月別アーカイブ: 10月 2020

『個展の前の静けさ』

……今月の28日から、日本橋高島屋本館の6階・美術画廊Xで始まる個展を前にして、ふと今年の年頭の時を振り返ってみた。想えば、最寄りの寺で戯れに久しぶりに引いた御神籤は「大吉」であった。その時に小吉の人もいたであろうし、凶の人もいたであろう。しかし、皆が揃って今年は大禍も大禍、「大凶」であった。そう想うと御神籤などは、グリコのオマケのようなものかと思う。

 

……話は先月に遡るが、原宿にある太田記念美術館で開催していた『月岡芳年―血と妖艶』展を観に行った。幕末から明治前半に活躍し、やがて狂いを呈した月岡芳年という鬼才に30代の頃にはまり、彼の作品(代表作である「英名二十八衆句」のシリ―ズ)を求めて、神保町の浮世絵専門店に度々出入りした事があった。しかし芳年の他の作品は何点かはすぐに見つかるが、一番人気の高い、我が国の残酷絵の最高峰「英名二十八衆句」だけはなかなか見つからず、果てはロンドンに住んでいた時も、この芳年を求めて歩き回った事がある。意外に映るかもしれないが、この芳年は特にイギリスにおいて人気が高く、愛好家が多いと聞いていたからである。さて、この芳年、……私の前にも「英名二十八衆句」のシリ―ズを求めて熱狂的に探し回っていた先達の人達がいた。芥川龍之介江戸川乱歩三島由紀夫、……そして澁澤龍彦といった、如何にも相応しい面々である。何故この芳年に、それも揃って「英名二十八衆句」に絞って惹かれるのには訳がある。このシリ―ズが持つ過剰さの中に、ロマネスクやバロック、そして物語が成立する為に必要なイメ―ジの突き上げを揺さぶってくる強度なオブセッションといったものが多分にあり、私達をして激しく想像力を煽ってくるからである。要するに、芸術に必要な〈強度〉を濃密に孕んでいるのである。…三島由紀夫は『デカダンス美術』と題する中で「大蘇(月岡)芳年の飽くなき血の嗜欲は、有名な英名二十八衆句」の血みどろ絵において絶頂に達する」と絶讚し、江戸川乱歩は「芳年の無残絵は、優れたものほど、その人物の姿態はあり得べからざる姿態である。写実ではない。写実ではないからレアルである。ほんとうの恐怖が、そして美がある」と記している。…………長年をかけた苦労の末に、私は二点の作品『福岡貢』と『直助権兵衛』を入手した時は嬉しかった。『直助権兵衛』は骨董市で(破格に安い掘り出し物として)見つけだし、『福岡貢』は、私が芳年を探している事を知った知り合いの画商の人からタダで譲り受けたものである。ちなみに、北鎌倉にある澁澤龍彦氏のお宅に伺った時には『稲田久蔵新助』という、いかにも氏に相応しい選択眼で収集した作品が書斎に掛けてあり、思わず「なるほど!」と得心したものである。……その「英名二十八衆句」と晩年の秀作「月百姿」、「風俗三十二相」、そして、後の縛り絵の大家・伊藤晴雨に影響を与えた代表作「奥州安達がはらひとつ家の図」といった、素晴らしいセレクション眼による展示が行われていると知っては、無理をおしてでも行かない理由は無い。会場は熱心な芳年のファンでかなりの入りであった。…今日のぼんやりとした貧血性気味の美術界からは絶えて久しい「血」「妖艶」「闇」が満載の、久しぶりに高まりを覚える充実感のある展覧会であった。

 

 

 

 

 

 

