『日本現代銅版画史展―東京・不忍画廊にて22日より開催』

前回のメッセ―ジで、7月に亡くなられた浜田知明さんの回想を書いたが、その浜田さんの作品と、私の版画が、東京都美術館の企画展いらい、本当に久しぶりに一緒に展示される機会が訪れた。東京日本橋にある不忍画廊で今月の22日から9月8日まで、現代の視点から銅版画に於けるポエジ―の可能性を問うた『日本現代銅版画史』展が開催されるのである。作家は、浜田さんと私以外に、駒井哲郎・池田満寿夫・浜口陽三・加納光於ほかであり、なかなか観れない珍しい作品もかなり展示されるようである。……30年ばかり前から版画は時代に合わせんとして浅薄にも作品が大型化し、結果、求心性と密度を欠き、その質が総じて低迷化し、馥郁とした表現世界を持った版画家が全く出て来なくなってしまった。……不忍画廊は、版画の企画展も数多く手掛けてきた老舗の画廊として知られているが、改めて、銅版画の可能性を問うた企画として本展の企画を立ち上げ、今回の展覧会が実現したのである。自問と他者への問い掛けが、本来は各々の展覧会に入っていなくては、実としての意味がない。その意味で、この展覧会は、その先の、表現世界を豊かにするために必須な「ポエジ―とは何か!?」を、銅版画を通して問い直す展覧会なのである。会期は短いが、一人でも多くの方にご覧頂きたい、特異な切り口を持った展覧会だと私は思う。私が本展に寄せて書いた小文や、画廊の展覧会趣旨もぜひお伝えしたく、以下に掲載するので、御一読頂ければ有り難い次第である。

 

『版画に刻まれるポエジー』  北川健次

一九八二年に東京都美術館の企画で『日本銅版画史展』という展覧会が開催された事があった。四世紀にわたる日本の銅版画の歴史を近世・近代・現代の時代区分によって体系的に観せる事を目的としたものである。その図録を開くと、キリシタン銅版画から始まり、司馬江漢・岸田劉生・国吉康雄・藤田嗣治・長谷川潔・駒井哲郎・浜田知明・池田満寿夫・加納光於…と云った名が続き、最後は私の作品で終わっている。この展覧会が開催された時、私は三十歳であったが、版画史という通史的な概念を表現者として強く意識しはじめた節目となる展覧会であった。私はその後、幸運にもこの展覧会に出品していた主要な先達の版画家たちと親しく関わっていくのであるが、その交わりの中から私が吸収した主たるものはエスプリであり、また作品が作品たりえるためのフォルムの問題であった。そして何より、銅版画という方法の檻にのみ捕獲可能なポエジー(詩)と、そのリアリティーについて想いを巡らすようになっていった。

「超絶的美感を起こさせることが詩の仕事である。また小説も絵画彫刻も同様にそうした詩の創作を仕事として初めて芸術になり得るものであろう。」と詩人の西脇順三郎は語っているが、その意味でのポエジーの息づく領土を、私は銅版画の中に探っていたのである。銅版画における詩的表現の可能性を見ると、例えば駒井哲郎と池田満寿夫はその資質、その作品において全く異なるタイプの版画家であったが、先ず何よりもその本質は紛れもなく詩人であり、硬質な銅板に各々の馥郁たるポエジーを刻む人であった。

…ではそのポエジーとは何か。それはイメージの新しい関係を連結し結合して永遠性、そして超絶的な美感へと私たちを至らしめる「何ものか」であって、その先は言葉ではなく感覚でのみ通じ合う、芸術の本質に息づく核とも云えるものであろう。現代は最も芸術の深部から遠去かって久しい不毛の時代であるが、この時にこそ、「ポエジーとは何か」という問いかけの放射を孕んだ本展のような展覧会は確かな意味を持ってくるのではないかと私は思っている。

 

展覧会【概要】

銅版画芸術のパイオニアとしてデューラーの代表作「メランコリア/1514年」「騎士と死と悪魔/1513年」等が発表されて500年が経ちました。

日本では1950年代~60年代にかけて、駒井哲郎、池田満寿夫、浜田知明等が世界レヴェルの国際版画展で受賞を重ね活躍、多くの若いアーティストに多大な影響を与えてきました。そうした先達から影響を受け、そのエスプリを現在も受け継ぐ北川健次氏に今企画展の監修協力を依頼、《近代~現代》を繋ぐキーワードとしてテキスト「版画に刻まれるポエジー」もご寄稿頂きました。

駒井哲郎、池田満寿夫、北川健次を中心に、浜田知明、加納光於、浜口陽三、菅野陽(銅版画家・「日本銅版画の研究」著者)の名作・秀作銅版画を出品します。デューラーから500年、エスプリの効いたポエジーとしての銅版画芸術を是非ご堪能ください。(不忍画廊)

 

 

『日本現代銅版画史展  名作を繋ぐポエジーの変遷』

〜 駒井哲郎|池田満寿夫|北川健次を中心に 〜

会期:2018年8月22日(水)~9月8日(土) 日曜休廊 11:00-18:30

会場:不忍画廊

〒103-0027 東京都中央区日本橋3-8-6 第二中央ビル4階

(日本橋高島屋 南出口真向かい 理容店ポールのビル4階です)

Tel:03-3271-3810 mali:info@shinobazu.com

web: http://shinobazu.com/

 

(左から)

●池田満寿夫「アダムとイヴ(捕らえられたイヴ)」1964年ドライポイント、ルーレット 365×335mm

●駒井哲郎「風」1958年 エッチング、アクアチント 150×182mm

●北川健次「楕円形の肖像」1979年 フォトグラヴュール、エッチング、アクアチント 360×255mm

 

 

・北川健次「廻廊にて- Boy with a goose」2007年

フォトグラヴュール、エッチング 380×285mm

 

 

・北川健次「肖像考 – Face of Rimbaud」2004年

フォトグラヴュール、エッチング、アクアチント380×285㎜

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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