『洗濯女 ……… 再び !! 』

前回のメッセージで「洗濯女のいる池」について書いたが、つい先日、導きのようにして私は『ブルターニュ幻想集』(植田裕次 訳・社会思想社刊)なる本を入手した。つらつらと目次をめくっていて驚いた。その中の「死者の国」の章に、「夜の洗濯女」という不気味な綺譚を見つけたのである。話は、先述したゴーギャン氏の話と重なる内容であり、やはり二人の若い洗濯女が登場する。……… そして悲しげに次のような文句を繰り返し歌うのである。

 

「キリスト教徒が救いに来てくれないのなら、裁きの日まで洗わなければなりません。月の光に照らされて、風の音を聞きながら、雪の降り敷くその下で、白い衣装を洗わなければなりません。………」女たちは、男に気がつくと、いっせいに喚声をあげて駆け寄ってきた。それから、自分たちが洗濯していた経帷子を見せながら、水切りするので絞ってくれと叫んだ。(略) 〈夜の洗濯女より〉

 

ゴーギャン氏の友人の女流作家は、おそらくこの話に興味を持ち、ミステリー作家の直感で小説のための何らかの着想になると思い、遠いブルターニュのその池の場所を探して出掛けたのではあるまいか。出発直前にゴーギャン氏と会ってその場所を告げ、…… そして、消えた。ミイラ取りがミイラになるということわざがあるが、強すぎる好奇心は時として墓穴を掘ってしまう。はたして、このケルト人の末裔が多く住む土地の磁場が見せた不思議な話の中に彼女は消えたのか、…… それとも何らかの事件に巻き込まれてしまったのか、ともあれこの女流作家の行先は今もようとしてわからないという。私も好奇心は異常に強く、こういう謎めいた話は大好きなので、気をつけなくてはいけないと思う。…… そう思いながらも、絶対にこの池には行こうと思っている自分がいる。…… たぶん私は行くであろう。

 

 

今月と来月は、作品の発表が四ヶ所で続けてあるので、そのお知らせを。先ず今月は、29日(日)まで、先月にオープンした「神保町ファインアーツ」で開催中の『日本の銅版画』展に版画を三点出品している。他の作家では、駒井哲郎・浜口陽三・加納光於・池田満寿夫など十五名。もう一ヶ所は、新しくリニューアルオープンする「LIBRAIRIE6」で、こちらでは大作の版画『object – ドリアンの鍵』を出品する。金子國義・合田佐和子・四谷シモン・岡上淑子・桑原弘明 ほか。この展覧会では、唯美的な作風で知られる勝本みつるの代表作も出品されている。会期は3月21日(土)~4月12日(日)まで。

 

◎「神保町ファインアーツ」

東京都千代田区神田神保町1-7 日本文芸社ビル2F

TEL.03-5577-6946〈11:30~19:00〉

http://www.natsume-books.com/

 

◎「LIBRAIRIE6」

東京都渋谷区恵比寿1-12-2 南ビル3F

TEL.03-6452-3345〈12:00~19:00 月・火は休み〉

http://www.librairie6.com/

 

なお、4月6日からは、茅場町の「森岡書店」と銀座の「画廊香月」で二つの個展を同時開催するという難業に挑戦します。昭和2年頃、東京が未だ帝都であった時代に造られた二つのビル内での個展は、共に2年ぶりの開催。この二つの個展の事は、また追って詳しくお知らせします。

 

〈追記〉:

21日に予定されている「LIBRAIRIE6」でのオープニングパーティーの出席を楽しみにしていたという画家の金子國義氏が、17日未明に心不全により急逝された。金子氏とは、『未来のアダム展』と、『澁澤龍彦画廊展』で共に招待作家として出品している。私事になるが、氏は私のニジンスキーをモチーフにした版画のセンスを気に入って高く評価されていたが、それも懐かしい想い出である。氏はフランス流のエスプリを画面に取り入れているので、そのイメージが強いが、内実は常磐津のような浄瑠璃的世界を夢見のように遊歩して生きて来られたような人であったかと思う。固有の美意識に生き、ぶれない特異な画風を築いた異能の人であった。

 

 

 

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