『展覧会日記』

先日、火災報知器の点検のためにアトリエ内で脚立に乗っていた業者が、頭上から私に問うてきた。「あのう、お客さんって、ご職業は・・・何ですか?」と。「職業・・・、まぁ自由業みたいなもんですよ」と私。業者は更に「いやぁ、自由業でもだいたいは何なのか、こういう仕事をしているとわかるもんですが、お客さんみたいな人は初めてですよ」と語った。確かに・・・そうかもしれない。山積みの本(美術・文学・雑学・・・)、ルドンゴヤベルメールデュシャン他の版画・・・、オブジェに使う奇妙な断片の数々・・・、頭部の欠けたマヌカン人形、カメラ、壁にはりつけた、まるで犯人のようにされた、詩人ランボーの大小の写真の数々(・・・これは現在制作中の作品の為に、脳を刺激するため)etc・・・。

 

自分の職業は、まぁ大きく分けると〈美術家〉が一番近いのだろうが、自分の作品を〈見る人の想像力を揺さぶる装置〉と考えている点で見ると、美術家からは少し逸脱している。時に写真、時に詩を、そして時には文筆もやる。そして時に、奇妙な事件が発生した時は、個展が間近でも、その犯人の動機に興味を持ってしまい、関連資料を集めることに熱中してしまう。ダ・ヴィンチも、自らを画家と定義せずに好奇のままに生涯を終えた。先達のごとく、自分も好奇のベクトルを追って、未完のままに終えようか。

 

昨日は、個展開催中の森岡書店の社主 – 森岡氏が用事のために留守となり、私は会場に一人で(留守番を兼ねて)いた。しかし、私の目は輝いていた。この場所を知った時点から、画廊空間よりも、自分が探偵事務所を開くならばこの場所!!と思っていた空間に一人でいられる事の幸福を味わっていたからである。今回の個展を見るために来られた方々との応対をしながら、時間帯によっては静寂に充ちた時となる、この何とも名状し難い魅力ある空間の中で、私は様々な作品の構想が湧いてくるのに驚いた。よほど空間と相性が良いのかもしれない。探偵映画などの撮影によく使われるのも当然で、限りなくミステリアスなのである。

 

 

リラダン研究家の早川教授をはじめ、自分の眼を確かに持った感性の豊かな方々が訪れて来られ反響も良く、エディションが遂に完売の作品も出た。寒い中を会場に来て頂き本当に感謝したい。しかし会場の中は実に温かい。個展も後半に入った。更に面白い出逢いが待っているであろう。

 

 

 

 

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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