俳句の季語ではないが、稲川淳二といえば〈夏〉が定番となっている。先日その彼がTVで怪談話をやっていたので暑気払いのつもりで見た。しかし何故か恐怖感が湧いてこない。〈CMの後は、稲川淳二のとっておきの話『荷車』です〉とテロップが入った。荷車?——–どうせ、それに乗っていて亡くなった重症者の怨念が残って戦後に現れる話だろうと思っていたら、全くそのとおりであった。稲川淳二を囲んで怖がる若い女性たちも一応仕事はしていたが、いささかシラケている感じ。何故,昔ほど怖くないのかなと思っていたら、ハタと気がついた。それは〈事実は小説よりも奇なり〉を地で行く「現実」の方が怖くなっているからである。
最近ぞくぞくと出てくる高齢者の白骨死体。事件が1,2件だと、まあある話かと思うのだが、これがまさにぞくぞくと出てくるのだからあきれてしまう。まるでゾンビである。このような事態をまねいた原因は、プライバシー保護という法律の上に安具楽をかいた市役所職員の怠慢である。そしてそこを突いて(・・・これなら年金の不正受給が出来る!!)とふんだ家族達の、そう決めた時の一瞬の目の光は不気味である。ひょっとすると、まだまだいるのではあるまいか?このまま行くと、平均寿命の計算も実は随分と狂ってくるのでは・・・。ここにきて崩れて来た長寿国日本という幻想。しかし年金を受給したいという、その主たる理由で、一室を設けて腐敗した死体を寝かせているという家族達の歪んだ感覚は凄まじい。この現実を越えて人々を怖がらせるためには、稲川淳二も工夫が大変だと思う。下から顔に当てる照明も、もっと強くする必要があるだろう。長寿国日本の幻想は崩れ、今や超呪大国と化していく感さえある昨今。老後を保証された北欧では、絶対に起きない事件である。