『春の雪』

昨日、北関東地方を中心に大雨が降り、やがて雪となって、散り始めた桜の花びらの上に白く積もった。……いわゆる「春の雪」である。三島由紀夫の絶筆『豊饒の海』4部作の第1部のタイトルはまさしくその『春の雪』。輪廻転生・唯心論などを絡めたこの長編小説の序としては「春の雪」というイメ―ジは暗示的でたいそう美しいが、しかし、昨日、現実に降った春の雪は、気象の狂いを如実に示し、今夏の更なる気温の上昇を暗示してたいそう不気味極まるものがある。日々定まらない気象の変動で、私達の内面の疲労はそうとう疲れきっているに違いない。

 

さて、元号が「令和」というのに決まった。旧きを辿れば、嘉永、安政、万延、文久、元治、慶応と幕末には激しく入れ替わり、明治、大正、昭和、平成……と続き、この度の「令和」であるが、明治辺りから元号の響きが緩んで来たのに対し、この度の「令和」は、また聖武天皇の天平時代に戻ったような、今と馴染まない復古調となり、意味を砕けば、人々の間の最も大事な和を冷やすようで、いささか冷たく素っ気ない。……元号というのは例えるならば、夏休みが終わった9月の新学期の教室に突然現れた転校生のようなものに似て、ある日突然の感がある。最初は馴染まなかったであろう昭和や平成……。しかし、事情があって次の転校生と入れ替わりで遠くに去っていくのを知るや、たちまち感傷的になり、去っていく同窓生に「本当は、お前の中に俺の思い出がたっぷり入っているんだよ!」と、取って付けたような寂しさひとしおとなるのであるが、この度の「令和」は、かなりひんやりとしていて、あまり向こうからも打ち解けて来ないように思われる。担任は「まぁ、みんな、うまく付き合ってやってくれよ」と云うのであろうが、「令」の語感の冷たさには、それにしても他に無かったのかと、万葉集に詳しい、その学者さん達の、マニアックな知識は結構だが、肝心な言霊の受容センスの無さには、いささかの「おむずがり」も出ようというものである。

 

 

 

 

 

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