なコレクションが美術館に寄託されたので、それを基にした展覧会である。

 

 

金子さんは著名な精神科医である。何回かお会いした事があるが、ある時に真顔で「北川さんの脳を解剖して調べてみたい」と言われた事があった。どうしてですか?と訊くと、「……視覚表現(美術)などの感覚、直観を司る右脳と、言語表現(文芸)などの論理的思考を司る左脳の両方とも得意としている稀な例なので、医者の好奇心として興味があるのです」との事。

 

……「普通、ふつうですよ、開いてみてもグリコのオマケしか出てきませんよ」と話したが、それより、度々このブログでも書いている、かなりの頻度で視てしまう私の予知能力や、鋭すぎる異常な直観力は、自分に対しての客観的な興味として実はある。以前に、よく当たると評判の占い師の女性と、順番を待っている女性たちを視ていたら、その占い師が私に気づき、お互いに妙な緊張が走った事があった。そして占い師は手招きして私を招き寄せ、近づいた私の顔をじっと見据えながらこう言った。「あなた、……一体何者!?」……こうなるともはや陰陽師同士の対決である。

 

②前回のブログでご紹介した『禅と美』展を今一度観ておこうと思って、最終日の前日に、会場のスペイン大使館を訪れた。…凄い数の来観者に先ず驚いた。…会場におられた主催側の戸嶋靖昌記念館主席学芸員の安倍三崎さんから、ブログを読んで来られた方がけっこうおられますと言われたので、微力ながらもブログで紹介して良かったと思った。

 

 

 

2回目に観て、山口長男の黒い特徴的な額に絵具が数ヵ所僅かについているのを見つけて、山口長男は額を付けてからも、なお制作していた事が見えて来た。額とは何か!……山口長男の眼差しの一端がそこから見えて来る。(ちなみにこの制作法はパウル・クレ―と同じである。)

 

……さてこの『禅と美』展の妙味は、展覧会の企画の着想が比較文化論的な視点から立ち上がっている事である。今回は「禅」であるが、例えば「時間」「色」「黒」「詩」「寂」「無」……と様々な主題を立ち上げると、執行草舟さんの三千点以上ある膨大なコレクションから、たちどころに様々な作品が、あたかもそれに合わせて登場する役者のように選ばれて来る。……その企画構想の多層な幅を可能にしているのが執行さんのコレクションの多様な幅であり、美のカノンの横一線の高みなのである。

 

 

 

 

③竹橋の東京国立近代美術館で12月3日まで開催中の棟方志功展に行く。……前回のガゥディ展と同じくたくさんの観客である。会場内には初期の油彩画から晩年迄の作品がうまく展示してあり、また棟方さんの記録映像や肉声が流れていて懐かしかった。……21才の学生時に棟方さんは私の版画『Diary』 を視て絶賛してくれた事が以後のぶれない自信となった契機であるが、私に賞をくれた審査員としての棟方さんの口からスピ―チで私の名前が出る度に、私は自分がこれからの版画史に関わっていくであろう事を予感したのであった。……授賞式が終わり私がエレベ―タ―に乗ると、棟方さんと夫人、そして当時の神奈川県立近代美術館館長の土方定一氏が入って来て、その時に握手を交わした時の手の大きさと温もりを私は今も覚えている。

 

……かつては民藝運動の域で語られていた棟方さんの作品は、近年は次第に自立した極めて強度な現在形のモダンな作品として、その冴えを増している。衰弱した昨今の美術界の状況をすり抜けて、加速的に評価はますます高まっていくであろう事は間違いない事である。

 

……多くの人が棟方志功展を観て引き上げる中、私は4階までテ―マを変えて展示してある収蔵作品を観るのを常なる愉しみにしている。ベ―コン藤田劉生北脇、……そして、このブログで度々登場する藤牧義夫……などたくさんの作品が展示してあり、いろいろと考える切っ掛けや閃きのヒントを与えてくれるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④昨日(24日)は、美術本出版の老舗で知られる求龍堂の「100周年記念展」の内覧会がある日であるが、私はその前に時間があったので、久しぶりに上野公園に行き、西洋美術館ブ―ルデルの彫刻作品『弓を引くヘラクレス』の写真を二枚(内一枚は股間下から)撮り、

 

次に、気分転換する為に行きたかった上野動物園に立ち寄り、念願のハシビロコウ、ゴリラ、サイ等を観てから根津駅から代々木公園駅で降り、会場の『ARKESTRA』に行った。

 

 

 

 

 

 

 

会場内には100年間の出版活動の歴史から選んだ刊行物が展示してあり、私の作品集『危うさの角度』も並んでいる。……この会場には求龍堂発足後間もなく刊行された『ドラクロアの日記』が展示してあるが、それは私の蔵書から、この展覧会の為にお貸しした本で、戦前に三島由紀夫が座右の書としていた名著である。

……私は以前に求龍堂の会長であった故・石原龍一さんに三島由紀夫の文を帯にして『ドラクロアの日記』の再版を提案した事があった。……近年、パリで再版をした時にベストセラ―となったのである。再版ならば文庫サイズが良い。しかし、求龍堂は文庫本は出版していない。ならば、このブログは出版業界の人も読まれているので、例えば、ちくま文庫、或は河出書房新社辺りが出版するのが妥当かもしれない。

 

 

……ドラクロアの日記に在る一文「今日、ショパンが死んだ。……」や、孤独で在る事の如何に豊かな事であるかが、随所にちりばめられている。誰か鋭い眼力と実行力のある人材は出版の世界にはいないのか!?……いれば、この『ドラクロアの日記』を私は喜んでお貸ししよう。

……さて、会場では私の作品集『危うさの角度』(普及版・特装本)、また『美の侵犯―蕪村×西洋美術』も販売されている。ご購入を希望される方は本会場、又はお近くの書店、或は直接、求龍堂(営業TEL03-3239-3381)までご連絡を、よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

『求龍堂100周年記念展』
日時11月25日(土)~12月3日―11時~18時(最終日は15時まで)
会場・ARKESTRA 東京都渋谷区上原1-7-20
TEL―090-8946-0541

 

 

 

 

 

 

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