『個展 — 美術画廊Xにて』

28日から日本橋高島屋での個展が始まり、連日たくさんの方々が会場に見に来られている。あの暑い夏の日々をはさんだ4ヶ月間の制作の日々。今、想い起こせば夢の中にいたような気分である。現実を離れて「虚構」と「美」を紡いでいたそれらの日々、私は自分の幼年期の遠い時間の中に存在していた、実在した森の中に分け入って作品を作り出してきたように思われる。今回の個展では通常の4倍以上のオブジェを制作し、来場された方々から「美術館レベルの内容」あるいは「圧巻」といった評を頂き、今ようやく、作り終えた事の手応えを覚えている。

 

アトリエの中に先日まで在った数々のオブジェやコラージュ作品は全て個展会場へと移り、室内の空気がようやく軽くなった。……ふと思うのだが、私が長年作り出して来た版画・諸作(その数七千点以上)、そして三百点以上のオブジェ、また八百点以上のコラージュはもはや全てアトリエには無く、コレクターの人達のコレクションに入ってしまっている。手元に作品が全く残っていないという事は、作り出して来た作品への最大の批評であり、その意味でも私は作り手として、充分に幸福な表現者であるといえるであろう。確かな眼を持っているコレクターの人達に支えられながら、今、私の新たな個展は始まったばかりである。

 

 

 

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