以前のメッセージでもお話ししたが、拙著『美の侵犯ー蕪村X西洋美術』が求龍堂より今月の27日に刊行された。与謝蕪村の様々な俳句のイメージと、時空間を遠く隔てた様々な西洋美術の作品のイメージが完全に重なり合う事の不思議を30作づつ紹介しながら、驚くべき逸話や興味深い話を鏤(ちりば)めた内容になっている。
湿潤な叙情と余白の美を共に有しながらも、何故か蕪村の俳句のイメージと日本美術のそれには通い合うものがなく、不思議な事に西洋美術の中にそれがある事に気付いた時、正直、私は驚き、かつ興奮した。謎深いミステリーを解いていくような感興を覚えたのである。そしてそれを一冊の書としてまとめて世に出すべく、私はひたすら執筆に打ち込んだ。この内容は美術雑誌に連載の形で書き進めたが、連載当初から反響が大きく、やがて一冊の本になった時にあらためてまとめて読みたい内容!!との嬉しい感想を多く頂いていた。そして連載終了後に本として出したい旨を、複数の出版社から頂いていたが、私はこの内容に相応しい出版社から出したいという思いが強くあった。
この国の美術関連書の名著を戦前より数多く出している求龍堂からの刊行に決まったのは、正しい決断であったと思う。表紙のシャープな感覚、本文中の美しい印刷はさすがであり、この本の独自性を理解してくれている故の見事な造本となっている。今回のメッセージでは、表紙と5点の口絵を掲載するが、そこから蕪村の俳句と西洋美術の各々のイメージがピタリと照応している事の不思議を実感して頂けるかと思う。それに加えて、例えばゴッホについては、右利きの彼の死体のピストルの傷跡は頭や心臓ではなく、不可解な事に左脇腹から股の右側に達しており、ピストル自殺ならば必ず残る筈の硝煙の付着と火傷が全く無かったという事実、又、ガウディとダリは一度だけ不思議な出会いをしていたという知られざる事実、デュシャンが自らの作品に仕掛けた罠、そして、歴代の館の主が不自然な死を次々と遂げている、ヴェネチアに現存する館“ダリオ館”の秘密、また、コーネルの危ういまでの不気味な素顔など、今まで誰も言及し得なかった美術史の舞台裏とその分析を徹底的に書き記している。ご存知のとおり、私は表現世界において「語りえぬもの」の領域は、オブジェやコラージュそして版画を通して〈暗示〉の形で表現している。そして文章などの「語りえる」領域は、暗示ではなく徹底した言葉と理論の詰めを通して立ち上げている。かくして本書では、デュシャン、ルドン、マン・レイ、ダ・ヴィンチ、フェルメール、キリコ、ダリ、ゴッホ、ボス、エルンスト、クリムト、クレー、マチス……といった西洋美術の名作30篇(最新の書き下ろし3編を新たに加えて)が、ミステリアスで捕え難い蕪村の様々な俳句と共にイメージの不思議な競演を行っている。全国の書店及びアマゾンにおいても入手可能なので、ぜひ本書をご購入いただき、お読み頂ければと願っている次第である。
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