国書刊行会

『じわじわと夏が・・・・』

暑いを通り越して、早くも酷暑の日々である。あきらかに地球全体の気象のリズムが温暖化によって狂いを呈している為に、私たちの遺伝子に組み込まれている〈夏〉に抗するプログラムは、かつてない異常な現象を前にして悲鳴をあげているようである。そのような中で、集中的にコラージュの制作をし、今はオブジェのそれに移っている。来春までに十近い数の個展が入っているので、その制作に専念の日々である。

 

さて、ここ数日にかけて私の作品を装画にした本が次々と刊行されてアトリエに届いた。『ガウス数論論文集』(ちくま学芸文庫)、『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)、『夜毎に石の橋の下で』(国書刊行会)。『ゴースト・ハント』は刊行してすぐに増刷が決まった由。この本と『夜毎に石の橋の下で』の装幀は、中島かほるさんである。中島さんとは、久世光彦氏との共著『死のある風景』(新潮社)以来ずいぶんと私の作品を装画化して、エレガントで高い美意識を映した装幀をされている。私は中島さんの感性が大好きで、いつも出来上がりを楽しみにしている。今回の二冊は版画と写真であるが、各々の異なったメチエへのこだわりを、各々の小説の主題と絡ませて浮彫りをするように眼前に立ち上がらせている。『ガウス数論論文集』の装幀をされた神田昇和氏は、このガウスのシリーズで私のオブジェが持つ秘めたメッセージを抽出し、ガウスの難解な定理や法則と通底するように、ミリ単位の見事なトリミングをされている。中島かほるさん、神田昇和氏、共に私が最も信頼している数少ない装幀家の方々である。

 

英国怪奇小説の最後の名手と評されるH・R・ウェイクフィールドによる『ゴースト・ハント』の18の短編はかなりリアルで凄まじいまでに怖い。暑気払いには最高である。『夜毎に石の橋の下で』は、ルドルフ二世時代の魔術都市ブラハが舞台の幻想小説である。海外での次の写真撮影の候補地として、パリ、上海、そしてプラハを考えていただけに、本が届いてからすぐに私はこの本に読み耽った。イメージの立ち上げとして私を導いてくれる面白さを多分にこの小説は持っている。ー 私はそう感じた。三冊各々にご興味のある方にはぜひ御一読を、お勧めしたい本である。

 

ガウス数論論文集

ゴースト・ハント

 

夜毎に石の橋の下で

 

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『「十蘭錬金術」刊行さる』

私のオブジェ作品を表紙の装画に使った久生十蘭の「十蘭錬金術」が河出文庫から刊行された。「十蘭万華鏡」「パノラマニア十蘭」「十蘭レトリカ」に続いて四冊目であり、全て私のオブジェを表紙に採用して異例の売行きであるという。特に今回の表紙は、本が届いた時に見て、デザイナーの山元伸子さんのレイアウトセンスが実に良く、間違いなく人気が出ると直感した。はたして、今回の本は刊行直後にして、既に文庫本全体の中から売行きの良い本のベスト5にランキングされており、一ヶ月に出る文庫本の新刊総数が200冊から300冊ある事を思えば、作品を提供した者として嬉しい限りである。唯、本の表紙を御覧になった方から、その作品を入手したいという問い合わせを今回も数件頂いたが、上記の四冊に採用されたオブジェは全て、コレクターや画廊のオーナーの個人コレクションに既に入っている為にお渡し出来ないのは残念である。版画と違って一点しか存在しないオリジナル作品のため、残念ではあるが、いたしかたのない事である。

 

今月から来月にかけて、上記の本以外に私の作品を表紙の装画にした本が続けて刊行される。筑摩書房、東京創元社、国書刊行会の三冊である。稀代の言葉の錬金術師 – 久生十蘭、そして難解な数学書(ガウス数論論文集)、ミステリーなど各々の異なった表現世界の表紙になる事で、私の作品世界が今一つの別な装いになる事は、作者としての秘かな興味がある。そして、書店というマスメディアを媒体として、その角度から私の作品の存在を知る人が更に増えてもらえれば、イメージを共有し合える関係がより確立し、広がっていくという意味において、お互いにとって良い事なのだと思う。ぶれない確とした美意識を持った「確かな眼」の持主は、まだまだ現実に存在している筈であると、私は確信している。

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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