月別アーカイブ: 8月 2016

『みんな水の中……』

最近のTVの画面を見ていると、ほとんど毎日といった感じで水浸しで冠水になった街の光景が全国の至るところで当たり前のように見受けられるが、この光景はやはり日常がかなり異常化してきている事の証であるだろう。今までは夏と冬に顕著だった気象の異常が、いよいよ四季を問わずに見えてきた観がある。台風、天を切り裂いて地上に炸裂する雷、亜熱帯化したような突然のスコール……etc。リオのオリンピック会場内は屋根が無いので、閉会式では、この地には珍しい雨が降りそそぎ、選手たちや関係者をひたひたと濡らしていたが、四年後の東京は正に台風や雷の最盛期。年々悪化する猛暑とうだるような湿気の中で、選手たちは酷暑と荒れ狂う雷雨と戦いながら死線をさ迷うような戦いを強いられる事は間違いないであろう。一昨年よりも去年、そしてそれよりも今年と、気象はその狂った異形でグロテスクな顔を加速的に露にして来ている。

 

戦後最大級という台風がまもなく上陸するという。その台風が過ぎ去る頃の9月1日に撮影のためにパリ、そしてベルギ―に私は向かい、12日に帰国する予定で、今は頭を切り替えている。ベルギ―のブリュッセルの街は実に25年ぶりの懐かしい再訪である。以前に泊まった時は宿のホテルが「小便小僧」の真ん前であったが、今も小僧は律儀に放水しているのであろうか?……ちなみにこの街中には対のように「小便娘」の像がひっそりと、あまり目立たなく在るのであるが、ガイドブックに載っていないその事を知る人はほとんどいない。リ―ルの骨董市は無差別テロの危険性大のために中止となったが、その流れがブリュッセルに来る為に危険性のリスクは何ら変わってはいない。……とはいえ、マグリットやデルヴォ―、そしてクノップフを愛する私としてはそこは期待の多い街である。……旅の体験は変容して、私の作品に虚構の華を投影する事は必至である。……私はまた生まれ変わっていくのである。

 

……さて、9月28日から開催される日本橋高島屋での個展の為の全作品がほぼ制作を完了し、案内状の校正も最終段階に来た。今回は新作のオブジェだけでも約60点近い数。今までの中でも最も多いオブジェ作品の出品となる。そこに新作のペィンティングと写真、そしてコラ―ジュなどが加わるので、かなりの出品数となるが、とりあえず今は集中して制作に没頭していた事からの解放感に包まれている。そして、作り終えた作品全てに作者としての強い手応えを覚えているというのが偽らざる実感である。

 

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『危なかった話』 

ブルトンジャコメッティは、度々パリのアンティ―ク市を連れ立って訪れて、出所不明の「イメージの漂流物」を見つけては作品に取り入れていたが、アメリカの美術家では、キ―ンホルツやコ―ネルも、そのやり方で多くの作品を作っている。日本でこの方法でイメージを紡いでいる作家は私以外はあまりいないが、ともかく、アンティ―ク市には、未だ名付けえぬ不思議な断片が、時として眠っている場合が多く、私はこの探訪の中で夢見のような出会いを度々体験してきたものである。

……ベルギー国境に近いフランスの街に、リ―ルという名の街がある。ここは静かな街であるが、9月の初旬の3日間 だけ世界中から人々が押し寄せ.物凄い活況の街に変貌する。由来は知らないが、この街で世界最大規模のアンティ―ク市が開催されるのである。その出店数が一万店、押し寄せる人々が実に百万人以上、……例えるならば、東京の世田谷区すべてがアンティ―クの街と化すのである。私もパリの撮影の前の3日間をリ―ルの街のホテルに予約をとり、訪れるその日が来るのを待ち望んでいた。…………しかし、この街には、昨年来から話題となっている、危険なあるリスクが潜んでいた。昨年末にパリで起きた同時多発テロの犯人達のアジトがベルギー周辺に在り、わけてもリ―ルの街に数多く潜伏している可能性が高いという情報が次第に入ってくるようになっていたが、既にホテルの予約は入れており、危険があっても私は行くつもりでいた。勇気があったのではない。脳が常として感じる(……まぁ私だけは大丈夫だろう)という、根拠のない強運を信じていたのである。……更に言えば、実感が無かったのである。…………しかし、ふと考えてみる時は度々あった。狂信的なあの連中から見れば、これほど成功率の高い無差別テロの好機はないだろう……と、渡欧が近づくにつれて思うようになっていた。何故なら会場は広い野外であり、入口などは無いので、いちいちのボディチェックは不可能だからである。先だってのテロでは日本人を意識的に狙ってのテロであった。週刊誌の特集では、殺されない為の俄コ―ラン学習なるものがあった。しかし、実際に遭遇した場合、言えたものではないだろう。私は考えた。……俄に中国人になればどうだろうか。周知の通り、中国人は襲撃の対象から外れている。……確か、私は中国人である……は、ジュスィ、チ―ノとは言わなかったかな!?……などとボンヤリと考えていたりした。しかしまぁいづれにしても、この私が中国人に見える筈がない。

〈9月1日から予定されていたリ―ルのアンティ―ク市が、無差別テロの危険性が高くなったので、今年の開催が中止と決定した〉という報道が、BBCをはじめとして一斉に流れたのは昨日であった。……次のテロの可能性が高いのは、リ―ルのアンティ―ク市の時と、フランスの警察は絞りこみ、その結果としての決定であったとの由。…………私がボンヤリと考えていた事が現地ではリアルに進んでいた事を知り、やはり背筋にヒンヤリと走るものがあった。……もし開催が予定通りであったならば、そしてテロが実行されたならば、今までにない大惨事となった事は間違いないであろう。或いは私も……………………と思えば、命拾いをしたようなものである。下手をすれば、その直後の9月28日から日本橋高島屋本店の美術画廊Xで開催予定の個展は遺作展になっていた可能性もあったわけである。しかも、今回の個展の主題の一つが〈アクシデント〉なので、上手く出来ている。……とまれ、開催中止になった事で、旅の行程も少し変更となったが、行く事に変わりはない。旅の体験が充電となり、作品のイメージに更に幅が出てくるのを秘かに待っているのもまた、作者としての楽しみなのである。

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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