密室論―サン・ラザールの着色された夜のために

日本で初めて銅版画に写真製版技法を導入した北川健次、初めての写真作品。
その独自の鋭い詩的感性と卓越した意匠性の新たな到達点。

 

 

 

写真とは何か?

この問いに答えるならば、例えば森山大道は「光と時間の化石」と記し、ロラン・バルトは「死のメチエ」という言葉を澱のように重ね、そして私は、「自身の内なるフェティシズムとの暗い照応」という言葉を、そっと付け加えるであろう。

 

1月12日午前、私がカメラのレンズを通して冬のパリを眺めた時、目の前を領していたのは光ではなく、重く閉ざしたメランコリーであった。少なからず私は焦った。外景を撮ることの無謀さを直感した私は、被写体をルーヴルの彫刻へと転じ、シャッターを押しまくった。ガラスを通して天井から差し込む光が硬い大理石に妖しく揺らぎ、瞬間、官能がフッと息を吐くように立ち上がる。それを撮る。まるで狩るように、さらに撮る。カメラという暗箱の中に次々と「時の結晶」を収めていくという行為はそれ自体がとてもセクシュアルであり、私は感覚を全開にして溺れるように浸っていった。

 

 

 

私の初めての写真の個展3月6日から26日まで。日本橋浜町のギャラリー・サンカイビにて開催される予定。タイトルはおそらく、『密室論――サン・ラザールの着色された夜のために』になるであろう。どのような展示になるのか全く見えていない分、自分でもたのしみである。

 

2008年2月16日 巴里日記IIより  北川健次

 

 

 

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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