……さて、コロナ禍に話を移そう。実はずっと以前から疑問に思っている事があった。それは、何故新型コロナやインフルエンザ、かつてのコレラや凄まじいまでに猛威をふるったスペイン風邪といった、これ等のウィルスは、時が経つと自然に消滅するのか?といった素朴な疑問である。単純に言えば、ねずみ算式に拡がって行くこのウィルス、その行く手に待つのは人類皆の死滅の筈である。昔は今のようにワクチンなど全く無かった時代に、しかしコレラはやがて消滅し、スペイン風邪はおよそ8000万人以上の死者を出したが、三年の月日が経つと自然に消滅して大人しくなった。何故なのか?……「抗体が皆に出来るからだよ」としたり顔で言う人もいるが、納得するにはやはり疑問が残る。……先日その事を知り合いの美容師のA君と話した事があった。ちなみにA君の口癖は「……ほんと、そうですよね!」が実に多いので、話に発展性は期待出来ない。結局二人で出した結論は「ウィルスの方が、しゃかりきに暴れている事に飽きてしまうのかね」という、秋風がヒューと寒々しく吹くような結論であった。とまれ、今年の1年は異様に短い1年であったような気がする。皆が総じて悪い夢―まるでSFの中のあり得ない世界に入りこんでしまったような非現実的な感覚の中を生きているような感じがするのは、私だけだろうか。

 

 

 

 

 

 

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『個展開催のお知らせ―日本橋高島屋.美術画廊X』

いよいよ秋がその深まりを見せて来ているが、今月末の10月28日から11月16日までの3週間、日本橋高島屋本館の6階美術画廊Xで、私の個展が開催される予定である。個展のタイトルは『直線で描かれたブレヒトの犬』。……このタイトルは、今年の1月に、正にインスピレ―ションのように突然閃いたものである。正に降りてきたようにして閃いたこの謎かけのような言葉の連なりの中に、現在の私と、新しい切り口としての表現の新たなる展開が、かなり濃密に秘められていると見ていいだろう。タイトルが持つ象徴性と暗示の孕みの中に、未生のイメ―ジが逆巻いているのである。………そうか、今の私は、このタイトルの中にいるのか!!……私は自分を分析し、そしてこのタイトルに決まった時点から、新たなる制作が堰を切ったように始まった。

 

今回の展示では、80点近い新作の全てがオブジェである。1月から9月までの9ヶ月間(約270日)で約80点。今までこのブログで書いて来た向島、本郷、谷中…他を巡る記述以外の日々は、アトリエに籠っての制作の日々が続いた。そして、新作の全容がようやく見えて来た7月の末に、高島屋の個展で10年以上前から、私の確かなるアドバイザーとして全幅の信頼を寄せている高島屋美術部の福田朋秋さんがアトリエに来られ、「今回の新作は、更に深化を増している」という率直な感想を頂いた。のめり込んで制作に没頭していると、次第に闇の中に入り込んでしまい、時として意識が凪のような状態に入ってしまう時がある。10年以上前からのお付き合いをして頂いている福田さんは、毎回の個展でいつも絶妙なタイミングでアトリエに来られ、凪に清冽な風を入れてくれるのである。

 

……この時点で先ずは一つの区切りがつき、個展案内状の為に掲載する作品の撮影が先ず行われ、求龍堂の深谷路子さん、デザイナ―の近藤正之さんが構成に加わり、現在の制作に関しての福田さんの執筆が加わって、案内状の形が漸く見えて来るのである。私はかなりこだわるので、今回は色の校正だけで3回の確認と変更が行われた後に校了となり、間もなくそれは完成する。……個展が近づいた今月20日過ぎ頃のブログでは、出来上がったこの案内状を全面的に掲載したいと思っているので、愉しみにして頂けると有り難い。

 

……つい先日くらいまで猛暑の日々であったというのに、台風が秋を運んで来るのか、気がつくと、既に晩秋の気配である。……個展まで残り20日間くらいとなった。しかし、作品の完成への詰めが未だ残っている。最後まで気は弛められないのである。……画廊としては、おそらく日本最大の空間である美術画廊X。この緊張感の漂う硬質な空間は、私にとっての謂わばフィクショナルな〈劇場〉である。『直線で描かれたブレヒトの犬』、果たして如何なる展開になるのか、……乞うご期待である。

 

 

 

『直線で描かれたブレヒトの犬』

日時:10月28日( 水)〜11月16日(月) 10:30~19:30

場所:日本橋高島屋.美術画廊X(本館6階)

お問い合わせ:美術画廊 直通TEL (03)3246-4310

 

 

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