『個展〈盗まれた記憶―Francesco Guardiの郷愁に沿って〉高島屋・美術画廊Xにて遂に始まる』

元号が令和になったこの4月から、不思議と集中的に過激な過去にあまり類のない事件や異変が絶え間なく起きているのは何故だろう。その極まりと言っていいのが、この度の東日本を襲った台風(もはやハリケ―ンと言っていい)である。多摩川、千曲川、阿武隈川……といった名だたる数多の河川が氾濫し、甚大な被害が今もその爪痕を残して容赦ない。先日、被害の大きかった長野に住んでおられる小塚一昭さんから電話が入った。被害状況を伺うと、今もなお不便な停電が続いているという。その小塚さんは、ご自身が大変な時期なのに、私の個展の事に意識が強く在り、停電が直り次第、すぐに北川さんの個展を観に行きます!と言われたのには頭が下がり、感動した。……小塚さんは私の作品をコレクションされ始めてから随分の時が経ち、長い間、親しいお付き合いをして頂いている大切な友人である。6年ばかり前に、福山に住んでおられる三宅俊夫さんが、ご自身のコレクション展を福山の美術館で開催された際に私が記念講演をする事になった時には、小塚さんははるばる長野から来られ、羽田から私に同行されて福山に一緒に向かい、三宅さんに案内して頂いて、念願だった尾道や鞆の浦を尋ね歩いた時の思い出は特に忘れ難いものがある。停電が直り次第、私の個展に必ず来られると言われた小塚さん、そして、なかなか個展の時しかお会い出来ない遠方に住まわれているたくさんの懐かしい方々にお会い出来る、この〈個展〉というものには、作品の展示を介在として、様々な嬉しい意味も含まれているのである。

 

……感覚を集中的に作品の制作に注いでいる日々が続き、気がついてみるとアトリエの大きな作業台の上には、形を得たオブジェやコラ―ジュ作品の、約八十点近い数の新作が陣を成すように出来上がっている。それを観て、ようやく今回の個展全体の姿が視えてくる。……8月の初旬頃に、10年以上、毎年の個展をプロデュ―スして頂いており、私がその感性と眼力に絶対的な信頼を寄せている日本橋高島屋本店美術部の福田朋秋さんがアトリエに来られ、作品を観て、今回の作品が今までよりも更に強度を増して来ている、という評価を頂き、それを聞いた瞬間に忽ち、自作への客観的な自信が湧いてくるのを覚え、最後の追い込みに熱が高まってくる。また、搬入した直後、会場である高島屋美術画廊Xに作品80点以上の作品が並ぶや、美術部の金子浩一さんが「今回の個展作品が、今までの中で最高に平均値が高く、充実した完成度の高い作品が揃っていますね」という、熱い評価を頂いた。……私は思うのだが、今まで100回以上の個展を開催して来たが、ひょっとすると、その完成度の高さに於いて、今回の個展が最も充実しているのではあるまいか、そういう確信を、いま個展会場にいて静かに抱いているのである。……更に強度を増し、完成度を高めているという、この自作への批評分析は自惚れではなく、次なる作品の果敢な実験性への挑戦を意味している。とまれ、今回の個展は11月4日まで、休みなく続くのである。(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高島屋・美術画廊X

北川健次〈盗まれた記憶―Francesco Guardiの郷愁に沿って〉

会期:10月16日(水)→11月4日(月・休)

会場:本館6階美術画廊 直通TEL (03)3246-4310

 

 

 

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