Elementー回廊を逃れてゆくアポロニオスの円

新作銅板版画集によせて………

 

今回発表した版画集「Element ー 回廊を逃れゆくアポロニオスの円」のイメージの立ち上げは、先ずは具体的な物事を撮影することから始まった。「円と戯れる女、暗室の中の彫像、英国製のガラス細工、マヌカン、モナ・リザと覚しき女の肖像、円形の古鏡の前に立つ女、紐、———つまりは、オブッセショナルな円の変容(幾何学的構造の悪い夢……)。」

 

2,000枚近い光と陰の刻印が次第に重なり、遂には「回廊」という場所に集約され斑点するように版画の構造へと移っていった。会場に展示された十数枚の写真は、その過程における断片的な軌跡である。

 

 

 

 

版画にしか出来ない表現の可能性………


今回の版画集は八点の銅版画から成り立っている。私のうちなるオブセッションを、幾何学的図形に投影し、内なるイメージの深層を立ち上がらせてみようというのがテーマである。舞踊家をモデルとした実際の写真撮影から制作が始まり、私が今まで培ってきた方法論と対置させ、それらを等価値に取り込んで、八面体の幻視的な装置のように配置を試みてみた。

 

版画にしか出来ない表現の可能性の一つに「版画集」という存在がある。駒井哲郎や池田満寿夫といった60年代の版画の旗手たちの時代に比べ、昨今はこの可能性に挑戦しようとする作り手は少なくなってしまったが、私はこの実験性に満ちたスリリングな構造の中で「二次元のオブジェ」としての版画の意味を確立しようと思っている。

 

「版画集」……… それは私にとって限りない可能性を秘めた、詩想と謎を捕るための危うい装置なのである。

 

 

版画   二次元のオブジェの可能性を求めて………

 

今秋、パリの出版社から詩人のアルチュール・ランボーをモチーフとした美術作品について備考下研究書が『Le regard bleu d’Arthur Rimbaud』というタイトルで刊行されるが、その中に、私の版画集に収められた二点の銅版画も掲載されることになった。テクストの対象となる美術家は私の他に、ピカソ、ブラック、ジャコメッティ、マックス・エルンスト、ジャン・コクトー、メイプルソープといった個性的な人選であるが、刊行に併せて2008年3月まで美術館での刊行記念展も開催される予定になっている。

 

 

日本語版と同時に海外でもその質を問うべく版画集の英語版(および仏語版)を刊行してきたが、二年前に実現した、版画のイメージが舞台となったパリのパサージュでの実験的な展示に続き、今回のような形となって評価されてきている事は、版画集に独自な表現の可能性を求め続けている私にとって、さらなる意欲へと高まっていくものがある。

北川健次

 

 

Elementー回廊を逃れてゆくアポロニオスの円

新作版画展 2007 年   7月23日(月)~8月4日(土)ギャラリー オキュルス

 

 

 

 


 

カテゴリー: Event & News   パーマリンク

コメントは受け付けていません。

商品カテゴリー

北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
Web 展覧会
作品のある風景

問い合わせフォーム | 特定商取引に関する法律