有楽町の国際フォーラムで開催中の「アートフェア東京」に行く。年ごとに質が落ちている展示内容はここに至って極まった感があり、どの画廊にも強い主張が無い。その中に在って画廊・中長小西だけは眼識の鋭さと理念の高さが、いぶし銀のように光っていたのが印象的であった。特にフォンタナと瀧口修造の作品が目を引いたが、各々の作り手における最も良質な作品を持っているのが、この画廊の凄みである。又、画廊の名前は失念したが、葛飾北斎の肉筆画を十点ばかり展示している画廊も目を引いた。北斎の『瀧を昇る鯉』の鯉の眼は、その眼差しの強度にアニマが在り、これは版画では表現し得ない深みである。この鯉の醒めた眼付きは北斎のそれと重なり、そこに私は北斎における一つのモダニズムへと通じるものを見てとった。
前回ご紹介した、21日にリニューアルオープンした「LIBRAIRIE 6」のオープニングへ行く。もの凄い数の来客で外にまで人が溢れていた。およそ三百人以上の来客数であったが、その数の多さからこの画廊に寄せられている関心の高さと、今後への更なる期待が伝わってくる。久しぶりにお会いする知人たちとの楽しい時間ではあったが、中でも四谷シモンさんと、仏文学者の巌谷國士氏とは本当に久しぶりである。シモンさんとは、どうしても先日急逝した金子國義氏の話になったが、金子氏自身、自分が知らぬ間にその生を終えた事は、実に私たちの死に方における理想の姿であり、金子氏は死に方においても自らの美学を貫いた名人であったという話で一致する。巌谷國士氏はシュルレアリスム関連の名著と、紀行文の優れた書き手で知られるが、この人は写真のセンスも良く、なかなかに上手い。実は私も氏の作品を一点所有しているのであるが、五月にスパンアートギャラリーで写真展を開催される由。氏とは撮影禁止の場所での隠し撮りの方法について話し合う。氏は学者肌の外見を利用して堂々と撮るが、その気に圧されてか全く注意されないと言う。逆にどう見ても怪しい私は、一瞬の隙を突く犯罪者のごときやり方である。…… その点が巌谷氏との大きな違いか。
健康者と違い、ごく初期のガン患者でも、その患い始めている時期の一滴の尿にのみ〈線虫〉が群がる事から、ガンの早期発見への大きな道が開けたという朗報が先日入って来たが、これはノーベル賞に値する程の発見であろう。(実にその発見精度は95%以上という)。しかし、これから臨床データの積み重ねなどで、実用化には10年以上はかかるという信じ難い遅さ。「LIBRAIRIE 6」のパーティーで、私はアンティークカメラを商う人と知り合いになったのであるが、「ひょっとしてあなたは精度の高い顕微鏡をお持ちではありませんか!?」と問うと。「持っています」との嬉しい返事。その方も、このガンの早期発見の方法については興味があり、実は線虫を入手出来るルートを私は知人から既に教えて頂いているので、近々に我々は自主的に早期ガンか否かのチェックを自分たちでしてみようという事になった。実はこの検査、素人でも自主的にチェック出来るという点でも画期的な方法なのであり、手遅れになりたくなく、好奇心が強い人なら誰でも容易に調べられるという点が魅力的である。しかし近々に私たちは、半分は興味本位でやってみる訳であるが、もし私の黄金のひとしずくに、線虫がもの凄い数で群がって来たとしたら、さぁ、どうしようか。 ……………