『20代の作品ばかり・・・』

今月の18日(土)まで、東京銀座にある番町画廊で、『北川健次 初期銅版画名作展』が開催されている。初日に会場を訪れた私は、価格を見て驚いてしまった。作品の価値が評価されているという事は作者として嬉しいことであるが、今や、最初の発表価格の十倍以上(作品によっては二十倍近い)に上っているのである。それでも駒井哲郎氏の死後に作品が高騰したのに比べれば未だ未だの観はあるかとも思う。私自身も手元にない作品が多かったが、二十代の頃に作った作品に囲まれていると、身の置き所がない何とも奇妙な感覚を覚えてしまう。この感覚は、古い日記を何十年ぶりかで開いて読んでいるのと似ているようなものである。前途不明な中で、一生懸命な自分の姿が思い出され、唯ひたすらに面映いのである。

 

その当時、ニューヨーク在住であった池田満寿夫氏から届いた手紙の中に、「あなたの作品は既に完成度の高みに達している。ゆえに作家として、より難しいことを自らに課している。」という一節があった。後年、私はその問題をオブジェや写真などの表現領域を広げる事で複眼的に解決していったが、その頃の私は、未だそれに気づいていない。そんな中での制作ぶりと、何日も徹夜しながら刷っていた自分の姿が思い出され、くすぐったいのである。だから画廊に見に来て頂きたい気持ちもあるのだが、恥部を見られるようでもあり、何とも複雑な展覧会なのである。

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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